捨てられた子が龍の化身に溺愛されるまで《完結》

トキ

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本編

おまけ「一週間ぶりの学校」2

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 屋敷に帰ってからも逢珠真はずっとご機嫌だった。一週間ぶりの学校だから、氷雨も彼が孤立しないか、いじめられないか心配していたが、とても優しいお友達がいて嬉しそうに笑う逢珠真を見て安堵する。突然親も住所も変わって、クラスメイトの生徒達もびっくりしただろう。実際は氷雨の美麗な姿にびっくりしていたのだが、本人は全く気付いていない。

 靴を脱いで氷雨の部屋へ直行し、帽子とランドセルを机に置いて上衣をハンガーにかける。出された宿題のプリントと筆記用具を持ってリビングの机に置いてから洗面所へ向かい、手洗いうがいをしっかりして、逢珠真は再びリビングへ戻った。宿題で分からないところは氷雨に見てもらい、二十分程度で宿題は終わった。

「よく頑張りました。逢珠真はえらいね」
「えへへ」

 頭を撫でられて、逢珠真は頬を染めて嬉しそうに笑った。明日忘れないよう、宿題と筆記用具を片付け「あ、あしたのじゅんび、してきます!」と元気な声で告げて、逢珠真は氷雨の部屋へ向かった。一人部屋を用意しようかと氷雨は考えたが、逢珠真が「ひさめさんのおへやが、いいです。だめ、ですか?」と潤んだ瞳でお願いされてしまい、暫くは氷雨の部屋を逢珠真と二人で使用することになったのだ。

「学習机も確認しておかないと」

 逢珠真に必要なものはまだまだ足りない。衣類も必要最低限しか購入していないし、学習机もない。ベッドも必要になるだろう。氷雨の部屋はとても広いのでそれらを設置するスペースはある。今週の土日に逢珠真と一緒に買い物へ出かけよう。頭の中で予定を立てつつ、氷雨はタタタッと小さな足音を聞いて、冷蔵庫から昨日食べきれなかったケーキを小皿に載せる。飲み物はオレンジジュース。その二つをリビングのテーブルに置いたところで、逢珠真が戻ってきた。

「ひさめさん。じゅんび、おわりました!」
「いい子。それじゃあ、休憩しようか。ケーキ、一緒に食べる?」
「たべる! あっ、た、たべます」
「俺と逢珠真はもう家族なんだから、敬語を使わなくていいんだよ?」
「で、でも……」
「ゆっくりでいいよ」
「はい」

 ぽんぽんと、逢珠真の頭を撫でて、氷雨は「ケーキ、食べようか」と優しい声で告げた。小さな手でコップを持ち、ちょっとずつオレンジジュースを飲む逢珠真の姿は可愛らしく、満面の笑みを浮かべてケーキを頬張る顔も見ているだけで癒される。保護した当初は瞳に光がなく、何時も俯いて怯えていた。そんな逢珠真が、氷雨の前ではきらきらと目を輝かせて、少しずつ自分の望みを言ってくれるようになった。出会ってまだ一週間程度でこんなに心を開いてくれるのはとても喜ばしいことだが、警戒心がなさすぎて心配にもなる。逢珠真はとっても可愛いから、悪い大人達に連れ去られてしまうかもしれない。脳内の時雨が「そういうの、親バカって言うんですよ」とツッコミを入れてくるが、逢珠真が可愛いことは事実なのだから親バカは関係ない。

『私達は今、超人気の和菓子店『雨之神』の前に来ています。普段は撮影禁止なのですが、今回は特別に許可をいただいて、少しだけ店内の様子と期間限定の和菓子をご紹介したいと思います!』

「ん」

 テレビをつけると、小学校でも話題になっていた和菓子店の特集番組が放送されていた。瓦屋根の建物を芸能人が紹介し、店内の様子が撮影される。よくある「人気ランキング上位を当てろ!」というゲームをして、全問正解した人だけが期間限定スイーツを食べることができるという、飲食店の特集ではよくある企画だった。

『さて、皆さんが考えている間に、従業員の方に視聴者が一番気になっていることをお聞きしたいと思います』

 雨之神にはカフェも併設されており、芸能人達が座っているところに従業員の一人がやって来る。和菓子店専用の制服を着た男性はリポーターから質問を受け「特別に写真をお見せします」と告げた。

『テレビで公開するのはこれが初ですね』
『本当ですか!? 皆さん、聞きましたか!? SNSで話題が広がり、日本一の美女、現代の大和撫子、と称される桜子さんの写真を今回、特別に見せてくれるそうです!』

 人気商品をゲスト達が回答し、正解した人は期間限定のスイーツを食べて味の感想を述べる。そして、一番気になる「桜子さん」という女性の写真が公開される直前、みんなが気になるタイミングで「『桜子さん』の写真公開はCMの後で!」というテロップが流れ、CMに入る。

「ひさめさんのおみせ?」
「…………」
「ひさめさん?」
「ん? あ、ごめん。逢珠真、番組を変えようか。他に見たい番組はある?」
「んー、ここがいいです。ひさめさんのおみせ、もっとみたいです」
「結構特集されているから、今見なくても大丈……」
『さあ、お待たせしました。では、桜子さんの写真をお願いします!』

 CMが終わり、リポーターが大きな声で従業員にお願いすると、彼はデデン! という効果音と共に大きなパネルをひっくり返した。写真には、淡い桜の模様が入った着物を身に付けた美しい女性が写っていた。綺麗に結い上げられた黒髪には桜の簪。腰には赤いエプロン。エプロンの少し上には鶯色の組紐が結ばれていて、リポーターもゲスト達も全員写真に写る女性に釘付けになっていた。

『わあ、噂には聞いていましたが、めっちゃ美人ですね!』
『これは確かに大和撫子やわ。どうすれば桜子さんに会えるんですか?』
『実は我々も把握しておらず、桜子さんが何時お店に来るかは本当に分からないんです』
『何か法則性とかは……』
『ありません。お店に来る日も時間帯もバラバラで、この日に来れば会える! と特定するのはかなり難しいですね』

 そこからは「どうすれば幻の美女、桜子さんに会えるか」という話題に切り替わり、ゲスト達がああでもないこうでもないと議論に議論を重ねる。逢珠真はずっと「桜子さん」を見ており、ゲスト達の会話は聞いていない。心配になって氷雨が「逢珠真?」と声をかけると、今度は氷雨を凝視する。

「ひさめさん」
「ん? どうかした? もしかして、逢珠真も『桜子さん』のファンになったの?」
「……このひと、ひさめさん?」
「…………」

 従業員が持つ写真に写る「桜子さん」を指でさしながら、逢珠真はきょとんとした目を向けながら氷雨に聞いた。長い黒髪、紫色の瞳。美麗な顔立ち。「桜子さん」は綺麗に化粧を施されているが、よく見ると氷雨に似ていた。氷雨は静かにチャンネルの電源ボタンを押してテレビを消す。

「他人の空似じゃないかな? 桜子さんは女性で、俺は男だよ?」
「うん? きのせいかも? ふんいきが、ひさめさんににていたから」
「そういうこともあるよ。さて、そろそろ晩御飯を作らないと。逢珠真、今日は何が食べたい?」
「ひさめさんのつくるものならなんでも!」
「じゃあ、今が旬のかぼちゃのコロッケにしようか。揚げ物は食べられる?」
「だいじょうぶです! ひさめさん! ぼくもおてつだいします!」
「ありがとう。それじゃあ、サラダを作ってもらおうかな」
「がんばります!」

 桜子の話から晩御飯の話に変わり、氷雨は安堵の息を零す。逢珠真と一緒にキッチンへ向かい、氷雨は冷蔵庫から必要な食材を取り出して逢珠真はサラダ、氷雨はかぼちゃコロッケを担当し、晩御飯を作り始めた。
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