死神勇者は狂い救う

製作する黒猫

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23 奴隷の紹介

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 ローブを選び終えたアルクとリテと合流し、2人にルトを紹介することになった。

「今日から私の奴隷になった、ルトだよ。」
「よろしくお願いします。」
 アルクとリテは納得がいかないという顔をした。

「サオリさん、なぜ奴隷などお求めに?」
「話相手が欲しくて。それに、ルトは結構強いから護衛にもなるらしいですよ。」
 後半は嘘だけど。ルトの強さは剣を多少扱える程度。護衛と呼ぶには頼りない強さだった。

「話なら俺たちが聞いているだろ?それに、護衛だって、何が不満なんだ?」
「これから旅に出るなら、ずっと私につきっきりというわけにもいかないでしょ?」
 どうやら2人は反対のようだ。奴隷を持つことに反対なのか、自分の能力を疑われたと思って不満なのかはわからないけど。とりあえず、ここは押し切るか。
 私が再び口を開こうとすると、その前にゼールが口を出した。

「私がおすすめしたのですよ。それに、これはローブと同じで贈り物ですので、お気になさらず。どうかお使いください。」
「ローブと同じ・・・ですか。」
 眉間にしわを寄せるリテもアルクも納得はしていないようだが、アルクは渋々といった様子で許した。

「サオリを守るやつは一人でも多い方がいいだろう。な、リテ。」
「・・・わかりました。」
 どうにかルトを仲間に入れることができた私たちは、ゼールとなぜかお茶の約束をして、城に戻った。


部屋に戻ると、リテがルトを連れて行き、アルクと2人きりになった。
いつものようにソファに並んで座る。目の前の机には暖かい紅茶が用意されていて、いい香りがする。

「サオリ、なんであの獣人を選んだんだ?どう見ても弱そうだし、護衛を兼ねるならもっと強い奴を選べばよかったのに。」
「ま、そうだよね。あの子より強い獣人は何人か紹介されたし、最初は私もそっちを選ぼうと思っていたよ。」
 でも、紹介された獣人のうち半数に怯えられ、選択肢は2つになってしまった。それでもルトを選ぼうとは思わなかったのだが、彼の考え方が気に入り彼を選んだのだ。

「少し話をして、あの子が気に入ったから、ルトにしたの。」
「気に入った!?まさか、あぁ言うのが好みか?」
「え、嫌いではないけど・・・好みかどうかといわれると、ちょっとわかんないかな。私、子供嫌いだし。」
「いや、サオリだってこど・・・いや、なんでもないや。」
「何よ?」
「あー・・・子供のどんなところが嫌いなんだ?」
「うるさいし、何してくるかわからないところ。」
「即答だな。」
 前の世界でも聞かれたことがある質問だったからだ。
 レストランで騒ぐ子供とか、前も見ずに走り回る子供とか、嫌気がさす。それを注意しない親もどうかと思うけど。

 前の世界で、歩いていたら子供が走ってぶつかってきたことがあった。子供はもちろん、その後ろを歩いている親も謝ってこなくて、気分が悪かった。
 ただ、例外もいて。
 親の後ろを歩いていた、子供のお姉ちゃんらしき子が、子供を叱っていた。ま、謝ってこなかったけど、そのお姉ちゃんも子供なのだから、叱ってくれるだけありがたいと思った。

 ということを思い出していたら、アルクが苦笑いを浮かべた。

「本当に嫌いなんだな。」
「うん。」
 声を掛けられたことで、思い出すのはやめた。
 何の話をしていたか思い出し、私はアルクに質問した。

「アルクってさ、私のこと怖いと思ったことある?」
「え?」
 これは一応聞いておかないといけないことだ。私の力を感じるのは、獣人だけなのか。それとも、人間もそうなのか。もし、人間も感じるのなら、対策を練らなければならない。

「サオリが怖いかって?」
「うん。」
「怖い・・・か。」
 腕を組んで考え始めたアルク。そんなに悩むことだろうか?

「ちなみに、なんでそんなことを聞く気になったんだ?誰かに怖いと言われたのか?」
「・・・ま、そんなところかな。ほら、パーティーの時だって死神って怖がられていたし。」
 それがきっかけではないが、わざわざ私の力に獣人が怯えたなんて言う必要はないし、それは知られたくないことなので、この話を持ち出した。

「あいつらと一緒にされるのは、あんまり気分がいいものではないな。」
 不機嫌そうなアルクの声に、申し訳なくなった。そうだ、アルクは別に私に怯えるそぶりなんて見せていない。あの人たちとは違う。

「ごめん。ちょっと考えなしだったね。アルクがあんな人たちと同じとは思えないけど、この世界の人から見て、私って怖いのかと気になっただけなんだ。本当にごめんね。」
「そうか。だよな。あんなのと一緒に見られてたらどうしようかと思ったぜ。安心しろよ、サオリは全然怖くなんてない。むしろかわいいぞ!」
「え、かわ・・・いい?」
 さらっと言われた言葉に、深い意味なんてないはずなのに、顔が熱くなった。

「うっ・・・そういうところも、いいと思う。」
「それは・・・ありがとうございます。」
 なんだか恥ずかしくて、アルクの顔を見ていられないと思い、意味もなく紅茶の入ったカップを眺めた。

「あ、帰ってきた。」
 アルクは立ち上がって、扉を開ける。すると、ノックをしようと手を上げていたのだろう、リテが立っていた。その隣には、着替えたルトがいる。

「執事服・・・」
「すぐに用意できるものが、これしかなかったもので。」
「いや、それは嘘でしょ。」
「はい、嘘です。服はサオリさんが選びたいかと思い、テキトーなものを持ってきました。明日、服屋を呼びますので、そのときお決めください。」
「ありがとうございます。よくわかりましたね・・・」
「あなたのことはよく見ているつもりなので。」
 リテは私の隣に座ると微笑んだ。それに続いてアルクも私の反対側に座る。すると、ルトが戸惑っているのに気づいた。

「ルト、そこのソファに座って。」
 私は目の前のソファを指さした。ルトは、恐る恐るといった様子で、ソファに浅く腰かけた。

「あの、サオリ様。」
「何?」
「僕は、何をすればいいでしょうか?あの、奴隷になったことはこれが初めてで・・・」
「私も奴隷を持ったのは、ルトが初めてだよ。ま、そんなに緊張しないで。」
「は、はい。」
 それでも緊張している様子のルトに、リテが微笑んだ。

「サオリさんは優しい方ですから、そう心配しなくても大丈夫ですよ。」
「私、優しいかな?」
 自分が優しいとは思えなかった。
 前の世界では余裕があって、人を助けたりもしたけどこの世界では違う。自分のことで精一杯なので、人にやさしくする余裕なんてない。


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