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消しゴムはんこ・砂嵐・指揮者
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ずっとなにやら作業をしている妹の背中は丸まっている。自室があるのにも関わらずわざわざリビングでやる意味はなに?
なにやってると何も考えずに声をかけたのは数年前までだ。正確には二年前。妹が高校生に上がるまでの話。それまではお互いに隠し事もなくてなんでもないことの話をして笑いあっていたのに。
しかし、何をしているのだ。気が付かれないように後ろから覗き込むが、すっかり自分と同じくらいの大きさになった妹の背中が邪魔をしてなかなか見えてこない。
「なに?」
さすがに覗き込み過ぎたて気が付かれてしまった。
「えと。なにしてるのかなって」
「ん」
自分でも見ろってことか、妹は身体をどかしてくれた。そこにはデザインナイフにカッターマット、それと大量の消しゴムの欠片。そしてその本体である消しゴム。その消しゴムは猫の形に彫られている。
「もしかして消しゴムはんこ?」
こくりと妹は頷いた。
「なんで消しゴムハンコ?」
「いや、だって。暇だったから」
そう言って妹はリモコンを手にしるとテレビの電源を入れる。そこには砂嵐だけが映し出された画面。あれ? テレビ壊れちゃったの? 今日は見たい番組があったのに。
「直るのそれ?」
「分かんない。母さんは斜め四十五度にたたけば直るって言ってた」
確かにそんなことを言っていた気がする。けれど実際にそんなことをする勇気はだれにもない。父を怒らせたら一番怖いことを誰もが知っているからだ。
「やってよ」
「やだよ」
「見たい番組があるの」
「私もあるけど。我慢してる」
「我慢じゃなくて怒られるのが嫌なだけでしょ」
「それはそう。だからやらない。代わりにやって」
「いやよ。怒られたくないもの」
そんな感じでは話はまるで先に進まない。
「あきらめよ」
「それがいい。ほら。消しゴムハンコ一緒につくる?」
気は進まないけれど、やることがない。それもアリかなと思う。久しぶりに妹の隣に座るかもしれない。そう変な意識をしてしまったら妙に気恥しい。なんだこれは。
「はい。これ」
「ね。デザインナイフかしてよ」
手のひらサイズの消しゴムを手渡されたけれど、削るものがなくて妹にねだる。
「いやよ。ひとつしかないんだもん。授業で使った彫刻刀でも持ってきてよ」
「彫刻刀なんていつの話よ。とっくにどこかへ行ってしまったわ」
「そっ。残念」
自分から誘っておいてそっけなさ過ぎやしないか。
「ちぇ。もういいわよ。見てるから続けて」
それに対しての返事はなかった。ただ黙々と作業を再開する。そして、その動きはとても器用に思えるものだった。はぁ。妹の意外な才能を発見した。全く知らなかったぞ妹よ。
「家の主人が帰ったぞー」
そうしているうちに父がご機嫌で帰宅している。鼻歌交じりのそれはすでにいくらか吞んでいるのが分かる。実際入ってきた父は指揮者のように腕を振り回している。
「おっ。なんだ、テレビが壊れてるじゃないか。これくらい自分たちで直せないとならんぞ。これはこうやってだな」
テレビの上部を斜め四十五度で奇麗にチョップを決めた。
あっ。映った。この後の歌番組に間に合った。そう喜んだのもつかの間。父はすぐに野球中継とチャンネルを回す。文句を言いたいところだけれど、家の主にチャンネル権をは与えられている。まったく、こんなんなら遅く帰ってきてくれた方がましだとすら思う。まあ、どちらにせよ帰ってこなかったらテレビは観れなかったのだから結果はおんなじか。
「はぁ。結局こうなるんだもな。いやになっちゃう」
「ほんと、いやになっちゃうよね」
妹と同時に出た、ため息がなにやらおかしくて互いに顔を見合わせて笑いあった。
なにやってると何も考えずに声をかけたのは数年前までだ。正確には二年前。妹が高校生に上がるまでの話。それまではお互いに隠し事もなくてなんでもないことの話をして笑いあっていたのに。
しかし、何をしているのだ。気が付かれないように後ろから覗き込むが、すっかり自分と同じくらいの大きさになった妹の背中が邪魔をしてなかなか見えてこない。
「なに?」
さすがに覗き込み過ぎたて気が付かれてしまった。
「えと。なにしてるのかなって」
「ん」
自分でも見ろってことか、妹は身体をどかしてくれた。そこにはデザインナイフにカッターマット、それと大量の消しゴムの欠片。そしてその本体である消しゴム。その消しゴムは猫の形に彫られている。
「もしかして消しゴムはんこ?」
こくりと妹は頷いた。
「なんで消しゴムハンコ?」
「いや、だって。暇だったから」
そう言って妹はリモコンを手にしるとテレビの電源を入れる。そこには砂嵐だけが映し出された画面。あれ? テレビ壊れちゃったの? 今日は見たい番組があったのに。
「直るのそれ?」
「分かんない。母さんは斜め四十五度にたたけば直るって言ってた」
確かにそんなことを言っていた気がする。けれど実際にそんなことをする勇気はだれにもない。父を怒らせたら一番怖いことを誰もが知っているからだ。
「やってよ」
「やだよ」
「見たい番組があるの」
「私もあるけど。我慢してる」
「我慢じゃなくて怒られるのが嫌なだけでしょ」
「それはそう。だからやらない。代わりにやって」
「いやよ。怒られたくないもの」
そんな感じでは話はまるで先に進まない。
「あきらめよ」
「それがいい。ほら。消しゴムハンコ一緒につくる?」
気は進まないけれど、やることがない。それもアリかなと思う。久しぶりに妹の隣に座るかもしれない。そう変な意識をしてしまったら妙に気恥しい。なんだこれは。
「はい。これ」
「ね。デザインナイフかしてよ」
手のひらサイズの消しゴムを手渡されたけれど、削るものがなくて妹にねだる。
「いやよ。ひとつしかないんだもん。授業で使った彫刻刀でも持ってきてよ」
「彫刻刀なんていつの話よ。とっくにどこかへ行ってしまったわ」
「そっ。残念」
自分から誘っておいてそっけなさ過ぎやしないか。
「ちぇ。もういいわよ。見てるから続けて」
それに対しての返事はなかった。ただ黙々と作業を再開する。そして、その動きはとても器用に思えるものだった。はぁ。妹の意外な才能を発見した。全く知らなかったぞ妹よ。
「家の主人が帰ったぞー」
そうしているうちに父がご機嫌で帰宅している。鼻歌交じりのそれはすでにいくらか吞んでいるのが分かる。実際入ってきた父は指揮者のように腕を振り回している。
「おっ。なんだ、テレビが壊れてるじゃないか。これくらい自分たちで直せないとならんぞ。これはこうやってだな」
テレビの上部を斜め四十五度で奇麗にチョップを決めた。
あっ。映った。この後の歌番組に間に合った。そう喜んだのもつかの間。父はすぐに野球中継とチャンネルを回す。文句を言いたいところだけれど、家の主にチャンネル権をは与えられている。まったく、こんなんなら遅く帰ってきてくれた方がましだとすら思う。まあ、どちらにせよ帰ってこなかったらテレビは観れなかったのだから結果はおんなじか。
「はぁ。結局こうなるんだもな。いやになっちゃう」
「ほんと、いやになっちゃうよね」
妹と同時に出た、ため息がなにやらおかしくて互いに顔を見合わせて笑いあった。
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