機械少女は人間の夢をみるか? 選択編

霜月かつろう

文字の大きさ
21 / 45

第18話 だからこそ少女は

しおりを挟む
「そうよ。あの状況を見たから言える。なぜあれを放置しているの?」

 お姫様はそれが試練だと。世界のために必要なことだと言った。全ては歯車だと。門番もあの小さな小どもも。それを襲った対アンドロイド兵器も。自ら創造して、自らそれらを対峙させ争わせ、壊し、苦しめている。それが試練だとお姫様は言っているのだ。

 それがどうしてだか気分が良くない。

  探偵さんやお姉さんや服屋のおばさんや門番や小さな子どもの苦しむ顔を見たくないと、そう思ってしまうのだ。

「それが必要なことだからです。それが人間社会のあり方と私たちを造った人間がそう記録していたのです。私たちをそれを忠実に再現する必要がある。そのためにこの世界を維持しているのですから」

 お姫様は続ける。この世界の在り方を。人間がどうやって社会を構築し、繁栄し、そして滅んで行ったのかを。それは少女が知らない歴史の話だった。人間というものを知識としては知っている。でもそれを詳しく知る必要はないとされていた。もともとそう知識として組み込まれているのだ。

「それを再現したのがこの街なのです。街の外は戦争を繰り返していますがそれもすべて人間社会の再現。歴史上、争っている時間の方が長いのです。そして外敵からの侵略は街にとっても必要なこと。外敵による住民たちが危機感を覚え、弱い者から選別を受ける。そのことでより社会的構造として強固なものへとしていく。それが人間社会というものなのですよ」
「お姫様も知識でしか知らないものでしょう? それが本当かどうかも分からない」

 なぜ自分はこんなにも強気なのだろうか。これが意識覚醒の影響とでも言うのか。であればそれが起きたのはいつなのだろうか。考えても仕方がないことに思えたが気にはなる。

「随分と口答えするのですね。そんな個体は初めてです。その様子だと何かが気に食わないようですがおっしゃっていただいていいのですよ。それに協力いただけないのであればまた次の協力者が来るのを待てばいいだけです」

 あまり抵抗すると処分すると言うことなのだろう。

「何もすることがないと言うのに逆らうなというのもおかしな話だと思うのだけれど?」
「おや。これでは話になりそうもないですね。こちらの計画を話さないで協力しろというのがそもそも間違いだったようにも思えてきました。あなたも人間臭いところが出てきたのではないでしょうか」

 抵抗しているつもりなのに、なぜか嬉しそうにするお姫様に拍子抜けする。気を張っているこちらが間抜けにすら思える。少女はふてくされながらお姫様の問いかけを肯定も否定もしなかった。

「私たちが行っていることを見てもらいましょう。私は地下へ行きます。こちらは頼みましたよ」

 お医者さんにそう告げると少女へと手を差し伸べてくる。

「探偵さんが心配なのも分かります。しかし、弟を信じていただくしかありません。悪いようにはしませんよ。さ。それでは行きましょう。この世界の歯車のひとつを教えて差し上げます」

 仕方ないのでその手を取る。探偵さんとは違う小さな手。当然だが自分と同じ大きさの手。この手を取ることが正解なのか考えようとして止めた。今そうすることに何も意味がないと思ったからだ。

 ふたりはエレベーターへ向かう。探偵さんは修理中でこちらからは見えない。お姫様の言葉にも反応しなかったのでもしかしたら特別な状態にあるのかもしれない。まさか、勝手に妙ないじられ方をしていないか途端に不安になった。

「ふふふ。それにしても慣れないものですね。いくら製造の型がこれしか残っていないからという理由があるにせよ。自分と同じ姿のアンドロイドと対面し、その中身が少しずつ違うというのは」
「私からすればまったく別のものだと思ってるけれどね」

 エレベーターに乗り込みながら会話は途切れない。それは扉が閉まり下へ向かって動き始めても同じだった。

 常に同じ姿の仲間たちと行動していたのだ。それは当然だ。それに同じ姿で任務をこなすだけの存在だったのにも関わらず、ちょっとだけ違ったのだ。なにがどうってわけじゃない。でも、確かに任務を受け取ったときの機微がそれぞれあった。

「ふふ。やっぱりあなたは面白い個体なのかもしれないですね。それこそこれから会ってもらう子とは似たようなルートを通ってきたのに違うように思えるわ」

 気になるワードがいくつかったが、いちいち気にしていると話が進まなそうなのでいったんはスルーする。そんなことをしたことはなかったのに不思議なことだ。

「そう。アンドロイドと言っても全部違うのよ。それは確か」
「ほんとおかしな子ですね。もしかしたらあなたが何かを変えてくれるのかもしれないと期待もします。この終わらない、変化のない世界に。確かな変化を与えてくれるのかもしれないと。そう思います」

 お姫様の言葉を合図にしたかのようにエレベーターは地下へとたどり着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...