捨てられた子が龍の化身に溺愛されるまで《完結》

トキ

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本編

守りたい人6

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 雨之神に到着した時雨は早速氷雨に報告した。幸平の両親、恋鞠と彼女の両親が逢珠真を拉致した実行犯で間違いない、と。氷雨も昨日のやり取りである程度察しており、幸平の過去について詳細を聞いてくることはなかった。

「なるほどな」
「命令したのはバカ息子、実行犯は幸平さんの元両親と同居していた一家の五人」

 彼らが何故逢珠真を拉致したのか。その理由は「桜子の子どもを奪って困らせたかったから」という身勝手極まりないもの。桜子の子どもを拉致できたら一番いいが、彼女が原因で無関係の子どもが拉致されたら多少心に傷を残すことはできる。自分との縁談を断った腹いせに無関係の子どもの命を危険に晒したのだ。そして、そのターゲットに選ばれたのが逢珠真。奴らがどの程度調査して逢珠真を拉致したのか分からないが、両親から捨てられた孤児だからという理由で選んだのなら浅慮としか言いようがない。

「隊長の伴侶を拉致するなんて、命知らずもいいところです」
「お前の方が怒っているように見えるが?」
「過去の出来事とはいえ、伴侶が暴力を振るわれていたと知って怒らない化身はいないでしょう?」

 泣くのを必死に耐える幸平の表情が頭に焼き付いて離れない。祖父母に引き取られた後も、二人の迷惑にならないよう優等生として生きてきたのかもしれない。両親の愛情を得られず、邪魔者扱いされ、引っ越してきた若夫婦に居場所を奪われ、その娘から夢も希望も自由も奪われ続けた。それでも必死に努力して、教師になるという夢を叶えたのに、奴らはその夢さえも壊そうとする。いいや、夢だけでなく、幸平の人生そのものを壊しに来ていると考えるべきか。

「潰すなら協力するぞ?」
「珍しいですね。隊長がそんなことを言うなんて」
「バカ息子の相手をした後、俺が餌になってやる」
「餌、ですか?」

 氷雨の作戦を聞いた時雨はクスッと笑って「何時もは嫌々演じているくせに」と憎たらしいことを口にする。こういう時の氷雨は本当にノリがいい。利用できるものは何でも利用する。大切な人を守る為なら己自身でも躊躇いなく差し出すから、みんな氷雨を尊敬しているのだ。

「先ずはバカ息子から潰すとしよう」
「悪い顔をしてますよ。隊長」

 どっちが悪役なんだか、と軽口を叩く時雨に対して、氷雨も負けじと「お前には劣るがな」と言い返す。二人の会話を黙って聞いていた従業員達は巻き込まれたくなくてお店の隅の隅に固まって黙々と作業に集中した。二人とも楽しそうに話しているが、目が全く笑っていないし、纏う空気もピリピリしている。

「あの企業、終わったな」
「隊長と副隊長を怒らせちまったからなあ」

 前世から化身と伴侶の関係を知っている彼らからしてみれば、バカ息子達の愚行は化身に「殺してくれ」と言っているようなもの。前の世界では化身の伴侶を傷付けた者は即処刑が当たり前。中には伴侶の姿を見ただけで罰を与える過激な化身も存在した。一途と言えば聞こえはいいが、化身の愛は深く重く、独占欲や執着心も強い。勿論、伴侶の嫌がることは絶対にしないが、自分から離れることは絶対に許さない。本当は自分しか知らない部屋に閉じ込めて大切に大切に愛したいと考えている化身が大半だ。現代の言葉で表すなら「ヤンデレ」が一番合っているかもしれない。パッと見はそんな風に見えなくても、従業員達からしてみれば氷雨も時雨も立派なヤンデレだ。

「隊長のあの笑顔は、本気で怒ってる証拠だな」
「副隊長も器用っすね。微笑んでいるのに怒れるなんて」

 今後の予定について語り合う二人を眺め、従業員達は大きなため息を吐いた。心から尊敬する人達だが、本気で怒った時の二人は冗談抜きで怖い。化身一人の怒りでも怖いのに、今回は二人。バカ息子達が断罪される未来は確定したようなものだ。だからといって同情する気は一切ない。悪者は早く罰を受けて、また伴侶と一緒に幸せを噛みしめる二人の姿が見たい。そう願いながら、彼らは自分の仕事を進めた。




 仕事を終えて氷雨は逢珠真達を迎えに行った。学校に連絡を入れて昨日と同じように正門前で待っていると、逢珠真達が歩いてきた。しかし、三人とも元気がなく暗い表情をしていた。

「逢珠真、宮下さんと藤崎くんも、どうしたの?」
「今日、霧島先生、休んでて」
「体調不良だって言ってたけど、俺達、先生が心配で」
「ひさめさん。きりしませんせい、あしたはがっこうにきてくれますか?」

 三人に元気がない理由は幸平が学校を休んでいたから。他の生徒達もずっと心配していて「霧島先生、辞めちゃうんですか?」とか「病気なんですか?」とか、泣きそうな顔をして教師達に聞いていたそうだ。確かに、昨日の彼は顔色が悪く今にも倒れてしまいそうだった。けれど、今は時雨が守っている。氷雨が「今日も何か作ろうか?」と聞いたら「大丈夫です。幸平さんがシチューを作って待ってくれていますから」と満面の笑みを浮かべて答えたいた。

「来てくれるよ。今日は体調が悪くて休んでいただけだからね」

 さあ、みんなも帰ろうか、と優しく声をかけて、氷雨は三人を連れて駐車場まで移動した。逢珠真達を車に乗せ、省吾と歌織を家まで送り帰宅する。逢珠真はずっと幸平のことを気にしていた。

「ひさめさん。ぼくも、きりしませんせいをたすけたいです」
「逢珠真は、霧島先生のことが好き?」
「すきです! いつも、ぼくをまもってくれたから」

 逢珠真が風邪で倒れた時に渡されたノートとプリントを見ただけで、彼が生徒達と真摯に向き合っている立派な教師だと分かる。学校を休んでいた逢珠真が授業に付いて行けるよう綺麗にまとめられていた。ノートは全て幸平の手書きで、プリントにもアドバイスやヒントが書かれていた。注意点には付箋が貼られていて、逢珠真が直ぐに問題を解けたのは幸平のお陰だ。彼は逢珠真に限らず、風邪や体調不良などで休んでしまった生徒に授業内容をまとめたプリントやノートを仲のいい友達に届けてもらったり、無理なら事前に保護者に連絡を入れて自分で届けに行ったりしていたと聞く。だから、保護者の間でも幸平の評価は高く、心から彼を信頼していた。みんな「霧島先生がうちの子の担任でよかった」と口々に言っていたことを思い出し、氷雨もその通りだと思った。

「逢珠真。明日は用事があるから、迎えは時雨に頼んでいるんだ」
「え? しぐれさん?」
「そう。霧島先生にも話しておくから、明日だけ我慢してくれるかな?」
「わかりました! だいじなおしごと、がんばってください!」
「ありがとう。霧島先生なら大丈夫だよ。時雨が守っているから」
「はい!」

 元気に返事をする逢珠真の頭を優しく撫でて、氷雨はニッコリと笑った。愛しい伴侶から応援されたからには、明日の仕事は絶対に失敗できない。逢珠真の為にも、幸平の為にも、必ず成功させてやると心に誓い、氷雨は「俺は晩御飯を作るから、その間に逢珠真は宿題をやっててね」と伝えると、彼は満面の笑みを浮かべて「ひつようなもの、もってきます」と言ってリビングから出て行く。数分後にプリントやノート、文房具を持って戻ってきた逢珠真は晩御飯の準備をする氷雨を眺めながら、宿題を片付けた。宿題が終わると全て片付けて、氷雨の手伝いをする。その時間がとても楽しくて、幸せで、二人はお互いに笑い合った。
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