機械少女は人間の夢をみるか? 選択編

霜月かつろう

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第15話 セントラルと少女

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 長い時間、日の当たらないところにいたので分からなかったけれど太陽が昇り始めている。一日ほど通路にいたのか。武器は取り上げられた。周りには黒服たちが取り囲むようにしながら一緒に歩いている。その隙間から見える街の景色を少女は見ていた。

 セントラルの雰囲気は壁の外に比べてひとつひとつが丁寧に作られているように見えた。材質は分からないけれど、丈夫そうな建物が立ち並び、それはどれもキレイに整備されている。パイプがむき出しでなければ、壁のヒビひとつもない。かと言って同じ形状のものが並んでいるわけではない。建物ひとつひとつに個性があってそれを作った者の考えが取り入れられている。

 でも、そんな小綺麗な建物に対して住民たちの姿はまったく見当たらない。けれどいないわけではないのだ。かすかに気配はする。いないわけじゃないのだ。見当たらないだけ。確かにいるはずが姿を隠しているのは黒服たちのがいるからなのか。それか黒服たちが指示の可能性だってある。それになんの意味があるのかまったく見当もつかないけれど。

 考えてもしょうがない。

 もうすぐ呼んだのが誰かも、なんで呼んだのかもその主から聞けばいい。少女が考える必要はないことだ。

 探偵さんも一緒に歩いている。でもその態度はいいとは言えない。わざと悪ぶっているようにも見える。周りを囲んでいる黒服たちが隊列を崩さず、一歩を踏み出す速度も合っているのでなおさら目立つ。でも、探偵さんはそれを気にした様子はない。

 ただ、ずっとあたりを警戒しながら歩いている。明らかにおかしな今の状況を怪しんでいるみたいだ。だからと言って視線の先に何かを見つかられるわけではないらしく、不満そうな顔のままだ。

 なんだろう。探偵さんを見ていると表現として正しいかどうか分からないが人間臭い。という言葉が連想される。最初に見かけてからずっとそうかもしれない。猫を追い回して、本気とは思えない追いかけ方。あのあと、飼い主に連れて帰るまでたっぷり外で遊ばせてやっていたようにも見えた。少女からの依頼も悩んだ振りして最初から断るつもりなんてないし、文句を言いながらもずっとついてきてくれている。お姉さんからの依頼もなんだかんだで真面目にこなそうとしているのだ。だから、さっきからあたりをキョロキョロしている。態度には出てないけれど。ずっと悩みながらも誰かのために動き続けている。それはきっと人間臭いと言うのだ。

 そんなことを考えているうちに塔は目の前だ。スラッと伸びた円錐の塔の中央には取り囲むようにリング状の支えがあり、そこからてっぺんに向かってワイヤーが張られている。セントラルに入ってから不思議な素材の建物ばかりだったが、この塔は一段の異質な素材に見える。

 入口は解放されていて中は外から見た印象のまま。円形に広がっている。中心に太い柱を兼ねたエレベーターが設置されていて、どれくらい上方まで続いているか分からないが吹き抜けになっている。エレベータは各階に留まるわけではないらしく、繋がっていない階層もいくつかある。

 各階層の外側には部屋が作られていて、黒服たちがたくさん歩き回っている。彼らはこちらを気にする様子もなくせわしなく動き続ける。そもそもここは何をするところなのだろうか。

 上層へ行くには階段も設置されているようで、部屋の前にある廊下から各階を行き来できるようになっていた。一番上まで登っていくのに歩くとどれくらいの時間を要するのだろう。

「我々はここまでとなります。こちらのエレベーターに乗っていただければ自動で最上階まで行くように設定しておきましたので。どうぞ、お乗りください」

 ここまで一言も話さなかった黒服がそう告げてくる。セントラルに入った時も確かこの黒服だった。もしかしたら黒服のリーダーだったりするのか。

「案内ごくろう。じゃ、遠慮なく……って俺を止めたりしないの?」

 探偵さんがわざわざ余計なことを黒服に尋ねた。確かにそうだ。呼ばれたのは少女だけ。探偵さんは依頼をしたからついてきているが、塔の主からしたら無関係なはずだ。ここまでこられたのが不思議だ。

「主からはあなた様も招待しろとのことですので問題ありません。どうぞお進みください」

 どういうことだろうか。探偵さんが一緒にいることを把握していて、さらに一緒に会いに行くことが問題ないと言うのか。謎は深まるばかりだが、それも含めて全部、主とやらに聞けばいいだけだ。

「あっそ。じゃあ遠慮なく。ほら、行こうぜ。嬢ちゃん」
「うん」

 ふたりを乗せたエレベーターの扉が閉まる。ガタンと音を立ててエレベーターが上昇し始める。

「ここまでありがとう。これで依頼も終わり。あとはお姉さんの依頼に向かって。報酬はカジノで稼いだお金ってことにして欲しい」

 話すなら今だと思った。この後、何が待ち構えているか分からないのだ。できるだけ早く今後の話をしておいた方がいい。しかし、探偵さんはなにやら驚いているように見えた。

「ああ。それでいいぜ。俺はそれなりに楽しめたしな。なにより依頼をこなしただけだよ。ちゃんと依頼主の意向に沿ってな」
「私も楽しかった。誰かとこんなに長く行動することは初めてだったから」

 自然とそう思えた。それもすべて探偵さんが人間臭かったからだ。それは貴重な体験だったのだ。この街に来るまではそんな経験をしたことがなかった。一緒に戦っていた仲間がどこのだれかだなんて考えたこともない。与えられた任務をこなすだけ。そこに感情は生まれなかった。

 感情? そういえばそうだ。戦場でそんなものは必要なかったでも、いつからかそう思うことが増えた。いつからだ? セントラルへ呼ばれた瞬間から?

「おっと。もうそろそろ到着するみたいだぜ」

 エレベーターが減速を始めた。あっという間にてっぺんまで昇ってしまうのか。やはり、異質なセントラルの中でもこの塔はさらに異質だ。そんな場所だ。念のためいつでも飛び出せるように身構えた。

 到着を告げるブザーがあたりに鳴り響き到着したのを告げるとエレベーターの扉がゆっくりと開く。

 てっぺんに向かうほど細くなっていたからこの階層は下に比べて随分と狭いはずだ。しかし、明かりがなく明かりはエレベーターから漏れる光だけ。その光もエレベーターの扉が閉まれば一筋だけになる。

「よく来てくれました。ここにたどり着いた個体はいつぶりでしょう。あなた達を歓迎しますよ」

 聞き覚えのある声が迎えてくえる。でも、その声に違和感を覚えて、構えを解けない。

「あなたが塔の主? 私を呼んだのもあなた?」
「どちらもその認識で構いません。私がこの塔の主であり、あなたを呼んだ者です」
「じゃあなんでここは暗いの? あまりいい気分じゃないのだけれど」
「その通りですね。ですが、あなた達を驚かせないためには必要なんです。警戒され過ぎても困るのだけれど、私を見て驚きすぎてもこの後に支障が出てしまいます。ゆっくり話を聞いてくれる気になったのでしたら明るくしましょう」

 彼女と話していると頭がおかしくなりそうだ。それは探偵さんも同じだったみたい。

「なあ、大人しくしてるから明るくしてもらえないか。頭がおかしくなっちまいそうだ」
「ええ。あなたも変わりませんね。まあ、だからこそここまでたどり着けたのでしょうけど。明かりを点けて頂戴」

 パッと明るくなる室内。思っていた通りあまり広くない部屋。壁には機械がぎっしりと並べられ何かを管理しているように見える。見たことがない技術でそれも気になるのだけれど。それよりも、もっと気になる存在がいる。

 背丈はあまり大きくはない。むしろ小さい。見た目は子どもなのだから当然だ。長く伸びた髪はサラサラで整っている。青白く見える身体も傷ひとつない。細い眉に大きめの瞳は少女らしさを際立て、スラッとした鼻筋と、大人しめの口元は上品さを兼ね備えている。来ているのは白いドレスだ。少女からすれば動きにくそうとしか思えないそれも、着こなしているように思えた。

 それが機械の前にある椅子に座っている。彼女はそこからすっと立ち上がった。

「おいおい。嘘だろ」

 探偵さんが驚くのも無理はない。まさか塔の主がそんな存在だったんて思いもしない。

「ようこそ。セントラルへ。私は塔の主であり、セントラルを支配するもの。みなからは姫と呼ばれる存在です。そして同時に……」

 お姫様はドレスのスカートを手に取り丁寧にお辞儀してくれる。

「あなたのオリジナルでもあります」

 少女と紫の瞳以外をしたお姫様は顔を上げながらはっきりとそう告げてきた。
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