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セカンドダイス
セカンドダイス その2
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透明なトランプより細長いカードに描かれている絵をじっと見つめる。カード全体に雨が降っていて傘が浮いているだけの絵だ。傘の下だけ雨が当然だけど降っていない。
「憂鬱な」と書かれたタイトルらしき文字と下にゲームで使う記号が書かれている。
もう一枚手に取る。それには躍動感ある少女が描かれている。
タイトルは「優雅な」。それだけ見ると、踊っている少女なだけ。同じく下にはゲームで使われる記号が書かれている。
透明なそれらのカードを重ねると少女が雨の中、傘を差しながら優雅に踊っているようにも見えるし、憂鬱な中で嘆いているようにも見える。
「よくできてますよね。このゲーム」
いつの間にか智也君がこちらの手のなかを覗き込んでいた。
「これでちゃんとゲームとして成り立ってるんだからすごいですよね」
智也君の言う通りこのゲームはきちんとゲームとしてもしっかりしている。
カード書かれた記号は全部で四つ。
書かれている箇所は五つ。それがそれぞれ色で分けられている。
各カードに書かれている色は二つでそれを三枚重ねることで五箇所に記号が埋まる。
その記号の数で得点が入っていく仕組みだ。
そして記号をゲームの目標に合わせて集めていくと自然と絵が完成するようになっているのだから、よく考えられていると思う。
テーマ性を重視してしまうとメカニクスの奥深さが損なわれることが多く、逆もまたしかりだ。
テーマ重視なのだろうけれど、ゲームとして考えることも多い。見栄えからすれば良くできたゲームだと最近思っている一品だ。
「キャンバスって名前にふさわしいゲームだよ」
最近のお気に入りのひとつを智也君にも気に入ってもらえたようで嬉しい。
重ねる順番によってタイトルも変化する。「憂鬱な」と「優雅な」は同じ位置なのでどちらを上にするかでタイトルが変化する。これがゲームの目標により変化する。でも公彦としてはその人の気分によって変わるのだとも思っている。
この絵が憂鬱なのか優雅なのかは人の抱いているイメージで異なる。
そこにもう一枚重ねる。継ぎ接ぎだらけの布で覆われたオバケみたいな絵だ。タイトルは悪夢。
憂鬱な悪夢。
今の気分を表現するとしたらこれだなっと思ってしまうくらいには公彦は参っていた。その鬱憤を少しでも紛らわそうと智也君に話しかける。
「ミホちゃんと連絡ついた?」
本来だったら智也君に聞くことじゃないのだけれど。チヒロちゃんと仲良くしているようだしマメに連絡も取り合っていると踏んでいる。
「いえ。なんにも。小室さんに教えてもらった場所行ってみたんですけど、もぬけの殻で。数日であんなにすっからかんになるんですね」
質問されたことになんの疑問をもたないのか普通に答えてくる。
本人は自覚ないのだろうけれど。それだけチヒロちゃんとの距離が縮まっているということだろう。
それはなによりだと思う。
話題の人たちはおそらく警戒して場所を変えたのだと思われた。その行動力や経済力に感心してしまうが、人気のない場所を転々としているならば、こことは思惑が違いすぎるので自分の経験はあてにならないなと思い直す。
「そこそこ悪いことをしている自覚はあるんだろうね。会員制のボードゲームスペース。賞金制の大会に。おそらく行われている賭博ボードゲーム。まあ、確信はひとつもないし。警察も取り合ってなんてくれなかったけれど」
もしかしてだけれど智也君もこの話をしたくてお店に来たのかもしれない。とてもじゃないがお客さんがいる前で話せる内容じゃないのだからタイミングとしては開店前の今しかない。
「ミホちゃんが無事だどいいんだけど」
妙な心配だけれど。そう智也君が心配するのもわからなくはない。彼らと行動をともにしているのだとすればそれだけで危険ではあると言える。
でもこれらも全部。こちらが勝手に想像して勝手に心配していることだ。小室さんからの情報だけで、実態がわからないままだ。
余計な心配をしているだけなのかもしれない。
でも、それであるならばそれが一番いい。無用な心配だったと後で笑われるくらいがいいのだ。実際に何かが起きてほしいわけじゃない。何も起こらないでいてほしいのだ。
「チヒロが言ってました。ミホは真っ直ぐな人だって。ちょっと生意気で擦れているところがあるけど、根っこは真面目だって。だから。きっと大丈夫です」
いつの間にか呼び捨てにする仲になったなんて野暮なツッコミをしたくはないけれど。どうしても気になってしまった。
「ふふ。よっぽど信頼してるんだね」
だから、ちょっとだけからかってみる。あえて誰だのことだとは言わない。でも、智也君は気づいたみたいだ。
「あっ。いや。チヒロとはそういう関係じゃあ」
おや。意外な回答。まだだったのかとむず痒くなる。まあ困難がふたりの関係を近づけてくれることもある。だから……。
「おっ。チヒロちゃんのことだったのかい?」
そう定番のノリで返してみる。
「店長。悪ノリが過ぎますよ」
思った以上に機嫌が悪くなった智也君を見てちょっとだけ反省する。ほんとちょっとだけ。
「ごめん。ごめん」
それだけでホッとした空気が智也君との間に流れる。あんまり考えすぎても良くない。そう思いながらキャンバスのコンポーネントを確認し終えると箱に閉まった。
「憂鬱な」と書かれたタイトルらしき文字と下にゲームで使う記号が書かれている。
もう一枚手に取る。それには躍動感ある少女が描かれている。
タイトルは「優雅な」。それだけ見ると、踊っている少女なだけ。同じく下にはゲームで使われる記号が書かれている。
透明なそれらのカードを重ねると少女が雨の中、傘を差しながら優雅に踊っているようにも見えるし、憂鬱な中で嘆いているようにも見える。
「よくできてますよね。このゲーム」
いつの間にか智也君がこちらの手のなかを覗き込んでいた。
「これでちゃんとゲームとして成り立ってるんだからすごいですよね」
智也君の言う通りこのゲームはきちんとゲームとしてもしっかりしている。
カード書かれた記号は全部で四つ。
書かれている箇所は五つ。それがそれぞれ色で分けられている。
各カードに書かれている色は二つでそれを三枚重ねることで五箇所に記号が埋まる。
その記号の数で得点が入っていく仕組みだ。
そして記号をゲームの目標に合わせて集めていくと自然と絵が完成するようになっているのだから、よく考えられていると思う。
テーマ性を重視してしまうとメカニクスの奥深さが損なわれることが多く、逆もまたしかりだ。
テーマ重視なのだろうけれど、ゲームとして考えることも多い。見栄えからすれば良くできたゲームだと最近思っている一品だ。
「キャンバスって名前にふさわしいゲームだよ」
最近のお気に入りのひとつを智也君にも気に入ってもらえたようで嬉しい。
重ねる順番によってタイトルも変化する。「憂鬱な」と「優雅な」は同じ位置なのでどちらを上にするかでタイトルが変化する。これがゲームの目標により変化する。でも公彦としてはその人の気分によって変わるのだとも思っている。
この絵が憂鬱なのか優雅なのかは人の抱いているイメージで異なる。
そこにもう一枚重ねる。継ぎ接ぎだらけの布で覆われたオバケみたいな絵だ。タイトルは悪夢。
憂鬱な悪夢。
今の気分を表現するとしたらこれだなっと思ってしまうくらいには公彦は参っていた。その鬱憤を少しでも紛らわそうと智也君に話しかける。
「ミホちゃんと連絡ついた?」
本来だったら智也君に聞くことじゃないのだけれど。チヒロちゃんと仲良くしているようだしマメに連絡も取り合っていると踏んでいる。
「いえ。なんにも。小室さんに教えてもらった場所行ってみたんですけど、もぬけの殻で。数日であんなにすっからかんになるんですね」
質問されたことになんの疑問をもたないのか普通に答えてくる。
本人は自覚ないのだろうけれど。それだけチヒロちゃんとの距離が縮まっているということだろう。
それはなによりだと思う。
話題の人たちはおそらく警戒して場所を変えたのだと思われた。その行動力や経済力に感心してしまうが、人気のない場所を転々としているならば、こことは思惑が違いすぎるので自分の経験はあてにならないなと思い直す。
「そこそこ悪いことをしている自覚はあるんだろうね。会員制のボードゲームスペース。賞金制の大会に。おそらく行われている賭博ボードゲーム。まあ、確信はひとつもないし。警察も取り合ってなんてくれなかったけれど」
もしかしてだけれど智也君もこの話をしたくてお店に来たのかもしれない。とてもじゃないがお客さんがいる前で話せる内容じゃないのだからタイミングとしては開店前の今しかない。
「ミホちゃんが無事だどいいんだけど」
妙な心配だけれど。そう智也君が心配するのもわからなくはない。彼らと行動をともにしているのだとすればそれだけで危険ではあると言える。
でもこれらも全部。こちらが勝手に想像して勝手に心配していることだ。小室さんからの情報だけで、実態がわからないままだ。
余計な心配をしているだけなのかもしれない。
でも、それであるならばそれが一番いい。無用な心配だったと後で笑われるくらいがいいのだ。実際に何かが起きてほしいわけじゃない。何も起こらないでいてほしいのだ。
「チヒロが言ってました。ミホは真っ直ぐな人だって。ちょっと生意気で擦れているところがあるけど、根っこは真面目だって。だから。きっと大丈夫です」
いつの間にか呼び捨てにする仲になったなんて野暮なツッコミをしたくはないけれど。どうしても気になってしまった。
「ふふ。よっぽど信頼してるんだね」
だから、ちょっとだけからかってみる。あえて誰だのことだとは言わない。でも、智也君は気づいたみたいだ。
「あっ。いや。チヒロとはそういう関係じゃあ」
おや。意外な回答。まだだったのかとむず痒くなる。まあ困難がふたりの関係を近づけてくれることもある。だから……。
「おっ。チヒロちゃんのことだったのかい?」
そう定番のノリで返してみる。
「店長。悪ノリが過ぎますよ」
思った以上に機嫌が悪くなった智也君を見てちょっとだけ反省する。ほんとちょっとだけ。
「ごめん。ごめん」
それだけでホッとした空気が智也君との間に流れる。あんまり考えすぎても良くない。そう思いながらキャンバスのコンポーネントを確認し終えると箱に閉まった。
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