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6 お祝い

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 ナガミと喧嘩後、ユズフェルトは私を食堂へと連れていき、自分は厨房へと行ってしまった。
 食堂は、木製の机と椅子で、机は3つあってそれぞれ椅子が4席ずつ置かれている。メンバーは、5人しかいないのになぜこんなに机を用意しているのだろうか?
 後で聞いたが、特に意味はないと言っていた。それぞれ別の席でとることもあるので、それで使っているためそのまま置いているようだ。

 そして、その通りに、私が使っているのとは別の机の椅子に、ナガミが腰を掛けた。そのナガミと目が合う。

「なんだ、人間の小娘。」
「いや、別に。」
「フン、エルフがそんなに珍しいか?ユズフェルトと行動を共にするようになって、人間と会う機会が増えた。そのおかげで、実にくだらない種族だということがわかった。」
「そう。」

 やはり、ナガミはエルフだったようだ。そして、エルフのイメージは高慢だった私は、特にナガミの態度に思うところはなく聞き流す。

「人間は力もないのに、同種族同士でも争うという、知性のかけらもない生き物だ。そのくせ、人を蹴落とすことにかけては他の種族を凌駕する頭の回転の速さを持っていて、なんと悪辣なものであるか。」
「そう。」
「強者こそ正義。弱気人間に生きる価値はないというのに、弱さを振りかざし、弱さを理由に集団で個人に挑む。恥さらしもいいところだな。」
「そう。」

 聞き流してはいるが、人間人間と誰の話をしているのだろうか?私ではないことは確かだが。

 ここまで人間を憎んでいるのなら、もしかしたら彼の故郷を人間に滅ぼされたとか、肉親の敵が人間だとか、そういう因縁の相手がいるのだろう。

「お前、また人間の悪口を言っているのか?」
「ユズフェルト。」
「おまたせ、シーナ。悪かったな、老人の相手は疲れただろう。」

 そう言ってユズフェルトは、私の目の前に分厚いステーキが乗った皿を置いた。
 出来立てで、熱々な湯気が立っていて、おいしそうな匂いも漂ってくる。早く食べたいが、匙がないので食べることはできない。

 その時、熱い視線を感じたので私はステーキから顔を上げた。見えたのは、私のステーキに熱い視線を送っているエルフ。
 よだれこそ垂らしていないが、ごくりとつばを飲み込む瞬間は見えた。

「さ、遠慮なく・・・あ、フォークとナイフを忘れた。ちょっととってくる。」
「よろしく。」

 ユズフェルトが厨房へと消える。それを見送っていると、ナガミが殺気だった声を出した。

「人間の娘、それを私によこせ。」
「・・・」

 どこの盗賊だ?呆れてナガミを見ると、彼はマイハシならぬマイフォークとナイフを懐から出して構えた。
 エルフは、食いしん坊で他人の物を欲しがる性質のようだ。

「人間の娘、今失礼なことを考えただろう?」
「食いしん坊で、盗人だと思っただけ。」
「失礼な!」

「本当のことだろ、全く。」

 フォークとナイフを持ったユズフェルトが、呆れた顔をナガミに向けた。

「これは、俺がシーナのために作ったステーキだ。よこせと威圧的に言うなら、お前は食いしん坊で盗人・・・まだ盗んではいないから予備軍だ。盗人予備軍。」
「くっ・・・弱者が、強者に搾取されるのは当然のことだ。」
「お前なぁ・・・」
「フンっ」
「全く、仲間になんていうことを言うんだよ。」
「仲間?その弱そうな人間の娘が、龍の宿木のメンバーだとでもいうのか?私は仲間などと認めていない。」
「そうか、ならお前にはステーキはなしな。」
「何?」
「お前もシーナの加入を祝おうとして、そこに座っているのかと思っていた。だから、お前の分も焼いたのだが・・・いらないようだな?」

 いたずらっ子のような笑みを浮かべたユズフェルトに、焦った様子のナガミ。もちろん折れたのはナガミだった。

「祝うとも!もちろん、当り前のことだ・・・私は当然そこの人間の娘を仲間と思っている。さぁ、祝いのステーキを共に食そう!仲間だからな!」
「ふっ・・・」
「なかなか面白い奴だろ?胃袋さえつかめば、扱いは楽だ。」
「人間の尊敬できる唯一の部分は、食文化だ。動物の肉を食べるなど、悪魔の所業かと思っていたが・・・神の御業であったとはな。」
「大げさな・・・」

 嬉しそうなナガミの前に、ユズフェルトは新たに持ってきたステーキの乗った皿を置いた。私の隣の席にも同じように置いて、席に着く。

「さて、俺たちは新たな仲間として、シーナを歓迎する。」
「仕方がないから、仲間としては認識しておこう。」
「ありがとう・・・私、戦う力もないし迷惑をかけると思うけど、これからよろしく!」
「もちろんだ。」
「人間とはそういうものだが・・・もう少し自分で努力する気にはならないのか。」
「努力して戦えるようになるとは思えないから。」
「・・・邪魔になるよりはましか。」
「まぁ、とりあえず・・・かん、あっ。」

 乾杯と言おうとしたのだろうけど、何も飲み物がなかった。慌ててユズフェルトはとりに行ったが、我慢できなかったナガミはそのまま食べ始めた。

 変な人だし、性格悪そうだけど・・・面白い人だな。

 ユズフェルトが焼いたステーキは、肉の臭みもなく柔らかくておいしかった。

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