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金縛り・ヒップホップ・霊に取り憑く霊

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 きっと今は夜中だと思うくらい辺りは真っ暗。寝ているので天井が見えるはずなんだけど、真っ暗な空間にしか思えない。この前、遮光カーテンに変えたからこんなに暗いのか。少しくらい、月や街の明かりが差し込んでいてもおかしくないはずなんだが……。

 そこまで考えて、身体がピクリとも動かないことに気がつく。指ひとつ動かない。もちろん寝返りも身体を起こすこともできやしない。

 これって金縛りか?

 これまでそんな体験をしたことはなかった。体験話を聞いたことはたくさんあったけれど、自分には無関係だとばかり思っていた。

 それが今やどうだ。金縛りで自分がどうなっているかも分からない状況に恐怖を覚え始める。

 金縛りってどうすれば開放されるんだろう。不安に思いながらもどうしようもない状況。そんな状況で暗闇の中で何かが目の前を通り過ぎた。

 驚いて身体が跳ねたいと動こうとして動かない。その感じが、なにかに押さえつけられている気がして他人の意志を感じて辺りを見渡したい衝動に駆られる。

 視線を動かす。白いなにかが隣に立っていた。ぼんやりとしか見えないが人の形をしている。

 えっ。

 これって幽霊ってこと? それに急に視線が動かせるようになったのも気になる。まるで幽霊のことを見てくれと言わんばかりのタイミングだ。そしてその白い影は段々と近づいてくる。その影がだんだんと人の形になっていく。

 動けないことがこんなに怖いだなんて想像できなかった。これまで金縛りを経験してきた人たちに謝りたいと思った。

 女性。髪の長い。まるでテンプレートみたいな幽霊像。

 恐怖のあまりまぶたを閉じたいのだけれど、それすらも許されない。悲鳴をあげたいけどあげられない。心が張り裂けそう。

 するとズンズンと曲が流れ始める。よく聞くヒップホップだ。アラーム設定をしていた覚えはない。スマホから流れ出しているのだろうか。そんなことを考える間にも幽霊は近づいてきている。その後ろにきらりと光るものが見えた。

 知ってる。今流れている曲を歌っている。アーティストだ。そして同時にゾッとする。だって彼はもう亡くなっているはずなのだ。そしたら彼も幽霊ってことじゃないか。ふたりの幽霊。金縛りの自分。どうすることもできずにただただ恐怖することしか出来ない。

 すると最初に現れてた女性の幽霊が振り向いたように見え。暴れ始めた。それをアーティストが覆いかぶさるように飛びついた。

 なにが起きたのか理解できない。視界の中で幽霊が暴れている。スッと動きが止まった。

 すると女性の幽霊が離れていく。その後ろにアーティストだ。まるでアーティストが女性を操っているようにも見える。霊に取り憑く霊みたいにだ。

 するとアーティストが後ろ向きで手を軽くあげて。まるで気にするなと言っているみたいに思えた。
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