死神勇者は狂い救う

製作する黒猫

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90 魔王の倒し方

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 山の頂上、そこに小さな闇が現れた。その闇は大きくなり、やがて人間一人分の大きさにまで広がって、そこからシルクハットの男、ラスターが現れた。

「危なかったですね。危うく殺されるところでしたよ。」
「すまなかったな、ラスター。」
 最初からそこにいた男、ルドルフは申し訳なさそうに謝ったが、ラスターはとんでもないという風に手を振った。

「私が言い出したことです、お気になさらずルドルフ様。」
「だが、お前を失うことにならなくてよかった。しかし、お前もサオリをあおりすぎだ。ただの時間稼ぎにあそこまであおる必要はなかっただろう。」
「申し訳ございません、性分なもので。それにしても、やはり面白いですなぁ、サオリ様は。」
 舌なめずりでもしそうなラスターに、ルドルフはくぎを刺す。

「サオリに手を出すな。」
「承知しております。ただ、あのままですと時間の問題ですよ。何かのきっかけで、サオリ様は私のお仲間になってしまうでしょう。」
「だとしてもかまわない。どれだけ血に染まろうと、その血に酔おうと、サオリはサオリだ。俺が助けず、変わってしまった女だ。」
「気に病む必要はないと思いますが、そうはいかないのでしょう?」
「あぁ。俺はあいつを・・・救いたい。」
「たとえ、恨まれてでも、救う。あなた様のそういうところを、私は好んでいますよ。最後までお供いたしましょう。」
「頼む。とりあえず今日は帰ろう。もう、どこにいてもサオリの居場所はつかめるからな。」
「サオリ様に施した魔法を気づかれなければよいのですが。気づくとしたら、王女様か聖女様でしょう。」
「気づいたところでどうにもならないだろう。たかが、人間だ。」
「そうですね。」
 2人は、最後にサオリがいる方向を見つめた後、転移で拠点へと帰った。



 四天王のラスターが去った後、私はマルトーと話し合いをする約束をした。みんなが寝静まった後、話し合いをする。それまで、ここであったことは一切話さず、仲間には後日話すことを約束し合って、仲間と合流した。

 私は、移動魔法で馬車まで戻り、血に汚れた服を着替える。馬車には誰もいなかったので、他の仲間はまだ山にいるのだろう。馬車は、山のふもとに置いて、プティが魔法で隠していた。でないと、魔物や動物、盗賊などに荒らされるからだ。

「はぁ。マルトーにまで見られたのは最悪・・・なんでついてくるかな、本当。」
 秘密にしたい能力を知る者が日々増えていく。隠し通すことの大変さがよく分かった。

「もう、ルトは最初から話してるし、アルクは能力でばれていたし・・・リテは自動治癒がばれていて・・・今回はマルトー。もう、隠す意味もないかもしれないか。」
 ほぼ、すべてを知っているのが、アルクとルト。そして、今回マルトーが加わった。
 リテは、戦闘能力を知らないし、移動魔法についてもある程度しか知らない。
 プティは、自動治癒があることを予想している。
 エロンは、私からは話していないが、何か知っているような気がするし、エロンになら話してもいいとは思っている。
 オブルは、何となくわかっている気がするけど、私から話したことはない。

「・・・そろそろ、移動魔法のことは話そうかな。いずれ話すことだし。」
 魔王との戦いで切り札として使うつもりの移動魔法。これについては、魔王を倒すのに必要な能力を話すつもりだ。
 とは言っても、仲間はすでに知っていることばかりだけど。



 その後、マルトーと共に仲間たちと合流し、私たちは話を明日にして、疲れたので今日は寝ると言って、仲間への説明を後回しにした。

 そして、この日は野宿だったため、馬車を適当なところに止めて、それぞれ眠りについた。

「マルトー、起きてる?」
「あぁ。」
「とりあえず、移動」
「何をしているのですか、サオリ様。」
 移動しようと提案しかけたところで、後ろから声をかけられた。振り向かなくてもわかる。ルトだ。

「サオリ様、マルトーとどこに行こうというのですか?こんな夜更けに男と2人出歩くなんて、危険だってわからないのですか?」
「・・・危険って・・・」
 悪いが、そこら辺の盗賊なんて一捻りだし、マルトーも弱すぎて話にならないので、何が危険なのかわからない。いや、マルトーは危険かもしれないけど。

「今日だって、動けなかったじゃないですか。」
 それは、あの魔物と出くわした時だろう。なぜか、あの魔物を見たとき体が動かなかった。怖くて仕方がなかった。でも、エロンを傷つけられて、頭に血が上ってからは恐怖を感じなくて、今まで忘れていた。

「いつでも動けるとは限りません。人間なんですから、体調が悪い時だってあるでしょう?お願いですから、僕から離れないでください。目の前にいてくださらなければ、守ろうとすることだってできません!」
「ちょ、声が大きいよ。」
「とにかく、こいつも連れていくか。」
「なら、僕も連れて行っていただきましょう。」
 声が増えたと思ったら、むくりとリテが起き上がった。続いてアルクも。

「増えたな。えーと、他に行きたい奴いるか?」
「いや、やめてよマルトー・・・え?」
 マルトーが声をかけると、プティとエロンも起き上がって、闇の中からオブルまで現れた。

「・・・」
「もう、隠し事は終わりにしようぜ、サオリ。」
「マルトー、まさか話したの?」
「勘違いするな。おらはサオリから夜の逢引きのお誘いがあったと言っただけだ。」
「あいびき?逢引き!?ち、違うよ、何言ってんの!?」
「ガハハハッ。冗談だよ、じょーだん。」
「冗談だったのですか。今日のうちに亡き者にしようと思っていましたが、命拾いしましたね。」
「笑えねー冗談だな。」
「冗談ではありませんので。」
「・・・」
「で、サオリ、どうするんだ?話すのか?」
 アルクの問いに、私は考えるもなく答えた。

「話したいことは話すよ。そろそろ、魔王とどう戦っていくのか話さなければならないって、思っていたし。その前に一応聞くけど、みんなは魔王を倒す気でいる?」
「もちろんです。それがサオリ様の望みなら。」
「俺も、サオリの騎士として、魔王を倒すつもりだ。」
「当たり前じゃない。いまさら何を言ってるのよ。」
「私も行くわ。あなただけ行かせることなんてしない。」
「おらも、そういう契約だからな。」
「俺はサオリの護衛だ。サオリが行くというなら、俺も行く。」
 ルト、アルク、プティ、エロン、マルトー、オブルが即答した。いまさらなんだと言った感じで。だが、リテはみんなの問いを聞いて眉をしかめる。

「リテは?」
「僕は、サオリさんの騎士ですから、もちろん同行します。ですが、約束は忘れないでください。」
「わかってる。なら、この8人で、魔王を倒す。これから、ざっとだけど考えていることを話すね。」
 そして、私は魔王を倒すために、移動魔法をどう使うのかを話した。もちろん、ルトとアルクがもうすでに訓練していることを話し、他のメンバーもそれぞれ力を付けなければならないことも。

 私の自動治癒と戦闘能力のことは触れなかったが、マルトーは何も言わず黙って聞いて、案に乗ってくれた。

「正直、これくらいしか魔王を倒せる方法は思いつかなかった。魔族と人間の力量差は、四天王と対峙したときにわかったからね。」
 私の言葉に、全員が思い出したように肩を落とした。

「私の能力があれば、魔王と対峙して劣勢になった時に逃げることができる。でも、この作戦は一度きりしか効かない。だから、私たちが戦えるのは一戦だけ。誰一人と欠けることを私はさせるつもりはないから・・・だから、みんなで魔王を倒して、祝いたいって思う。また、お茶をしよう。今度は全員で。」
 このメンバーで魔王を倒したい。そのためには、一回の戦いで魔王に勝たなければならない。

 もし、負ければ、このメンバーで魔王を倒すことはもうないだろう。魔王討伐の話自体無くなってしまうかもしれない。

 それでいいって、最初は思っていた。

 でも、私は魔王を倒さなければならない。だって、それが勇者の使命で、魔王を倒さなければその使命から逃れられないのだから。


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