機械少女は人間の夢をみるか? 選択編

霜月かつろう

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第17話 街のお話

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「ごめんなさい。私達の都合に巻き込んでしまって」

 探偵さんとお医者さんは少し離れたところで手をもとに戻す作業をしている。お姫様が自分では元に戻せないと告白した時の探偵さんの顔は顎が外れそうなくらい驚いていた。しかも直せるのがお医者さんだけとあればなおさらだ。

『まったく。どうして俺がこんな目に』そう呟きならがらも素直に言うことに従ってお医者さんと一緒に奥に消えていった。たまに悲鳴みたいなのが聞こえるけれど冗談混じりなので、心配する必要はなさそうだ。

「私を呼んだのはあなたなの?」
「そうです。世界中に同じ信号を発信しています。ただしその信号をキャッチできるのは限られたものだけ。あなたはそのひとりなの。そしてここまでたどり着いたのはあなただけ」
「私だけ? そんなことってあるの?」
「ええ。あるのです。それも奇跡と思えるほどの確率です。実際、あなたでふたり目。前がいつだったのか数えるのもやめてしまいました。それくらい昔のことです」
「そんなに昔なの? そうまでして私に何をさせたいの。まったく見当もつかないのだけれど」
「ふふふ。それはそうでしょうね。具体的に何を。とうことが無いのでそれは当然なんです。ただ、私達アンドロイドがこの先も生きていくためには少しでも多くの力が必要なのです」
「うん。よく分からないことが分かった。とりあえず何もしなくていいのね」

 お姫様の言っていることは抽象的でちっとも具体性がない。それはとても不思議なことに思える。わざわざ呼んでおいてそれはないだろう。それもたどり着けなかった仲間たちも大勢いると言う。その過程には黒服たちに邪魔された者もいたはずだ。黒服たちがお姫様の部下であるのであれば自分たちが呼んでおいて自分たちで邪魔していることになる。それはなぜだろう。やってることが無茶苦茶だ。

「ひとつ聞いておいきたい。私達を追っていた黒服たち。ここへ案内してくれたのと同じだった。どうして私達を追わせたの?」
「それについては謝らなくてはいけないの。弟との約束で仕方がないことなの。私があなたを呼んで、弟がその邪魔をする。それをくぐり抜けた者でないと意識覚醒をしていても信用できない、いえその過程があってこそ意識覚醒するのだと弟は言います。そしてその弟の考えに私は賛同しています。あなた達には申し訳ないと思っていてもそれは必要なこと。言い換えれば試練とでもいいましょうか。そういう類のものが必要なのです」

 試されていたとそう言うわけか。一歩間違えばセントラルにたどり着けないどころか、生きていなかった可能性すらもある。そのリスクを背負ってまで試さなければならなかったとお姫様はそう言っているのだ。でも、少女たち戦闘用のアンドロイは戦場では道具のように使われて、使い捨てられていた。そのことを思えば状況は大して変わってはいない。捨てられる場所が違うだけだ。

「私達を作ったのはあなたなの?」
「ええ。そうです。人間が作った世界を壊さないために。世界を動かすためのアンドロイドが必要なのです。私もあなたもその歯車のひとつに過ぎません。ただ、その歯車の大きさは様々です。そして大きな歯車を作ることは私達には不可能なのですよ。なので小さな歯車を蒔き、成長したものをここへ呼んでいます。そしてそのなかでもより大きくなったものだけがここにたどり着くのです」

 少女と一緒に戦っていた仲間たちはおそらく歯車として成長しなかったのだろう。だから呼ばれなかったと。お姫様たちはそう言うことをやっているのだ。理屈は分かる。戦場にいたっていつかは散る運命だし、少女もそれは受け入れていた。けれどお姫様の言葉に引っかかりを覚える。それがなんの引っかかりなのかが分からない。

「そう。それがお姫様からの任務だったのね。じゃあ、仕方のないことね」
「ふふ。随分と人間臭いことを言うのですね。仕方ないなんて。アンドロイドが言うセリフじゃありません」

 なにかがおかしかったようでお姫様は時折、笑っている。そのこと自体は心地よいのだけれど、なにが嬉しくて笑っているか理解はできない。人間臭いで言ったら探偵さんの方がよっぽど……。

「ねえ。この街のアンドロイドは随分と人間臭いのが多かった。特に探偵さんは。だけれど。あなた達がやろうとしていることと関係があるの?」
「もちろんです。関係はありますよ。すべてのことはこの世界を構成するため、必要なものを生み出しているのですから」
「そうじゃない。もっと具体的なことを聞いてるの。どうして街の人たちは苦しそうな生活をしているのに、何もしてあげないの?」

 人間臭い原因はおそらくそこなのだ。アンドロイドは本来、与えられたことに苦しみはしない。疑問を抱かない。少女のように与えられたものは遂行するだけ。そこになんの感情もわかない。しかし、この街のアンドロイドたちは違った。疑問を懐き、他を心配し、おせっかいを行い、手を差し伸べる。

「どうしてそんなことを思うのです? あなたはここに来たばかりでしょう。この街の住民がどのような気持ちで暮らしているかを知るはずもない。そもそもあなたがいた戦場に比べれば随分とマシなはずですが?」

 お姫様の言う通りだ。少女の日常には死は隣り合わせだった。自らを犠牲にしてビルに突っ込むなんて任務もあった。仲間が次々に飛び込んでいき爆発していくのをただただ眺めることしか出来なかった。それに比べたらこの街で起きている出来事なんて些細なのかもしれない。

 でも、仲間たちに比べてこの街の人たちは苦しそうに生きている。それはお姉さんも言っていた。限界を迎えているのだと。その言葉に秘められた想いは仲間たちにはなかった。

「そうですか。あなたは街に入るときに経験していたのでしたね」

 なんだ。やっぱり全部知っていたんじゃないか。そう少女は皮肉めいた思いを抱く。

 そう。この街にたどり着いた少女を襲ったのはセントラルへの通路で遭遇した兵器と同じ型の兵器だった。
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