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物語の騎士
「ねえ。こっちこっち!」
サリアに手を引っ張られれながらアリアはいつもの道を駆け足で走り抜ける。
おひさまも登りきった頃。日差しが村を照らし木々に栄養を与えている時間帯。それは朝の作業を一通り終えなければならない頃でもある。今日も慌ただしかったと小休憩をするその時間。いつもの場所で村のみんなに隠れて本を読むのがアリアたちの日課だ。
いつもの場所で背中を預けるのは大きな樹だ。村の象徴でもある一本だけ大きく伸びたその根っこは張り詰めたふととももをほぐすのにちょうどいい高さにあり、年月を感じさせる幹はアリアたちの日々の仕事である前かがみの作業をもとに戻すのにちょうどいい背もたれ。
空を見上げれば大樹から伸びた枝葉は辺りに影を落とし、日差しを薄めている。大樹のてっぺんは見えたりはしない。あまりに大きすぎるのだ。それは遠く離れた町からも見えるほどに大きいらしい。村から出たとがないアリアには想像もできない景色なのだ。
そして人はあまりこの大樹まではやってこない。人がここに集まるのは年に一度のお祭りの時くらい。
お祭りは大きなこの樹を奉り、一年の安寧を祈る。村の若い娘たちが特別な服を着て舞踊り、男たちは打楽器を大樹のてっぺんまで届くほどに叩きならす。
ただそれはもうちょっと先の季節だ。今は人どころか魔物の気配すらしない平穏な場所。
「カタリナも随分と大きくなったね」
そうだね。そうあんまり興味がなさそうなサリアもお祭りのときは駆り出される。それはアリアも一緒だ。
変わりに根っこを隠すように隙間から伸びているのはカタリナと呼ばれる花だ。一年をかけてアリアの背丈の半分ほど成長しているその草はもうしばらくすると花を咲かせる。
ピンク色の花は花弁がコップの形をになり空からの贈り物を受け止めるかのように構えている。
そうなると祭りの準備をし始める時期だ。あたりに休憩所を設営し、村に一年をかけて集めた果実を盛り付けして祭壇にする。そして一晩中大騒ぎするのだ。そうしているとカタリナの花が徐々に頭《こうべ》を垂れ下げ始める。
そうすると中から熟成された雫が地面へと落ちる。それがこの大樹にとっての大事な栄養になっている。そしてそれは同時に村にとっても大事なものでもある。
それは薬のもとになったり、農作物の肥料となったり、お茶などに垂らして日々の栄養源になったりもする。
だからこの大樹もお祭りもカタリナの花も村の生活に密接な関係にあるのだ。故に何かあってはいけないとこのあたりは普段は立入禁止。たまに村長が様子をみに来るくらい。ゆっくりするのにはちょうどいい。
サリアと一緒にドスンと根に腰を下ろすと持ってきた本を開く。何度も読んでいる本だ。
はるか昔の話。
この世界にもっと魔物が溢れかえっており、国も統一されておらず争いも各地で行われていた時代。
ひとつの騎士団があった。出陣すればその噂は大地の果まで轟き、守りに徹すればどんな強大な力であっても突破できない。
街を包み込むほどの巨大なドラゴンだって、死靈の大群だってその騎士団に敵いやしない。
その騎士団を率いるのが若き騎士団長。すべての攻撃を弾き返す白銀の鎧に切れない物はないとされる聖なる剣。そして率いる優秀な団員たち。そんな彼らの活躍を綴った冒険譚。
内容も覚えてしまっているが何度読んだって心が躍る。
「ほら。早く読もう」サリアは毎回そうやってアリアを急かす。
読むのはアリアの当番だ。サリアは瞳を閉じて物語の世界に入り込む準備を終えている。その様子がおかしくてアリアは思わず微笑んでしまう。
姉妹の様に育てられたサリアはアリアにとって妹のような存在だ。17歳のアリアに対してサリアは13才。わがままを聞くのも役割のひとつ。
「はいはい。わかったわかった」
今日は読み始めるのは昨日の続き、それも物語の終盤。クライマックスだ。
「騎士団長はその身を捧げるためにひとり歩みを進めます。そこは誰もいない僻地です。本来であれば団員を引き連れて訪れる場所。でも、騎士団長はひとりで行かねばなりません。そこに大事な役割が待っているからです。それは騎士団長にしかできない役割。魔族が現れる源である魔穴《まけつ》の封印。命をかけて行う儀式。騎士団長は魔穴に身を投げだしました。すると黒い穴だった魔穴から光が漏れ出します。それは太陽のようであり、誰も直視することはできない光です。その光からは魔穴を覆い徐々に空へと伸びる光の柱となりました。それは長い時間をかけて大きな樹になりました。それは騎士団長の墓標であり平和の象徴。今もその樹はどこかで世界を見守り続けているのです。あれ? サリア? 寝ちゃったの」
「起きてるよ。アリアの声が心地いいから癒されてた」
そう言って昼寝を始める。いつものことだ。アリアはそれを咎めるようなこともしない。世界は平和なのだ。たまに現れる魔物も村のみんなで協力すれば追っ払うことが出来るし、いざとなったら近くの都市から騎士団を呼べばいい。
物語の中のように戦い続けなければゆっくりもできない様な時代は終わったのだ。
だから、その存在が近くに来るまでサリアもアリアも油断していた。いつもの日常とそう変化がないのだと。疑っていなかったから。
サリアに手を引っ張られれながらアリアはいつもの道を駆け足で走り抜ける。
おひさまも登りきった頃。日差しが村を照らし木々に栄養を与えている時間帯。それは朝の作業を一通り終えなければならない頃でもある。今日も慌ただしかったと小休憩をするその時間。いつもの場所で村のみんなに隠れて本を読むのがアリアたちの日課だ。
いつもの場所で背中を預けるのは大きな樹だ。村の象徴でもある一本だけ大きく伸びたその根っこは張り詰めたふととももをほぐすのにちょうどいい高さにあり、年月を感じさせる幹はアリアたちの日々の仕事である前かがみの作業をもとに戻すのにちょうどいい背もたれ。
空を見上げれば大樹から伸びた枝葉は辺りに影を落とし、日差しを薄めている。大樹のてっぺんは見えたりはしない。あまりに大きすぎるのだ。それは遠く離れた町からも見えるほどに大きいらしい。村から出たとがないアリアには想像もできない景色なのだ。
そして人はあまりこの大樹まではやってこない。人がここに集まるのは年に一度のお祭りの時くらい。
お祭りは大きなこの樹を奉り、一年の安寧を祈る。村の若い娘たちが特別な服を着て舞踊り、男たちは打楽器を大樹のてっぺんまで届くほどに叩きならす。
ただそれはもうちょっと先の季節だ。今は人どころか魔物の気配すらしない平穏な場所。
「カタリナも随分と大きくなったね」
そうだね。そうあんまり興味がなさそうなサリアもお祭りのときは駆り出される。それはアリアも一緒だ。
変わりに根っこを隠すように隙間から伸びているのはカタリナと呼ばれる花だ。一年をかけてアリアの背丈の半分ほど成長しているその草はもうしばらくすると花を咲かせる。
ピンク色の花は花弁がコップの形をになり空からの贈り物を受け止めるかのように構えている。
そうなると祭りの準備をし始める時期だ。あたりに休憩所を設営し、村に一年をかけて集めた果実を盛り付けして祭壇にする。そして一晩中大騒ぎするのだ。そうしているとカタリナの花が徐々に頭《こうべ》を垂れ下げ始める。
そうすると中から熟成された雫が地面へと落ちる。それがこの大樹にとっての大事な栄養になっている。そしてそれは同時に村にとっても大事なものでもある。
それは薬のもとになったり、農作物の肥料となったり、お茶などに垂らして日々の栄養源になったりもする。
だからこの大樹もお祭りもカタリナの花も村の生活に密接な関係にあるのだ。故に何かあってはいけないとこのあたりは普段は立入禁止。たまに村長が様子をみに来るくらい。ゆっくりするのにはちょうどいい。
サリアと一緒にドスンと根に腰を下ろすと持ってきた本を開く。何度も読んでいる本だ。
はるか昔の話。
この世界にもっと魔物が溢れかえっており、国も統一されておらず争いも各地で行われていた時代。
ひとつの騎士団があった。出陣すればその噂は大地の果まで轟き、守りに徹すればどんな強大な力であっても突破できない。
街を包み込むほどの巨大なドラゴンだって、死靈の大群だってその騎士団に敵いやしない。
その騎士団を率いるのが若き騎士団長。すべての攻撃を弾き返す白銀の鎧に切れない物はないとされる聖なる剣。そして率いる優秀な団員たち。そんな彼らの活躍を綴った冒険譚。
内容も覚えてしまっているが何度読んだって心が躍る。
「ほら。早く読もう」サリアは毎回そうやってアリアを急かす。
読むのはアリアの当番だ。サリアは瞳を閉じて物語の世界に入り込む準備を終えている。その様子がおかしくてアリアは思わず微笑んでしまう。
姉妹の様に育てられたサリアはアリアにとって妹のような存在だ。17歳のアリアに対してサリアは13才。わがままを聞くのも役割のひとつ。
「はいはい。わかったわかった」
今日は読み始めるのは昨日の続き、それも物語の終盤。クライマックスだ。
「騎士団長はその身を捧げるためにひとり歩みを進めます。そこは誰もいない僻地です。本来であれば団員を引き連れて訪れる場所。でも、騎士団長はひとりで行かねばなりません。そこに大事な役割が待っているからです。それは騎士団長にしかできない役割。魔族が現れる源である魔穴《まけつ》の封印。命をかけて行う儀式。騎士団長は魔穴に身を投げだしました。すると黒い穴だった魔穴から光が漏れ出します。それは太陽のようであり、誰も直視することはできない光です。その光からは魔穴を覆い徐々に空へと伸びる光の柱となりました。それは長い時間をかけて大きな樹になりました。それは騎士団長の墓標であり平和の象徴。今もその樹はどこかで世界を見守り続けているのです。あれ? サリア? 寝ちゃったの」
「起きてるよ。アリアの声が心地いいから癒されてた」
そう言って昼寝を始める。いつものことだ。アリアはそれを咎めるようなこともしない。世界は平和なのだ。たまに現れる魔物も村のみんなで協力すれば追っ払うことが出来るし、いざとなったら近くの都市から騎士団を呼べばいい。
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だから、その存在が近くに来るまでサリアもアリアも油断していた。いつもの日常とそう変化がないのだと。疑っていなかったから。
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