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部族・白い粉・赤いロウソク

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 家に帰って電気をつけるなり白い粉が床に散らばっているのを見つけて、侵入者の存在を疑って思わず声も出なくなった。

 鍵はちゃんと閉まっていた。疲れたまっていたり、いつもの動作過ぎて意識して開けていないからちょっとだけ不安もあったけれど、しっかりと思い出せた。

 足音ひとつも怖くなって部屋をぐるりと見渡す。ワンルームだ。物も少ないし、隠れるところなんて押し入れかトイレか、お風呂か。それくらいしかない。そもそもこの白い粉はなんだ? ものは少なくしている。そもそも家にいる時間が少ないのだから自然とそうなる。そうなれば、粉類なんて開封をしてしまえば保存も効かないものをストックしているはずもなくて、それがなんなのか見当もつかない。

 もしかして怪しいもの? だったらいるかもしれない侵入者はよっぽどやばい人間ってことになる。自分の家だけれど、今すぐ出ていったほうがいいんじゃないか。そのまま交番に飛び込んだほうが良いなじゃないかなんて考えが巡る。

 でも気になるし、ちょっとだけ確認を。

 そうかがみながら白い粉へと近づいていく。近くまで行って気づくのだ。どうやってこの粉がなんなのかを判断すれば良いのか知らない。それは当然なこと。そんなことを頭から抜けてしまうほど冷静ではないのだ。

 ガタッ。背後から物音がして慌てて振り返ろうとして、変な姿勢をしていからか態勢を崩して転んでしまう。

 玄関から誰かが飛び出していくのが見えた。やっぱりトイレに隠れていたのか。追いかけたほうが良いのかと思ったが、東南アジアのどこかの部族を彷彿とさせる格好をしているように見え、転んでいたのもあって身体が硬直してしまった。

 誰とかじゃない。あれはなんだ。近づかないほうがきっといい。

 そう判断して慌ててドアを締めて鍵もかけた。

 ホッとしたのもつかの間、身体中に白い粉がついているのを見つけて慌てて払い落とす。手に残った白い粉をじっと見つめてみるがやっぱりなんだか分からない。

 その時だ、視界が真っ暗になった。窓から若干光が差し込んでいるのを確認する。停電? 

 しばらく待っても復旧する気配がない。どこかに赤いロウソクがあったはずだ。手探りで部屋の中を這いずりながら動き始める。すると……。

 ガタッ。先程とおなじような音がして身体が硬直する。

 もしかしてもうひとりいた?

 考えが及ばなかった。それは確か。鍵も閉めてしまって、向こうも逃げるに逃げられなくなっているのだ。

 知らない部族と部屋にふたりきり。電気がしばらく復旧しなければいいなと心底思った。
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