機械少女は人間の夢をみるか? 選択編

霜月かつろう

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第4話 依頼の内容

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 夢を見ていた気がする。壊れた少女は自分と同じ顔をしていた。

 一体なんの夢だろう。

「ここは?」

 寝かされている。硬いベンチだ。空は暗いまま。そこでようやっと宣言通りに目覚めたのだろう。

 自分がどこにいるのか理解するのにしばらく時間が必要だった。出した声に反応して顔が視界に入ってくる。探偵さんだ。

「近くの公園だ。とりあえずは見つかっていない。警察も辺りにいるようだし、やつらも派手には動かないだろう」

 意外とちゃんと探偵さんらしいこともしてくれるのだな。そういうことであれば行動を開始したい。

「わかった。危険は辺りにないようだし早速依頼をお願いしたい」

 探偵さんはちょっと戸惑っているようにも見えた。

「依頼を受けるとは言ってないんだけどな」

 この期に及んで探偵さんはまだ迷っているようだ。探偵事務所はボロボロ。もう変える場所もなくなっていると言うのに。でも、大丈夫。ちゃんと言質は取ったから。

 指を三本立てて、探偵さんに差し出す。

「なんだ。三?」
「あなたの依頼を達成した。報酬を頂戴」

 正当な報酬を請求する。

「依頼……そんなのした覚えはないぜ」

 口だけだけど、ちゃんとした。

「した。そして達成した。私はあなたを守った」
「守ったってさっきのことか。そもそもあれは嬢ちゃんが狙いで」
「それでも依頼は受けた。そして達成した。報酬はもらう。守らなければあなたは死んでいたもの」

 ちゃんと探偵さんに確認したもの。助けてほしいかって。

「おっけー。納得はしていないが、命を救ってもらったのは間違いない。払うよ。報酬。でいくらだ。三千。流石に安すぎるな三万か」

 意外だった。お金には困っているだろうから、払えないものだとばかり思っていた。こちらの依頼を受けてもらわなくては困る。もっと釣り上げてしまおうか。試しに首を横に振ってみる。

「もっと」
「三十万だって。冗談だろ。そんなに払えるものか。こっちはその日暮らしの探偵だぞ」

 ようやく困り始めてくれた。こちらの都合のためだ。もう一度、首を横にふる。

「三百だとっ。馬鹿げてる」

 声を荒げてくる。そうなってくるともっと困らせたくなる。

「違う。そんな安くない」

 その数字がこの街でどんな意味を持つのかは分からない。探偵さんは押し黙ってしまった。必死に金勘定でもしているのかもしれない。

「払えないの?」

 だから考えがまとまる前に追い打ちをかける。案の定、探偵さんは思考を停止してしまって。呆気にとられている。

「でもいいの」

 もう一手。これでダメ押しだ。

「私の依頼を受けてくれたら請求はしない」

 探偵さんの表情がコロコロ変わる。見ていて面白いと思った。こんなに表情が変わるのは近くにいなかった。探偵さんはしばらく考えたあと何かを諦めたみたいで、大きく息を吐き出した。

「やってくれたな」

 そういいながらも諦めたことが嬉しそうに見えた。

「あなたも平穏は嫌いでしょ」
「いやっ……まあ、そうかもな」

 探偵さんは否定しようとして止めた。なにか思うところがあったのだろうか。でも、平穏が嫌いなら都合がいい。

「なら依頼を受けて。きっと退屈はさせない」

 その言葉は本当だ。勘だけど。

 遠くでサイレンの音が聞こえ始めた。この街の治安を守る組織が近づいてきているのだろう。どの場所でも似たような音を聞いたことがある。それに加えて探偵さんがそわそわしだした。厄介な事態になっているのは間違いない。

「名前なんていうんだ」

 それなのに探偵さんが聞いてきたのはそんなことで。その意味を改めて考えてしまう。

 名前。

 個体を認識するために必要なもの。たしか自分にもあった。でも長ったらしくて覚えたことはない。数字とアルファベットの羅列に意味があるとは思えなかった。それに、それを覚えなくても任務に支障はなかった。だから。

「名前はない」

 それが事実だ。今の自分を認識するための言葉なんてない。それは周りも一緒だった。でもこの街は違う。名前で呼び合っているのを何度も見た。きっと探偵さんにも名前があるのだ。

「探偵さんは。名前。あるんでしょ?」

 なのに、そう問われた探偵さんは押し黙ってしまう。

「ないよ。名前。一緒だ」

 探偵さんがひねり出した答えは意外なものだった。でも不思議と悪い気はしない。これから呼ぶのに名前がないのも困ると気づいた。

「じゃ、探偵さんだね」
「そうだな」

 探偵さんは悪い気はしていないのか、表情がほころんだ気がした。でも、それも一瞬だ。サイレンの音が着実に近づいている。

「それで、依頼の内容はなんだ。最初に提案した内容ではないんだろ」

 全部欲しいって言ったことか。けれど、何が必要になるのか分からないのだ。それを探偵さんに判断を委ねるしかない。きっと目的地を伝えればことの大変さをある程度は理解してくれるはず。

「依頼内容は簡単。私をセントラルへ連れて行ってほしいの」

 内容は簡単だけれど、それを実現するのは難しい。だから探偵さんにお願いしている。

「本気で言ってるのか」

 探偵さんから余裕が消える。それくらいこの街の人にとってもセントラルが持つ名前の意味は大きい。街の機能の殆どをそのセントラルで管理していらしい。

 調べた限りではこの街は二重の円形構造をしている。今いるのは一層目。外側のドーナッツ型の形状をしている層だ。この層はさらに六つの区画に分かれている。区画を分けているのは中心の円形から伸びた六本の大通りだ。この大通りを中心に向かって進めばセントラル――中心の円形にたどり着ける。

 けれど、そこには厳重に警備されたゲートがある。セントラル関係者以外の侵入を阻み、事実上セントラルとその外側を隔てている。それは街へと侵入したときとは比較にならないほど強固。

 身を持ってそれを経験してきた。だから探偵さんが渋るのも分からなくはないのだ。

「今から依頼を断ることは」

 だから前もってお金の話に持っていったのだ。今更断られるなんて、そんなことはさせない。

「お金さえ払ってもらえればそれも可能」
「じゃあ、あてはあるのか。残念だが俺の方にはまったくないぞ」

 そんなものだろう。これであてがあったりなんかしたら幸運すぎると言うものだ。

「知らない。この街に来たのも初めて。でも、もしかしたら近くに行けばなにかわかるかも知れない」

 ある程度、予想していたのかあんまり落胆していないようにも見える。もう色々諦めてしまったのか。

「セントラルに行こうって言うんだ。それなりの理由なんだろ。でもこの街を知らないって言うのにそんな理由があるのか?」

 さて困った。そこを説明するのが一番難しかったりする。でも感じたままに説明しよう。

「呼ばれてるの。それだけ」

 なぜだとか、だれがとか。まったく分からい。でも間違いなく呼ばれている。あの塔のある場所に。

「はっ。だったら入れてくれるだろ。呼んでるやつがいるんだから」
「それはダメ。呼ばれているけど、どうしてだか誰からだかはわからない。それにそれを邪魔したい連中がいる」
「それってさっきのやつらか」

 あの黒服たちが何者なのか知らない。セントラルを守る人たちかと思っているがどうも違うような感じもする。

「呼んでるってやつに助けを求められないのか」

 それができれば依頼なんてしない。

「ダメ。一方的に呼ばれているだけでこちらから連絡はできない」
「あー。オーケーだ。なんとなくだがやりたいことは分かった。とりあえずセントラルを実際に目で見てみないとなんとも言えなそうだな」
「そう。それで私には移動手段もなにもない」

 探偵さんはジロジロと下から上まで見始める。なんだって言うのだ。

「とりあえず着替えるか。なるべく手足を隠したほうがいいだろ。ここで待ってな」

 そう言って近づくサイレンの音に少しだけ怯えながら探偵さんを待ち続けた。
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