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クロード視点 2
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私が先にここを出て、残されるキャスに動揺している様子があれば醜聞になるだろうから、と彼女を先に会場に戻るようにしたのだが、あまり意味はなかったようだった。
あのガーデンパーティからしばらくして、私とキャスの逢瀬が密々と語られるようになった。騎士訓練校の友人が噂になっていることを教えてくれたが、力のない男爵家の次男に対応策が練られるわけでも無く、下火になるのを祈るばかりだった。
キャスはコノーヴァー卿の婚約者が自分からグロリアに代わるだろうと言っていたが、どうなっているのか下男に心付けを渡してクレア家の様子を調べさせたところ、近々両家の会合があるらしい、と言うことだけは分かった。
彼女が辛く当たられていないか心配だったが、私が顔を出せば尚更彼女の立場が悪くなってしまうので、やはり私には気を揉むことしか出来なかった。
ともすれば散漫になりがちではあったが、訓練校での鍛錬に気を逸らさないように打ち込んでいた私に、しばらくしてコノーヴァー家とクレア家の婚約が解消になったという知らせが届いた。
私は実家の両親に連絡を取り近い将来、騎士爵を得たらキャスリーンに婚約を申し出たい旨を伝えた。
「お前がキャスリーン嬢を、憎からず思っていることは知っていた。だが、今すぐの申し込みは状況が悪すぎる。彼女とお前の不貞を問われることになる」父はそう言って、首を縦に振ってはくれなかった。
「内々の話だけでも通してはもらえませんか?」
「焦らなくても、コノーヴァー様の方に先に御縁が結ばれると思うわ」母がそう言って私を止めた。
「どうしてそんなことが分かるんです?」
「ちょっとしたゴシップがお茶会で出ているのよ。それを考えたらきっと、コノーヴァー様の方にはもうお話がついてるんじゃないかしら。貴方はキャスリーン嬢を妻に、とか言う前に騎士爵をまずモノにしなさいな」どうやら、母は何らかの情報を掴んでいるらしかったが、教えてはくれなかった。
「……分かりました……」不本意ながらも私は、生活の基盤を整える方を優先することにしたのでした。
なんとか騎士団への就職が決まり騎士爵を取ることが確実となったその頃、コノーヴァー家とオズボーン侯爵家の婚約が発表された。母の言っていたゴシップとは、オズボーン侯爵家の令嬢が離縁となって出戻ったことらしかった。それこそ内々にジェイムズ卿と出戻りの令嬢との縁談が結ばれたのだろう。
それはともかく、今度こそキャスへの求婚について両親と話しあいクレア家に申し込む運びとなった。
あのガーデンパーティの日二人で眺めた華やかなピオニーを、小さなブーケにしてプロポーズした時のキャスリーンの愛らしさは、一生忘れないだろう。
私とキャスは、こうして幼い頃願った未来を手に入れたのだった。
まだ社交界で風当たりの強いクレア家において、その原因となったキャスは、自分が先に幸せになることを後ろめたい気持ちでいたようだったが、これに関しては両家共に、私と結婚して社交から距離を取った方が良いだろう、との意見が一致した。
グロリアとキャスが一緒にいて、いつまでも噂の元になるよりは、キャスだけでもそこから離れる方がなんとかなるだろうと。思えば私たちは皆、グロリアに過剰に期待していたのだろう。
降るほどあった縁談は気がつけば、その年でまだ独身だったも仕方ない、と思うような難ありでかなり年上の子爵からのものだけになっていた。
クレア子爵も伝手を探しているようだったが、子爵家自体が評判を落としていた為難航していた。
最終的にグロリアも覚悟を決めたらしく件の子爵と、連れ立って夜会に出席したようだった。お付き合いをしてみたら意外にも良い人かもしれない、という僅かな希望を抱いて。
何がどうしてそうなったのか全くわからないが、グロリアは訳あり子爵と出席した夜会で破談となり、流れるように侯爵家の嫡男と知り合って婚約の申し込みを受けたらしい。
クレア家とは何かと因縁のあったジェイムズ・コノーヴァー様が、直々に婚約の申し込みの仲立ちとして子爵家に来られたそうだ。
グロリアと婚約されたイーサン・ギネス侯爵令息は、王国の交通網をその手にされている裕福な家の方で、社交界の最後の有力な独身男性として有名だった。
「グロリアの姉夫婦なのだから、これからは誼を結びたいものだ」とイーサン卿がおっしゃったのを受けて、「いえ、私どもはこれから一騎士爵家の身でございますれば、そのままご放念下さいませ」と私は答えた。
イーサン卿は一瞬、意外だという顔をしていらしたが、すぐに表情を作って頷いておられた。
クレア子爵夫妻にグロリアも、どういうことかと問い質してきた。私はキャスと目を合わせ、二人で話し合った事を語った。
「私たちはこれから貴族ではなく、騎士とその妻として身を立てます。以前の婚約解消のこともあって家族に悪影響を及ぼしたこともあります。更にグロリアとは身分の違いも大きくなりましょう。私たちは社交界から離れていたほうが何かと良いかと存じます」
「……そんな、お姉様」とグロリアはキャスに縋るように話し掛けたが、キャスの優しげな目と彼女の肩を撫でる手つきに、グロリアも私達の意思の固さを感じたようだった。
イーサン卿とグロリアの結婚式を最後に、私とキャスはクレア子爵家、そして社交界と距離を置くこととなった。
「グロリアは綺麗だったわね」キャスが嬉しそうに帰宅途中の馬車の中で言った。
式に出席するために精一杯着飾ったキャスもすごく綺麗だと言ったら、彼女はきっと赤くなって照れ隠しに怒るんだろうなと考えていた。
つい、思っていたことがするりと口から出てしまった。
「もう、クロードったら」とやはり頬を赤く染めたキャスが私の肩を叩いたのだった。
これから二人で、誰かをはばかること無く平凡に幸せに暮らそう。馬車の中は、私たちの笑い声と希望で満ちていた。
あのガーデンパーティからしばらくして、私とキャスの逢瀬が密々と語られるようになった。騎士訓練校の友人が噂になっていることを教えてくれたが、力のない男爵家の次男に対応策が練られるわけでも無く、下火になるのを祈るばかりだった。
キャスはコノーヴァー卿の婚約者が自分からグロリアに代わるだろうと言っていたが、どうなっているのか下男に心付けを渡してクレア家の様子を調べさせたところ、近々両家の会合があるらしい、と言うことだけは分かった。
彼女が辛く当たられていないか心配だったが、私が顔を出せば尚更彼女の立場が悪くなってしまうので、やはり私には気を揉むことしか出来なかった。
ともすれば散漫になりがちではあったが、訓練校での鍛錬に気を逸らさないように打ち込んでいた私に、しばらくしてコノーヴァー家とクレア家の婚約が解消になったという知らせが届いた。
私は実家の両親に連絡を取り近い将来、騎士爵を得たらキャスリーンに婚約を申し出たい旨を伝えた。
「お前がキャスリーン嬢を、憎からず思っていることは知っていた。だが、今すぐの申し込みは状況が悪すぎる。彼女とお前の不貞を問われることになる」父はそう言って、首を縦に振ってはくれなかった。
「内々の話だけでも通してはもらえませんか?」
「焦らなくても、コノーヴァー様の方に先に御縁が結ばれると思うわ」母がそう言って私を止めた。
「どうしてそんなことが分かるんです?」
「ちょっとしたゴシップがお茶会で出ているのよ。それを考えたらきっと、コノーヴァー様の方にはもうお話がついてるんじゃないかしら。貴方はキャスリーン嬢を妻に、とか言う前に騎士爵をまずモノにしなさいな」どうやら、母は何らかの情報を掴んでいるらしかったが、教えてはくれなかった。
「……分かりました……」不本意ながらも私は、生活の基盤を整える方を優先することにしたのでした。
なんとか騎士団への就職が決まり騎士爵を取ることが確実となったその頃、コノーヴァー家とオズボーン侯爵家の婚約が発表された。母の言っていたゴシップとは、オズボーン侯爵家の令嬢が離縁となって出戻ったことらしかった。それこそ内々にジェイムズ卿と出戻りの令嬢との縁談が結ばれたのだろう。
それはともかく、今度こそキャスへの求婚について両親と話しあいクレア家に申し込む運びとなった。
あのガーデンパーティの日二人で眺めた華やかなピオニーを、小さなブーケにしてプロポーズした時のキャスリーンの愛らしさは、一生忘れないだろう。
私とキャスは、こうして幼い頃願った未来を手に入れたのだった。
まだ社交界で風当たりの強いクレア家において、その原因となったキャスは、自分が先に幸せになることを後ろめたい気持ちでいたようだったが、これに関しては両家共に、私と結婚して社交から距離を取った方が良いだろう、との意見が一致した。
グロリアとキャスが一緒にいて、いつまでも噂の元になるよりは、キャスだけでもそこから離れる方がなんとかなるだろうと。思えば私たちは皆、グロリアに過剰に期待していたのだろう。
降るほどあった縁談は気がつけば、その年でまだ独身だったも仕方ない、と思うような難ありでかなり年上の子爵からのものだけになっていた。
クレア子爵も伝手を探しているようだったが、子爵家自体が評判を落としていた為難航していた。
最終的にグロリアも覚悟を決めたらしく件の子爵と、連れ立って夜会に出席したようだった。お付き合いをしてみたら意外にも良い人かもしれない、という僅かな希望を抱いて。
何がどうしてそうなったのか全くわからないが、グロリアは訳あり子爵と出席した夜会で破談となり、流れるように侯爵家の嫡男と知り合って婚約の申し込みを受けたらしい。
クレア家とは何かと因縁のあったジェイムズ・コノーヴァー様が、直々に婚約の申し込みの仲立ちとして子爵家に来られたそうだ。
グロリアと婚約されたイーサン・ギネス侯爵令息は、王国の交通網をその手にされている裕福な家の方で、社交界の最後の有力な独身男性として有名だった。
「グロリアの姉夫婦なのだから、これからは誼を結びたいものだ」とイーサン卿がおっしゃったのを受けて、「いえ、私どもはこれから一騎士爵家の身でございますれば、そのままご放念下さいませ」と私は答えた。
イーサン卿は一瞬、意外だという顔をしていらしたが、すぐに表情を作って頷いておられた。
クレア子爵夫妻にグロリアも、どういうことかと問い質してきた。私はキャスと目を合わせ、二人で話し合った事を語った。
「私たちはこれから貴族ではなく、騎士とその妻として身を立てます。以前の婚約解消のこともあって家族に悪影響を及ぼしたこともあります。更にグロリアとは身分の違いも大きくなりましょう。私たちは社交界から離れていたほうが何かと良いかと存じます」
「……そんな、お姉様」とグロリアはキャスに縋るように話し掛けたが、キャスの優しげな目と彼女の肩を撫でる手つきに、グロリアも私達の意思の固さを感じたようだった。
イーサン卿とグロリアの結婚式を最後に、私とキャスはクレア子爵家、そして社交界と距離を置くこととなった。
「グロリアは綺麗だったわね」キャスが嬉しそうに帰宅途中の馬車の中で言った。
式に出席するために精一杯着飾ったキャスもすごく綺麗だと言ったら、彼女はきっと赤くなって照れ隠しに怒るんだろうなと考えていた。
つい、思っていたことがするりと口から出てしまった。
「もう、クロードったら」とやはり頬を赤く染めたキャスが私の肩を叩いたのだった。
これから二人で、誰かをはばかること無く平凡に幸せに暮らそう。馬車の中は、私たちの笑い声と希望で満ちていた。
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