ボドゲデイズ

霜月かつろう

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セカンドダイス

セカンドダイス その9

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 お祭りへの出店が掛かったゲームは妙な緊張感の中、進んでいった。ちょっと前まであった笑いがあるような空気ではない。常に張り詰めている糸がそこにあるような気もしてくる。まるで全員の息が耳元で聞こえるくらいの静寂のなかでダイスが机を転がる音とコマをボードに置く音だけが時折部屋に響き続ける。

 相談を禁止にしている訳ではないのだけれど、自然とだれも会話をしなくなっていく。時折だれかの選択でむう。とか、ほうとか。声が漏れたりはするけれどその程度だ。全員が緊張しているのがよくわかる。そして真剣にゲームに向き合っている。その状況に公彦はなんだか懐かしさを覚えていた。

 ボードゲームは最善の一手を常に目指すかどうかと問われたら今の公彦は違うと答える。でも、ほんのちょっと前。隣にいる智也君からしたら子どもの頃。その頃の公彦は最善の一手のみを目指していた。そのために研究もしたし、仲間と時間を費やし続けたりもした。それでも最善の一手なんてものには届きはしなかったし。結論からすればそれになんら意味がないことだと気がついた。

 四巡ほどした目の前の天下鳴動の盤面はやや智也君有利で進んでいるように見える。高得点である春日山城を拠点としたかと思ったら、一番南の首里城を唯一手に取るとそこから北上するように京を目指しているように攻め込んでいる。まるで、本丸である鎌田君を討ち取りに目指しているようにも見える。

 一方、最初に京に兵コマをおいた鎌田君はおとなしいものだ。バランスがいいというか出たダイスの目に逆らわずいつでも勝ちに繋げられるように京を中心にその勢力を増やしている。虎視眈々と上洛を狙っているようにも見える。

 進みが遅いのがミホちゃんだ。ダイス目がよくないのもあるが兵コマを置く数が少ない。しかし要所である十二の吉田郡山城に唯一兵コマを置いているあたりダイス目が偏っているとも言える。それに思い切りがよく動きとしては悪くない。

 公彦といえば。最善の一手には程遠い波風を立てない平凡な展開。智也君との争いを避けていたら自然とまとまりがない置き方になってしまったのだ。情けないと思いながらもどうなるかわからないのも確かだし諦めてはならない。お祭りが掛かっているのだ。

 最善の一手を追い求めるがゆえに失ったものも多い。公彦は懐かしい顔を思い浮かべる。その中で今も付き合いがあるのは目黒さんだけだ。そもそも彼がいなかったらこんな風に地面に足を付けて生きていられなかった。

 その目黒さんに食ってかかっていたミホちゃんが目の前で淡々とゲームを進めているのを見て当時の自分となんとなく重ねてしまう。なぜだろうと当時の記憶を掘り下げると声が聞こえてきた。

『なあ。太田さんよ。なんでそんなにつまらなそうにするんだ』

 目黒さんだ。そんなつもりは全くないと公彦は答える。このゲームを真剣に楽しんでいる。それは間違いないからだ。

『とてもそうは見えないぜ。それが証拠にほら』

 目黒さんは周りを見渡せと言わんばかりに首をぐるりと回す。記憶は確かではなく。ほかの誰の顔も思い出せはしない。でもそれが確かに証拠だったのだ。公彦はその最善の一手を突き詰めるあまり一緒に遊んでいる人の顔すら覚えていない。

『な。少しは分かっただろ』

 その時は頷いたもののなんにもわかっちゃいなかった。分かったのはずっと後。会社を辞めてすべてを失ったと思っていた時だ。だからこの時は目黒さんが何を言いたいかずっと不思議だった。

「ね。ミホちゃんは今楽しい?」

 だから。そう自然と口から言葉が出た。

「どうしたんですか。太田さん。いまさらそんな言葉で揺さぶろうっていうんですか」

 鎌田君が横から守るように間に入ってくるが。そちらに視線を移すことなくまっすぐとミホちゃんを見る。

 ミホちゃんは言葉をつまらせてしまったのか。答える気がないのか口を閉ざしたままだ。なにかを考えているようにも見える。

「チヒロもハルちゃんもミツルちゃんも待ってますよ」

 その沈黙を破って智也君がボソリとつぶやいた。智也君は公彦とおんなじ物を感じているのかもしれない。いやそれ以上に感じているのだ。チヒロちゃんのそばにいるのだから。もっといろんな話を聞いているのだろう。

「なんなですか。あんたたちは。そうやって心揺さぶって勝とうっていうんですか。しつこいですよ」

 鎌田君が怒り出すのも無理はない。公彦自信こんな雰囲気にするつもりもなかった。でも、声をかけずにはいられなかった。ミホちゃんが浮かべていた表情が動かずにはいられなくした。

「まあ。落ち着いてくださいよ。この状態でゲームを続けてもお互い納得できないでしょうし。少し休憩しませんか」
「必要ないでしょう。このままこっちのどちらかが買って終わりです。さっさとこんな勝負終わらせてお互いスッキリさせましょうよ」

 話は平行線。お互い譲る気ないのは表情からも読み取れる。時間がかかっても譲れないな。そう思っていた時の事だ。

「楽しんでますよ。ちゃんと。ボードゲームをちゃんと」

 ミホちゃんがそう口にしたことに対してなにかが腑に落ちた気がする。隙間だらけだったこの空間がぱちりと音を立ててパズルのように何かにハマった。そう思った。

「そっか。じゃ。気にしすぎたね。ゲームを続けようか」

 それがミホちゃんの本心かどうかは関係なかった。そう言ってもらえただけで大丈夫だと思えた。

 そこからはまた淡々とゲームが進んでいった。狙ったところに思うように兵コマを置けないもどかしさが全員続く。特に鎌田君がイライラし始めているのが手に取るようにわかった。ダイスの数字が悪いとしか言いようがない。これまで築き上げてきた場所に思うように置けていない。上洛という戦略カードを狙っていたにもかかわらず京の周りを固めることもできていない。最高得点である十二なんてミホちゃんが一個兵コマが置いてあるだけだ。鎌田君もそこに置きたいのだろう。毎回のようにダイスを振り直しては悔しそうな顔をしている。

 残りの手持ちの兵コマの数も少なくなってきた。全員が置き終われば合戦フェイズに移行するのだけれど。ここまでだれも戦略カードを手にしていない。いつ動くか全員が見定めている。そしてその鎌田君の手番。そのダイスにすぐに伸びなかった。

「これを使わせてもらいます」

 そう言って手に取ったのは謀反のカード。ボードに置かれている兵コマを一個自分の手元の兵コマと入れ替えることが出来る。それが意味することは公彦にとって予想外だった。

「ごめんミホ。これも勝つためだから」

 そう言ってスッとミホちゃんの黄色い兵コマを十二である吉田郡山城から取り除いてミホちゃんのもとへ戻すと自らの赤い兵コマを吉田郡山城に置いた。

 まさしく謀反だ。いや、部下を切り捨てた。がより近い。

 確かにミホちゃんの兵はばらけていて正直最高得点を取っても勝てるかどうか怪しいところだ。それに比べて堅実に点を稼げそうな鎌田君が最高得点である十二のチップを得ることが出来ればそれは盤石なものになる。それは間違いない。でも。

「そんなのってアリなんですか」

 声を出したのは公彦じゃない。智也君だ。その声には怒りが込められている。

「どういう意味?ちゃんとルール通りのはずだけどね」
「そうじゃなくって。仲間じゃないんですか。それをそんな簡単に奪い取って。それで。それでいいんですか」
「仲間って言ったってこのゲームは個人でやるものでしょ。たまたまお祭りを賭けているだけ。その中で最善の一手を目指すのはごく自然の事だと思うのだけれど。違うのか。それが違うって言うなら君の方こそ。ボードゲームを甘く見ているんじゃないのか」

 鎌田君の言葉に智也君の言葉が詰まる。公彦にはどっちの気持ちを分かる。ふたりを見ていると若いなぁと思う位だ。それでも見ていて気分がいい展開ではない。

「私のことなら大丈夫ですよ。所詮は遊びです。割り切ってます」

 にこりと笑うミホちゃんのその表情が怒っているように見えて。背筋が震えた。顔は笑顔だ。でもその表情の奥に底知れぬ怒りを感じる。

「そ、そうですか。ならいいです」

 すぐに引き下がる辺り智也君はその表情の真意に気が付いていないのか。周りにその表情をする人がいなければ意外と気付かない物なのかもしれない。それは鎌田君も同様みたいでにやりとしている。ほら見たことかと言わんばかりのしたり顔だ。

 視線をミホちゃんに送っていたに本人に気が付かれる。にこりと返される。その笑顔はどういう意味だ。

「さ。続きやりましょ」

 戦略カードは誰かが兵コマをすべて置いてしまった時点で使えなくなる。ここからは早い者勝ちでカードを使っていくことになりそうだった。

 でも続くミホちゃんは普通にダイスを振って清州城に一個だけ置く。これで、ミホちゃんから始まったにもかかわらずミホちゃんの手元の兵コマが七個。智也君が二個。公彦が三個。鎌田君が四個だ。戦略カードを使わずに終わるのは基本的にはもったいないので、ここから智也君と公彦が戦略カードを使うと読んでの選択か。使った鎌田君は四個なので次の手番で上がることはない。

 続く智也君は加勢の戦略カードを使って京へ自分の手元から兵コマを一個送り込む。これで智也君が五個を配置し二番手の鎌田君と三個差。ほぼそれを自らの手にした。しかし公彦もそれに続く。追放の戦略カードを手に取ると四国の岡豊城にある鎌田君の米を京へと送り出して岡豊城を手中に収める。

「ちっ。粘りますね」

 鎌田君はもうダイスを振るしかないのであとは運だよりだ。振り直すもののダイス目は振るわず。九州は臼杵城に二個置けただけ。そしてミホちゃんの手番。

「私はこれですね」

 そう言って手にしたのは戦略カードの退却。ボード上から三個を手元に戻すことが出来る。これでミホちゃんの手元には十個の兵コマがある。

 天下鳴動は早く兵コマを起きった方が有利につながる。それは早く起き切ったプレイヤーが同数の場合はその城や館のチップを得ることが出来るからだ。置くのは後に置いたほうが有利。でも数字で届かなかった場合は先に置ききったプレイヤーが有利なのだ。でも。ほかのみんなが一個、二個や三個の中ひとりだけ十個と言うのは大きい。もしかして最初からこれを狙っていたのか。

 ちゃんと楽しんでますよ。蘇ってくるその言葉が公彦の心を震わせた。やっぱり大丈夫なんだと。

 次の智也君が最後の一個を岡豊城に置くと公彦も稲葉城城へ三個置いて終了。次の鎌田君はダイス目に嫌われて岡豊城に二個置いて終了。残るはミホちゃんの十個のどう置かれるか。
ミホちゃんがすべてを置けばそこからは合戦フェイズに入る。数字が二の場所から順番に一番多くの兵コマを置いてたプレイヤーから順番に置かれた数字のチップを得ていく。二番目まで決めて二番目に多くの兵コマを置いたプレイヤーはその半分の数字のチップを盤外から得る。

 さらにボードに置かれてる数字チップを得たプレイヤーは周囲の自分の兵コマの隣に白い援軍兵コマを二個配置していく。これをチップの数字が十二まで進めて一番多くの得点を集めればいい。

 盤面を見る限り鎌田君が有利に見える。しっかりと計算したわけじゃないけれど六、七、十二あたりを抑えているのが強い。やはり、ミホちゃんから奪い取った十二の影響が大きいしそこに援軍を送れるように取り囲んでいる辺りは流石だ。次点は公彦。続いて智也君だ。でも全てはミホちゃんのダイス目次第。

 張り詰めていた空気がより一層張り詰めていた。とはいえ鎌田君だけは余裕な表情。ミホちゃんが勝とうと自分が勝とうと結果は変わらないからだろう。

 たいして智也君は青ざめている。お祭りに出店することが出来ないと本気で考え始めているようだ。そういえば最後辺り兵コマを置く手が震えていた。君が気負うことはない。また来年だってある。そう言葉をかけたところで慰めにならないことは分かっている。今からでも約束を破棄すればいい。どうせ口約束しかしていない。そもそも向こうにもこちらの出店権を奪う必要なんてないはずだ。商店街の会長を説得さえできればいいだけの話だ。そうひたすらにどうすればいいのかを考えている。このゲームで出来ることは全部した。だからやれるのは待つことと考えることだけ。だとしてもネガティブすぎる。それだけ鎌田君のゲームメイクが上手だったとうことだ。終始手のひらの上で踊っていた。

 勝負を申し込んできたのも最初の一手を打ってからだ。おそらくはその時から全部鎌田君の手中だった。
それにしてもミホちゃんもじっくりと考えている。鎌田君と同じ気持ちならさっさとコマを置いて終わらせてしまえばいいだけなのに。ちゃんとゲームを楽しんでいるという言葉が嘘ではない証拠か。

 スッとボードに視線を落としていたミホちゃんの顔が上がって公彦と目が合った。そしてにこりと笑う。

「鎌田先輩。私勝ちますね。で勝ったらセカンドダイスにお祭りに出てもらうことにします」

 その言葉に驚いているのは公彦だけじゃない。鎌田君もだ。智也君は何を言っているのか理解できていないようでポカンとしている。

「は?いきなり何を言い出すんだ。そんなの認めるわけないじゃないか」
「鎌田先輩が最初に言ったんですよ。勝ったほうがいるチームって。私もセカンドダイスのチームに入りますね。ルールは守らないとだめですよ。先輩」

 それは言葉通りにというよりもミホちゃんの譲らない意志を感じる言葉だ。それは鎌田君にも伝わったみたいで言葉に詰まっている。

「なんでだよ。急にどうしたっていうんだ」

 ミホちゃんは鎌田君の言葉を聞こうともせずダイスを振る。四である清州城。六である稲葉山城。九である京に順当に兵コマを置いていく。清州城以外は鎌田君が優勢だけれど。清州城から始まる援軍の連鎖ですべてを奪う気でいる。しかし、肝心な十二が出ない。そもそもこのゲーム中、一回しか出ていない六の目が二個だ。ここでそうそう出る者でもない。でも。

「おいってば。止めろよ。ここまで来てなんで……」

 鎌田君が焦っているのはミホちゃんが本当に勝ってしまいそうだからだ。その勢いが今のミホちゃんにはある。

 静かに振ったダイスは四、六、二。それでは勝てない。でも、このゲームには振り直しがある。セカンドダイスだ。

「おいっ」

 いてもたってもいられなかったのか鎌田君の手がミホちゃんの肩を掴んだ。力ずくでも止めたいらしい。慌てて公彦も立ち上がるがテーブルをはさんで向こう側のことを止めるのは難しい。

「おいっ。鎌田いるか」

 突然部屋のドアが開いた。

「えっ。目黒さん?」

 真っ先に声を出せたのは、智也君だった。対する公彦は何が起きているのか把握している最中だった。見知った顔が目の前に急に現れて混乱してしまった。

 鎌田君も驚いた顔をしている。名前を呼ばれたと言う事は知り合いなのだろう。これまでの自信満々な表情が怯えているように見えるのは気のせいだろうか。だとしたら目黒さん一体なにをしたって言うんだ。

 顔と体が強面なだけに、想像はどこまでも広がってしまう。

「あれ?店長?こんなところで何してるんです。智也君まで。まあ、ミホちゃんはいいとしてもよ」

 目黒さんも困惑している。ぺこりと頭を下げる智也君を見て大きな体につぶらな目をパチクリさせていた。それにしてもミホちゃんがここにいることは知っていたみたいだ。どういう訳だろう。急展開についていけない。

「それはこちらのセリフですよ。なんだってここに。しかも鎌田君の名前を叫んだりして」
「あっ。そうだ。おい、鎌田。お前、聞けば裏でこそこそあくどいことやってるらしいじゃないか」

 何かを思い出したのか目黒さんはすぐさま目がキリッとして、鎌田君を睨めつける。どうやあ知り合いなのは間違いないらしい。

「だ、だれがそんなことを。何もやってませんって」

 鎌田君はおどおどしっぱなしだ。よっぽど怖い目に合わされたのだとみえる。師弟関係とかそういうのか。そうだとしたら目黒さんも厄介な弟子をとったものだ。

「うっせい。ちゃんと証言者がいるんだよ。この前ここに場所を移動するとき言ったよな。少しでも疑われるようなことをするんじゃねぇぞって。お前、疑われるどころかがっつりやってんじゃないか」

 気になるワードがいくつか出てくるがすごい形相の目黒さんを止めるすべなどなくて、大人しく聞いていることしかできない。

「ボードゲームに賭け事はご法度だって最初の頃にいったよな。それにこの場所も金儲けのために始めたわけじゃないとも。ボードゲームってものをもっといろんな人にやってもらうために作ったんだって。そう言ったよな」

 このゲームスポット『ツヴァイ』は目黒さんが作ったものなのか。そういえば仲間内で遊べるスペースを作ったと言っていたことがあった。作っても店長の店にお金は落とすよ。と微笑んでいたのを覚えている。

「は、はい。言ってました。で、でも。お金を集めたほうがもっと多くの人にボードゲームをやってもらえるとも思います。それに、お金がなきゃいきていけないでしょう。身を削ってボードゲームを広めたって自分が生きていけなきゃ意味がない。そんな無意味な大人にはなりたくないんですよ。もっと広めたいなら楽に稼がなくちゃ」

 すっかり萎縮してしまっていた鎌田君だったが塞き止められていた感情が吹き出すように、言葉になっている。

 しかし、その言葉は公彦にもよく刺さった。言ってることはわかる。

 ボードゲームを商売にしている身だ。生きているだけで精一杯の月だってある。会社務めしていた頃の貯金は、子どもがこれから成長していくことを考えたら手をつけられない。

 正直お店を続けていけるかどうか、怪しい日々を過ごしているのだ。それでも踏ん張るしかないとセカンドダイスを作る時に決めたのだからそれを曲げるわけにはいかない。

「バカ野郎!だったらもっと真っ当な商売の仕方をしやがれ。お前のやり方はボードゲームに触れる人を増やすかも知れないが、ボードゲームを嫌いになる人を増やすやり方だ。それこそ、そこにいる店長みたいに真っ当にボードゲームを広めている人たちに顔向けできないだろうが。大体祭りの件だってやけに詳しく聞いてくると思ったらお前商店街の会長を言いくるめて店長から出店の案件も奪ったんだろ。そんなやり方でだれがお祭りを楽しめるって言うんだ」

 鎌田君がこちらを向く。その表情から感情を読み取るのは難しそうだ。複雑な表情をしている。自分が正しいと思っているが反論するすべを持たない子どものようだ。

「で、でも。その件については決着がもうすぐつくんですよ。こうやって勝負も最終局面まで来てる。それは太田さんだって納得してのことだ。これは譲れません」
「あ?それって天下鳴動か。っていうか店長そんなこと納得したのかよ」
「え、ええ。まあ話の流れで。今からミホちゃんが最後のダイスを振るんです。それでミホちゃんが勝ったらセカンドダイスが出店。負けたらツヴァイが出店するってことで納得してます」

 目黒さんに押されてか鎌田君も焦ってゲームを進めようとした。それがあだとなった。

「店長がそういうならしょうがないけどよ。まあそう言うからには勝算もあるんだろうよ。景気よく振っちまいな」

 目黒さんにそう促されたミホちゃんがこくりと頷く。その目には力強さが宿っている気がした。そしてそれに見覚えがあった。

 セカンドダイスを振るチャンスを逃さない人は見んなその目をしている。

 ミホちゃんがダイスを勢いよくテーブルに転がした。
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