世界樹の巫女を助けたのは物語の騎士団長でした

霜月かつろう

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ひとつの決着

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 思っていた痛みが襲ってこなくて、そんなものを感じる暇もなく絶命しただと。そう思った。でも、アリアは自分が呼吸している音が聞こえてきて、そうではないと目を開く。

「バカな真似をするな。言っただろ君が犠牲になる必要はない」

 アウレールがナイフの刃を手でつかんで止めていた。徐々に血が剣を伝って垂れていく。どうして。それは言葉にならなかった。

「アリア。自らその身を捧げに来たのか。まあ、いい。ついでだ白銀の騎士団長様と一緒に世界樹にその身のマナを捧げるがいい」

 村長のそんな顔は初めて見た。おぞましい表情をしている。何かにとりつかれた様な。そんな顔。

「悪いな。簡単に殺されてやれなくなった。俺にはこの子を逃がす理由がある」

 そんな村長に向かってアウレールが告げる。同時にアリアの手からナイフを奪い取られる。

「僕たち幻影騎士団に向かってナイフ一本でどうにかなるとでも? いくら伝説の白銀の騎士団長様でもいささか無理がありますよ。おとなしく儀式を続けてください。僕からすればその小娘に興味はありません。逃がしておきますよ」

 村長の顔が更に歪む。

「そうか」

 アウレールが幻影騎士団長の言葉に納得したのか、アリアの肩に手を置く。そのまま押し出されるのかと思いその場にとどまろうと踏ん張ったが、力はやってこなかった。

「信用できないな。最初から村も救うつもりもなく、自分たちの世界だけを守ろうとする騎士団長様のことはな」

 アウレールの言葉に幻影騎士団長は意外そうにしながらも笑みを浮かべている。その隣で驚いているのは村長だ。

「そんな。それでは話が違います。村や私たちは守られると」
「世界の平和のためならば多少の犠牲はつきものなのですよ。それに村はまた新しく作ればいい。巫女も生まれにくくなっているのはずっと問題視されていたでしょう? 遅かれ早かれこの結果にはなってしまう。それならばやり直す。それが国の決定です」

 幻影騎士団長から語らえる事実に村長は崩れ落ちる。アリアも力が抜けて、座り込んでしまいそうになるがアウレールが支えてくれていた。

「抵抗するものは排除してもいい。そう命令もされているのですよ。村長」

 その言葉に、命の危険を感じたのか村長は大人しくなって震えている。自らが招き入れたことに後悔をしているのだろうか。

「なんだよ。あっさり認めるんだな。気味が悪い」
「どう転ぼうとも、もう結末は変わらないと言う事です。あなたはここでもう一度死を迎える。世界樹は元の力を取り戻し、その維持システムは構築し直す。それだけです」
「ひとつ、聞いてもいいか?」

 アリアを抱える腕に力がこもったのが分かった。

「なんです。聞いてあげますよ」
「その世界樹の維持システムとやらが考えられたのはいつだ?」

 それはアウレールが世界樹を生み出した時の話をしているのだ。

「さあ。僕たちが生まれるずっと以前と聞いています。ただ、幻影騎士団長は代々リーツ家から選出されます。それがなにを意味しているのかは聡明なあなたであれば理解できるのでしょうか」

 アリアには理解できなかった。それがどうつながるのだ。

「分かった。じゃあ、あとは抵抗するだけだ。こっちから行かせてもらう」

 ナイフで鎧を貫くことは到底無理だろう。肌が露出しているところをピンポイントで狙わなければならないのに、相手は複数人。それも立派な剣を振り回している。戦闘については素人のアリアから見ても明らかだ。

 アウレールはそれでもうまく立ち回っている。足元も悪い中で幻影騎士団の動きは制限される中、ひとりひとりと戦えるように動いているのが分かる。でもそれだけだ。攻撃しても鎧に弾かれる。それもまだいいほうで、基本は攻撃を受け流しているだけ。それだけでも十分すごい。

 ただ、明らかな手数差でどんどんと押されている。アリアも助けたいと思いずっと観察しているのだがとてもじゃにないが手助けなんてできそうにない。ただ見守るだけ。

「はっ。伝説もたいしたことないんですね。現代の技術と戦略をもってすれば、人間ひとり、なにもできやしない」

 その通りだ。追い込まれ、ついにアウレールは囲まれてしまった。

「ああ。そうだな。所詮ただの人間だ。称賛が欲しくて、仲間の平穏にすがって、自らの命を捧げた。それでも、世界はまるで平和になっていない。タダの無駄死に野郎だ。だがな。だからこそ。このなんで再び与えられたか分からない命は自分でない誰かのために使わないといけないんだよっ!」

 アウレールは片手でひとりの胸のあたりを手のひらで押した。それだけなのに、その人は後ろによろけ、そのまま倒れてしまった。アリアは何が起きなのか理解できない。それは幻影騎士団も同じみたいだ。

 倒れたのと同時に地面へと転がった剣がアリアの足元まで届く。どうしていいのか分からないままそれを拾った。

「くっ。これ以上、調子に乗らせないください!」

 幻影騎士団長も負けじと剣を振り、アウレールを追い込んでいく。ひとりやられたことで危機感を覚えたのか、その動きはより統率の取れたものへと変わっている。

「それを、よこせ」

 アウレールに夢中になっていたが、気が付けば村長が近づいてきていた。剣をよこせと言う事か。その表情は鬼気迫っていてとてもじゃないが渡したくなかった。渡せばアリアはきっとその場で殺される。

「い、嫌です」
「お前までも俺を裏切るのか!」

 そう声を荒げて力づくで奪おうとしてくるのを必死に抵抗する。

「ちぃ」
「よそ見している場合じゃありませんよ。白銀の騎士団長様ぁ!」

 アリアからは見えなくなってしまったが、アウレールも苦戦しているのが分かる。こちらを気にしてくれているのも。

『アリア』

 懐かしい声が聞こえて。ふっと力が抜けてしまった。その隙に村長に剣を奪われた。

『アリア。大丈夫。もう大丈夫だから安心して』

 その声は村長にも聞こえたようだ。奪った剣を持ったまま茫然としている。

「マリアなのか。そんなはずは。お前はこの手で……」

 村長はそのまま崩れ落ちる。異変は同時に起こった。

「アウレール様!」

 その異変を知らせようと大声で叫んだ。

「マリア。そうやってお前が巫女の役目を果たさなかったから、俺が。俺がぁ!」

 アウレールの反応を見る前に村長が立ちはだかる。その目にはアリアは映っていないように見える。

 そして、それは一瞬だった。

「また殺してやる!」

 痛くはなかった。でも衝撃は感じた。身体の中を破壊されたのが脳より先に心が理解した。

 村長の手から剣が離れる。それなのに剣は地面に落ちることはない。アリアは自分の腹部に突き刺さったままの剣を確認すると、崩れ落ちた。
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