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悪意への反撃3
ガタッと扉の外で大きな音がして、オーバン様と一緒に顔を上げた。オーバン様が剣を抜いて「誰だ?」と低い声で告げると、ゆっくりと扉が開いて男の人が入ってきた。
「あ」
男の人には見覚えがあった。柔らかな栗色の髪に、赤茶色の瞳。オーバン様の親友で、騎士団副団長でもある、僕に敵意を向けてきた人。名前は確か、シルヴァン・ルーゼル。
「一体何の用だ? また、クウを傷付けに来たのか?」
「ち、違う! 敵意はないから! 俺はただ、謝りたくて……」
「え?」
どういうこと、だろう? 最初に会った時、この人は僕を「邪魔だ」と言っていた。あんなにも敵意を向けていた人が、どうして謝りたいなんて言っているんだろう? それも、この人の策略? 反省したように見せかけて、油断した僕を消そうとする作戦なのかな?
「謝って済む問題か? お前のせいで、クウは魂ごと消えかけたんだ。本当に分かっているのか? お前は、俺の最愛の人を殺そうとしたということを」
「オーバン様」
僕を抱きしめる力が強くなる。シルヴァン、と呼ばれた男の人を鋭い目で睨み付けて、オーバン様は極力僕の視界に入らないように前に立ってくれた。
「分かってる! 俺が、間違ってた。その子の方が被害者なのに、追い詰められていたのに、俺は……」
「今更謝ってももう遅い。クウの為を思うなら、二度とクウに関わるな!」
「クウ、ごめん。あの時、俺はお前を殺そうとした。お前は何も悪くないのに、被害者だったのに、俺は周りの噂を信じて、最低な人間だと決めつけていた。沢山傷付いて苦しんでいたのに、更に追い詰めて、深く傷付けた。本当に、ごめんなさい」
僕に近付いて深々と頭を下げるシルヴァン様に、何を言えばいいのか分からなかった。あの時、確かに僕は「消えたい」と心から願った。でも、仕方ないと諦めたのは僕の意思。シルヴァン様が言わなくても、遅かれ早かれ、他の誰かが彼と同じことを僕に言ったと思う。その言葉と悪意に傷付いて、やっぱりダメだったんだと諦めて、もう嫌だと現実逃避して、オーバン様の前から消えていた。敵意を向ける相手がシルヴァン様じゃなくても、僕は同じ選択をする。
「今回は、偶々シルヴァン様だっただけ、です。僕のことをよく思っていない人は、他にも沢山います」
「クウ?」
「僕は、オーバン様と一緒に生きたいです。二人で、幸せになりたい。僕を選んでくれたのは、オーバン様だけだから。もう、奪われたくない。捨てられたくない。お願いだから、僕から、オーバン様を奪わないで」
あぁ、情けない。声は震えて、手にも力が入らない。シルヴァン様が怖くて怖くて仕方ない。オーバン様のように「巫山戯るな! 絶対に許さないからな!」と言えたらどんなに良かっただろう。でも、僕は敵意を向けていた人に言い返す勇気はない。そもそも、許すとか許さないとか、そんな気持ちがないんだ。悪意に慣れすぎたせいなのか、感情が麻痺してしまったのか、恨みとか憎しみとか、そんな思いを抱くことはなかった。あるのはただ「怖い」という恐怖心だけ。
「クウ。大丈夫です。何時も言っているでしょう? 何があっても、私がクウを護ると。ずっと一緒にいると。クウは何も悪くないんです」
「ぅう」
オーバン様に抱きしめられて、頭を撫でられるだけで涙が溢れてしまう。何時から僕は、こんな泣き虫になってしまったんだろう。本当はダメなのに、オーバン様の優しさに甘えてしまう。オーバン様に相応しい伴侶になろうって決意したばかりなのに、弱くて、情けなくて、勇気もない自分自身が嫌になる。物語の主人公のように、悪者に立ち向かえる強さが僕にもあったら良かったのに。
「これが演技だと思うのか? こんなにも傷付いて、怯えて、俺に縋り付いて小さく震えているのに」
「……ごめん」
「クウが怯えている。用が済んだなら帰ってくれ」
「あぁ。そうする。あの、さ。オーバン」
「なんだ?」
「その子には何もしないと約束するから、また来てもいいか?」
「…………」
「また、来るよ。それじゃあ」
オーバン様の腕の中から見えたシルヴァン様は、とても悲しそうな表情をしていた。多分、彼はもう僕に対して敵意はないと思う。分かっていても、僕は怖くてオーバン様に縋り付いて怯えていた。
「あ」
男の人には見覚えがあった。柔らかな栗色の髪に、赤茶色の瞳。オーバン様の親友で、騎士団副団長でもある、僕に敵意を向けてきた人。名前は確か、シルヴァン・ルーゼル。
「一体何の用だ? また、クウを傷付けに来たのか?」
「ち、違う! 敵意はないから! 俺はただ、謝りたくて……」
「え?」
どういうこと、だろう? 最初に会った時、この人は僕を「邪魔だ」と言っていた。あんなにも敵意を向けていた人が、どうして謝りたいなんて言っているんだろう? それも、この人の策略? 反省したように見せかけて、油断した僕を消そうとする作戦なのかな?
「謝って済む問題か? お前のせいで、クウは魂ごと消えかけたんだ。本当に分かっているのか? お前は、俺の最愛の人を殺そうとしたということを」
「オーバン様」
僕を抱きしめる力が強くなる。シルヴァン、と呼ばれた男の人を鋭い目で睨み付けて、オーバン様は極力僕の視界に入らないように前に立ってくれた。
「分かってる! 俺が、間違ってた。その子の方が被害者なのに、追い詰められていたのに、俺は……」
「今更謝ってももう遅い。クウの為を思うなら、二度とクウに関わるな!」
「クウ、ごめん。あの時、俺はお前を殺そうとした。お前は何も悪くないのに、被害者だったのに、俺は周りの噂を信じて、最低な人間だと決めつけていた。沢山傷付いて苦しんでいたのに、更に追い詰めて、深く傷付けた。本当に、ごめんなさい」
僕に近付いて深々と頭を下げるシルヴァン様に、何を言えばいいのか分からなかった。あの時、確かに僕は「消えたい」と心から願った。でも、仕方ないと諦めたのは僕の意思。シルヴァン様が言わなくても、遅かれ早かれ、他の誰かが彼と同じことを僕に言ったと思う。その言葉と悪意に傷付いて、やっぱりダメだったんだと諦めて、もう嫌だと現実逃避して、オーバン様の前から消えていた。敵意を向ける相手がシルヴァン様じゃなくても、僕は同じ選択をする。
「今回は、偶々シルヴァン様だっただけ、です。僕のことをよく思っていない人は、他にも沢山います」
「クウ?」
「僕は、オーバン様と一緒に生きたいです。二人で、幸せになりたい。僕を選んでくれたのは、オーバン様だけだから。もう、奪われたくない。捨てられたくない。お願いだから、僕から、オーバン様を奪わないで」
あぁ、情けない。声は震えて、手にも力が入らない。シルヴァン様が怖くて怖くて仕方ない。オーバン様のように「巫山戯るな! 絶対に許さないからな!」と言えたらどんなに良かっただろう。でも、僕は敵意を向けていた人に言い返す勇気はない。そもそも、許すとか許さないとか、そんな気持ちがないんだ。悪意に慣れすぎたせいなのか、感情が麻痺してしまったのか、恨みとか憎しみとか、そんな思いを抱くことはなかった。あるのはただ「怖い」という恐怖心だけ。
「クウ。大丈夫です。何時も言っているでしょう? 何があっても、私がクウを護ると。ずっと一緒にいると。クウは何も悪くないんです」
「ぅう」
オーバン様に抱きしめられて、頭を撫でられるだけで涙が溢れてしまう。何時から僕は、こんな泣き虫になってしまったんだろう。本当はダメなのに、オーバン様の優しさに甘えてしまう。オーバン様に相応しい伴侶になろうって決意したばかりなのに、弱くて、情けなくて、勇気もない自分自身が嫌になる。物語の主人公のように、悪者に立ち向かえる強さが僕にもあったら良かったのに。
「これが演技だと思うのか? こんなにも傷付いて、怯えて、俺に縋り付いて小さく震えているのに」
「……ごめん」
「クウが怯えている。用が済んだなら帰ってくれ」
「あぁ。そうする。あの、さ。オーバン」
「なんだ?」
「その子には何もしないと約束するから、また来てもいいか?」
「…………」
「また、来るよ。それじゃあ」
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