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23 馬車の旅
しおりを挟むガタン。大きな揺れで、俺は目を覚ます。
ルマスをたってから半日、俺たちは馬車で移動中だ。乗り合い馬車を使っているので、他にも数名人がいて、話声が聞こえる。
人のよさそうな夫婦、恋人かと勘違いするほど仲がいい兄と妹。他にも数名乗客がいる。どの人も気さくで話しやすい。いい同乗者に恵まれたと思う。
「目を覚ましたんですね。もうすぐ休憩時間ですよ。」
隣のサウスが、俺が目覚めたと気づき話しかけてきた。
「そうか。」
「ここら辺は比較的安全なので、休憩時間は狩りにでも行きましょうか。座りっぱなしでは体に悪いですし。」
サウスは肩をまわした。そういえば、こんなにゆっくり話すのは久しぶりだな。
「サウスは、何をしていたんだ?」
「ルマスでですか?ずっと追っかけをやっていましたよ。」
「追っかけ?有名人でもいたのか?」
「ふふっ。さぁ、どうでしょうね。」
話す気はないようだ。しかし、そういうことをするように見えないので驚いた。
「ロジと一緒にいたのか?」
「えぇ、たまには。それより、ルマスはどうでしたか?少しは気分転換になりましたか?」
「残念ながら、ロリが邪魔で休まる日がなかった。」
「それは・・・災難でしたね。しかし、女性は人生に潤いを与えてくれるものです。いつの日かきっと、いい思い出になると思いますよ。」
「いい思い出、ね。そんなこと思うほどの時間があればの話だけどな。」
結局、俺は剣を扱えなかった。たった数週間でできるものではないが、できなければ困るのだ。
「・・・ありますよ。」
「え?」
俺は驚いてサウスを見る。サウスは、優しげに微笑んでいた。
「どういう意味だよ?」
「いずれ、わかります。だから、安心してください。」
意味が分からない。俺は、いや、俺たちは死ぬ運命にあるのではないのか?
「うるさいの。」
俺がさらに問いただそうとしたとき、後ろから声が聞こえた。もちろんロジだ。
「起きたのか。しばらく眠っていればよかったのに。」
「サウス、余計なことを言うでないぞ。」
「・・・」
「待てよ、何の話だ?」
「気にしなくてよい。お主は、お主のしたいようにしていればいいのじゃ。」
「答えになってねーよ。」
「答える気はないからの。」
フォフォフォと笑うロジをにらみつけていると、馬車が止まった。どうやら休憩時間のようだ。
「さ、行きましょうか。」
休憩時間は2時間もあるらしい。少し遠出ができるかもしれない。
馬車が止まったのは、道のはずれ、川の流れている場所だった。近くに森があるので、そこへ狩りに行くことになった。
「素振りばかりでは味気がないでしょう。今日は実践してみてください。」
「いや、気を使わなくていいぞ。俺の剣は、小動物くらいしか届かない・・・いや、小動物でも無理か。あいつら動きが速そうだし。」
「そうですね。しかし、やってみれば、案外いけるかもしれませんよ?」
全くそんな気はしない。
「サウス、お主もいい加減にせい。小僧に才能がないのは、わかっているじゃろ。これ以上期待させてやるな。」
「大丈夫だ、期待なんてしない。」
しかし、その言い方はないだろ。ロジに怒りがわいてくる。
「勇者様・・・」
サウスの気遣う視線が心に刺さる。
「ほら、行こうぜ。時間がもったいない。」
俺たちは、3人で森へと向かった。
馬車は、1日で目的地に着くわけではない。なので、夜は野宿をして、朝は移動をする。その野宿で食べる肉を俺たちは狩っていた。
剣やそこら辺の石を使い、次々と獲物を捕らえるサウス。捕らえた獲物を処理するロジ。どちらもできない俺は、木の実を集めていた。キノコも生えているが、どれが食べれるものなのかわからないので、無視だ。
渡されたかごは、もう一杯だ。これ以上は必要ないと思い、俺はかごを置く。
懐から剣を取りだした。2人には死角になっている大木の裏で、俺は素振りを始める。
無駄なことをしている自覚はある。だが、俺には何も思いつかない。生き残る方法、魔王を倒す方法を。
鈴木が話す物語では、主人公たちは努力している者が多かった。何の力もない主人公。使えない能力持ちだと馬鹿にされた者も、自分の能力を伸ばし、知恵と機転でその能力を唯一無二のものに変えてしまう。そして、強者となる。
俺が強者になれるとは思えない。テンプレに従ったって、ことごとくテンプレ通りに行かない俺が、強者になれるとは思わない。だが、希望を失ってはいけない。
希望を失えば、動けなくなるから。
「小僧はまだあきらめておらぬようじゃな。」
素振りの音を聞き、ロジが呟いた。
「だな。」
「誰かさんが、おかしなことを言ったせいじゃな。」
「俺は間違っていない。」
「しかし、自分が剣を扱えるなどと、うぬぼれられては厄介じゃぞ?」
「大丈夫だ。ロジもわかっているだろ?それに、剣を諦めるってことは、生きることを諦めるのと同じだ。」
「極端すぎじゃ。」
「そうかもな。でも、きっと何かをしていなければ不安に押しつぶされる。」
ロジのもとへ、子豚のような魔物を放り投げるサウス。
「騎士じゃない。戦士でも、兵士でもないんだ、勇者様は。」
血に汚れた剣を振って、ついた血を落とす。
「俺たちとは違う。死ぬ覚悟も、殺す覚悟もない・・・」
「ないない勇者か。何もないあやつは、どう生き残るのかの。」
「そうだな。」
「ワシらが死んだとしても、あやつが生き残ることは難しい。」
ロジは、手元にサウスが投げてよこした魔物を引き寄せた。
「いや。俺は信じている。きっと生き残ってくれると。勘だがな。」
「そうか。なら、生き残るかもしれんの。」
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