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新種・ペルシャ・寄付

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「これって新種なんですか?」

 ペットショップにいた一匹の猫に目が止まって近くにいたスタッフさんに声を掛けてみた。

 猫に新種が誕生したなんてニュースは聞いたことがなかったので。自分で質問していて間抜けな話だと思うけれど。見たことがない種だったのだから仕方がない。ペルシャ猫にも見えるけど。毛が少し短めな感じがする。柔らかそうなのは知ってるペルシャ猫と一緒だけれど、あまり丸くなっていない。シュッとして見えるのだ。

「ええ。その子は特別でして。ほかにも類を見ない珍しい品種なんですよ」

 やっぱりそうなのか。自信はなかったけれど話が繋がってしまったみたいだ。

「へー。珍しんですね」
「ええ。それはもう。みなさん喉から手が出るほど欲しがっているものなんですよ」

 そうであればひとつ疑問が浮かぶ。

「そんなに珍しいのに、残ってるんですね? どうしてですか」

 そんなに特別な品種なのであれば引き取りても多いハズだ。それなのに、この子はもう割と大きくなってしまっている。子猫の頃に引き取ってもらえなかったのだろう。けどその理由がさっぱり分からない。

「いえ。そのちょっとだけこの子がわがままでして。懐かないんですよね」

 懐かない? 視線を猫へと移す。たしかに愛想はよくない。こちらを一瞥してすくぐすさま視線をさらされる。確かにそうかも知れない。

「よかったら手を伸ばしてもらえませんか?」
「えっ。まあ。それくらいならいいですよ」

 猫に向かって手を伸ばす。その手の上に猫は顎を乗せてきた。あれ? 話が違う。懐かないんじゃないのか。

「おおっ。お客さま。ほんと珍しいです。この子がそんなことをするなんて。相当相性バッチリなんじゃないでしょうか」

 急に調子のいいことを言ってきたスタッフさんに若干の不信感を抱きつつも。猫のその行動は素直に可愛くて心惹かれていく。

「そうですかね」
「そうですとも」

 お前うちに来るか? そう目線で送ると。目が合った気がした。

「分かりました。これもなにかの運命です。この子にします」
「おお。ありがとうございます。つきましてはこのには寄付金が必要でして。ある程度寄付をしていただきたいのです」
「寄付ですか?」
「ええ。大変珍しい種ですので。研究機関への寄付をお願いしているのです」

 初耳だけれど。そういうこともあるのか。金額を聞いたところ大した額ではなかったのでそれを踏まえてこの子に決めた。

 それなのに。

 こんなに大きくなるなんて聞いていない。これじゃ猫じゃないじゃないかそう、ペットショップに文句を言いたかったけれど、あまりにも懐いてしまった猫を前にしてそんなことをいえるはずもなかった。

 もしかして最初から猫の手のひらで踊っていただけなのかと、ちょっとだけ頭をよぎった。
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