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コントローラー・カーネーション・サハラ砂漠

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 コントローラーを片手に戸惑ってしまった。モニターは真っ暗、特に悪さをした覚えなどないのだけれど。どうすれば直るのだろうかとしばらく見守ってみる。一昔前はこういうことも多かったのだと祖父が言っていた。ゲームをすれば止まるのは当たり前。いかにゲーム機を動かさないで遊び切るか。それがゲームみたいだったとも言っていた。

 しかし、それは昔の話だ。今この時代にゲーム機が止まるなんて、壊れたに等しい。じっさい、どうしていいか分からなくて止まってしまった。電源は入っているのか駆動音はする。一回コンセントを抜いてしまおうか。いや、それで壊れることもあると聞いた。余計なことをせずに放置しておいた方が良いのか。

 こんな時に真っ先に質問していた祖父はもういない。施設に入れてしまった。介護する時間も取れなくなったからと、両親も私も祖父自身も同意の元だったのだけれど、こう言うときに困るんだなぁと、ちょっとだけ後悔する。

 この間、様子を見に行った時はまだまだ元気そうだったし、新しい友達が出来たと喜んでいた。それは祖父にとって良かったことなのだろう。少なくとも孫にゲームの質問をされ、ぐちぐちと介護をされるよりかは。

 壊れてしまったらどうしようか。新しいものを母にねだろうか。そういえばそろそろ母の日だ。ガーネットのひとつでもプレゼントしたらわがままのひとつくらい聞いてもらえそうな気もする。

 思い切って、コンセントを抜くことにする。

 ドキドキしてきた。いつだって人はやったことがないことをするのには勇気がいる。これは乗り越えなくてならない壁なのだ。これを乗り越えなくては次の時代はやってこない。壊れなかった続きから遊べる、壊れたら新しいゲーム機を買ってもらえる。なんなら新型機がいい。最近出たばかりと話題になっていたのを思い出して、勇気が出てくる。

 えいっ。

 何も考えずに無心でコンセントを引き抜いた。自分の中で新しい世界が開かれた気もする。

 駆動音もとまり、おそるおそるもう一度コンセントを差して見る。

 駆動音ともに、ゲーム機が動き出したのが分かって、モニターを見つめる。しかし、なにも起きず真っ暗なままだ。やっぱり壊れてしまったのか。

 サハラ砂漠を舞台としたゲームを入手したばかりなのに。やっぱり砂をひとつひとつ再現した。なんて謳い文句に釣られたのがいけなかったのか。

 前評判でも話題だったものな。処理落ち、バグだらけ、ゲームが止まる。低評価のオンパレードだった。でも、みたいじゃんサハラ砂漠。体験したいじゃん、行ったことのない世界。それがゲームの醍醐味ってもんでしょ。

 とりあえずカーネーションを母に買う前に祖父に連絡をしよう。こんなことで連絡してくるなと文句を言うかもしれないが、それが楽しみでもあると両親が言っていたのを思い出す。

 ほんとは一緒にサハラ砂漠に行きたかったのだけれど。

 はぁ。

 真っ暗なモニターを見ている限りそれは無理そうだった。
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