死神勇者は狂い救う

製作する黒猫

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42 予定通りに

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 さて、クグルマは倒したことだし、あとは後始末をつけないとね。

「ルト、ここで少し待っていてくれる?」
「は、はい。」
「移動魔法。」

 移動したのは、ゼールの例の部屋だ。思った通り部屋にいたゼールに声をかけた。

「ごめん、急いでるんだ。汚れを落とすものと、人払いができる大きな建物を貸してくれる?大きさは・・・熊の魔物を2体分置けるくらいで。」
「わかりました。すぐに手配しましょう。」
 一礼をして出ていくゼールを見送り、私は考えた。どうすればクグルマが倒されたことをごまかせるか。だが、思いつかない。

「逃げ切ったとか、無理があるし。だからと言って、予定通りルトが倒したってのも無理がある。」
「お待たせしました、サオリさん。」
「ありがとう。」
 戻ってきたゼールからぬれタオルを受け取り、顔の血を拭き取る。

「魔物を置く場所は、前の倉庫を使ってください。あそこなら今すぐ迎えるでしょう?」
「ありがとう。さっそく使わせてもらうね。移動魔法。」
 顔を拭きながら移動魔法を使って森に戻った。

「サオリ様!」
「ルト・・・この魔物はあなたが倒したことにするから。」
「え・・・それはどういう。」
「無理があるけど、私が奴隷を欲した理由は・・・私が倒した魔物を奴隷に倒させたことにするためでもあるの。わかってくれる?」
「ですが・・・」
「ごめん、また移動するね。移動魔法。」
「サオリ様!」
 私はクグルマの死骸とクグルマの剣を持って、倉庫に移動した。そして、次にゼールのもとへと移動する。

「ゼール、倉庫に四天王のクグルマの死骸を置いたから、わからないように処分してくれる?あと、剣もあるから、剣はできれば倉庫に置いといて。」
「四天王ですか・・・初めての獲物が、大物ですね。いつかこういう日が来ると思って、倉庫の用意はしていましたが・・・」
「さすがに四天王を処分するのは無理?」
「いいえ。お任せください。剣は、あとで別の場所に移動しますが、それでよろしいですか?」
「うん、よろしく。」
「お待ちを。」
「え?」
 ゼールは私の顔に白いハンカチをあてた。ひんやりとしているので、水につけておいたのだろう。

「少し落ち着いたほうがよろしいかと。」
「・・・ありがとう。でも、急がないと・・・」
「それはなぜですか?」
「アルクたちが森に入ってきてしまうかもしれないから。追いかけてきそうな気配だったし・・・」
「仲間とは離れているのですね。」
「うん。ルトは一緒だけど・・・ルトを待たせているから行くね。」
「戦うのはお好きではないのですね。」
「!」
「おびえている・・・目をしています。ですが、四天王におびえた様子はない。なら、戦うこと自体におびえているのでしょうか・・・」
「・・・移動魔法。」
 逃げるようにして私は移動した。

「サオリ様・・・」
「お待たせ、ルト。さっき言った通り、ルトがクグルマを倒したことにしてくれる?」
「嫌とは言いませんが、無理がありますよ。」
「わかっているけど・・・」
「クグルマから逃げ切ったことにしてはどうですか?」
「それはできないの。だって、そしたら・・・希望が無くなる。」
「希望?」
「そう。みんなクグルマに負けた。それは圧倒的だったでしょ。こんなんじゃ、魔王討伐になんていけないでしょ?」
「それはそうですが・・・それではだめなのでしょうか?」
「え?」
「だって、サオリ様は戦いたくないんですよね。なら、いいじゃないですか!勇者だからって、魔王を倒す必要なんて、ありませんっ!」
「ルト・・・」
 ルトの言葉の通りだ。でも、それではこの国では生きていけないだろう。私は勇者、魔王を倒すことで、存在を認められる。倒す気はないけど。
 魔王がいなくならないと、私が何もしないことをとがめられる。だから、魔王にはいなくなってもらわなければならない。

「悪いけど、魔王は倒さなくっちゃいけないの。」
「サオリ様・・・」
「移動するよ?」
「・・・わかりました。僕は、サオリ様に従います。」
 私は頷いて、移動した。



「信じられるわけがないわ。」
 馬車に戻り、回復した仲間にルトがクグルマを倒したことを話した。だが、やはり信じてはもらえない。

「信じられないといわれても、私に言えるのはこれだけだから。」
「・・・」
「そうはいってもな、もう少し説明できんのか?おらたちを一瞬で倒した魔物を、そこのルトが倒したといっても、信じられん。」
「そうよ。倒したって、どう倒したのよ?」
「いつの間にか倒れていたから、説明しようがないし説明する気もない。だいたい、それは嫉妬じゃないの?自分が倒せなかった魔物をルトが倒したのが面白くないんでしょ?」
「そんなわけないじゃない!」
「それは失礼にもほどがあるぞ、サオリ!」
「サオリさん・・・とりあえず、クグルマの死は確認したのですね?」
「はい、それはもちろん。完全に死んでいました。」
「それだけわかればとりあえずいいか。よし、ここにいても時間の無駄だ。森の異常は取り除いたことだし、町に報告に行こう。」
「アルクっ!いい加減にしてくださいな!」
「俺たちが何か言える立場かよ?黙って、馬車に乗ろうぜ。」
「アルク、それは違うと思うぞ?これははっきりさせておくべきじゃないのか?」
「しかし、サオリさんが話す気がない以上、時間の無駄でしょう。今重要なのは、クグルマの生死だけではありませんか?」
「・・・はぁ。まぁーいいだろう。」
「マルトーあなたまでっ!?」
「ここはひいとけ、プティ。ほら、馬車に乗るぞ。」
「・・・わかりました。」
 とりあえず、これ以上聞かれることは内容で安心した私は馬車に乗り込んだ。


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