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本編
クリスマスパーティー4
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質のいい白い箱を開けると、中にはジュエリーボックスが入っていた。それを箱からそっと取り出し、ゆっくりと蓋を開ける。
「ペアリング?」
中に入っていたのは、シンプルなデザインのペアリングだった。目の前にある光景が信じられず、何度も時雨の顔を見る。彼は愛おしそうに幸平を見つめ「夢ではありませんよ」と優しい声で告げた。
「無意識かもしれませんが、ジュエリー関係のCMや広告をジッと見ていたので。いきなりペアリングを渡すのは重いと思っていたのですが、羨ましそうに眺めている幸平さんを見てクリスマスプレゼントはペアリングにしようと決めたんです」
「あの、それって、プロポーズ」
「その通りです。幸平さん。私と、結婚してください」
「っ」
真剣な目で見つめられ、幸平は嬉しさのあまり涙を流してしまう。男同士では結婚できない。ペアリングも身に付けることができない。幸せそうに指輪をしている夫婦が羨ましくて、ジュエリーショップで楽しそうに指輪を選んでいるカップルを見ると胸が苦しくなって、それでも諦めきれず無意識に目で追っていた。
「幸平さん。化身と伴侶は同性同士でも結婚できます。化身と伴侶専用のお店も沢山あるんですよ。それには式場も含まれています。ですから、同性同士だからと悩む必要はありません」
「はい。ありがとうございます」
「幸平さん。直ぐにとは言いません。私と結婚してくれますか?」
「喜んで」
渡されたペアリングを両手で大事に持ち、幸平は自分から時雨に口付ける。一度唇を離すと今度は時雨から口付けられ、幸平は大きすぎる彼の愛を素直に受け入れた。
「プロポーズが成功した後のケーキは最高に美味しいですね」
「驚くほど美味しいです。このケーキ、何処で購入したんですか?」
暫く甘い時間を過ごした後、二人は再び椅子に座りクリスマスケーキを堪能した。3号サイズの小さなホールケーキで、イチゴがサンタの形をしていてとても可愛らしい。来年はこのお店で予約したいと思い、幸平はこのケーキを何処で購入したのか時雨に聞いた。
「あぁ。これは何処にも売っていません。氷雨さんの手作りなので」
「えっ? て、手作り!?」
「今年は逢珠真くんも手伝ってくれたんですよ。ケーキの他に、タルトやクッキーもいただきました」
「ま、待ってください! 峯滝さんは、プロのパティシエなんですか?」
「いいえ。プロの和菓子職人です」
「意味が分かりません! そしてやっぱり美味しいです!」
何故和菓子職人が洋菓子を作っているのか。そして何故、プロのパティシエが作るケーキよりも美味しいのか。色々とツッコミどころ満載で、幸平は訳が分からなくなってしまった。
「普段はあまり洋菓子を作らないのですが、従業員限定で毎年クリスマスケーキを作って配ってくれるんですよ。このケーキを食べてしまうと他のケーキでは満足できなくなってしまって。流石、学生時代に和菓子コンテストで毎年最優秀賞を受賞していただけのことはありますね」
「凄すぎて何も言えません」
和菓子職人が洋菓子を作る図が滑稽すぎる。いや、今は和菓子専門店でも洋菓子を販売している店舗もあるにはあるが……
「思った通り、白ワインと合いますね」
「あの、時雨さん。このケーキ、とても美味しいです。販売したら大人気になると思うんですけど、どうして売らないんですか?」
「…………」
「時雨さん?」
「幸平さん。私達を殺す気ですか?」
「えっ!?」
「いいですか? 和菓子店の繁忙期は年末年始! つまり、今が戦場なんです! 雨之神は今や全国に知れ渡った有名店! 和菓子を販売するだけでもクッソ忙しいのに、それに加えてクリスマスケーキまで展開したら我々が過労で死んでしまいます!」
「は、はあ」
「この時期はみんな殺伐としています! 例えるなら今から戦場へ向かう軍人です!」
「す、すみません」
「ですが、従業員限定であれば来年もケーキを作ってくれますよ。氷雨さんは従業員を大切にする方なので。年末年始は『無情の鬼』と化しますが……」
「えっと、想像できませんね」
幸平が知っているのは逢珠真に優しく笑いかける氷雨の姿だ。しかし、時雨が言うには彼を怒らせるととっても怖いらしい。自分にも従業員にも厳しく、些細なミスや遅れも一切許さない。一瞬の油断が全体の流れを悪くし、全従業員に悪影響を及ぼしてしまうからだ。何故そんな空気になるのかというと、雨之神で販売している和菓子は全工程が従業員達による手作業だからだ。
「幸平さんには怒りませんよ。むしろ心から感謝しています」
「そうなんですか?」
「はい。氷雨さんと一緒に逢珠真くんも雨之神に来てくれて、みんなに手作りのケーキとお菓子を配ってくれたんです」
そう言って、時雨は手紙をテーブルに置いた。宛先には「きりしま先生へ」と子どもの字で書かれている。
『きりしま先生へ
先生に言われたとおり、サンタさんにお手紙を書いたら
本当にプレゼントを届けてくれました。
きりしま先生のおかげで、今年はとっても幸せな
クリスマスになりました。
先生も、時雨さんと最高のクリスマスを過ごしてください。
ほんの少しですが、ぼくとひさめさんから
クリスマスのおすそわけです。
二人で仲良く召し上がってください。
きりしま先生、本当に、本当にありがとうございました。
来年も、よろしくお願いいたします。
峯滝 逢珠真』
子どもの字で書かれた手紙を読んで、幸平はまた涙が溢れてしまった。かなり無茶ぶりを言ってしまったが、氷雨は逢珠真の為に六年分のクリスマスプレゼントを用意してくれた。そのことに心から安堵する。
「逢珠真くんは、本当にいい子ですね」
「はい。私の、自慢の生徒です」
「では、逢珠真くんに言われた通り、私達も幸せなクリスマスを過ごしましょうか」
「そうですね。俺は今、とても幸せです」
「私も幸せですよ」
クスッとお互いに笑い合い、二人はケーキと白ワインを楽しみながら甘くて幸せなクリスマスを過ごした。愛しい恋人と過ごす時間はあっという間に過ぎ去り、特別なクリスマスは静かに終わりを告げた。
「ペアリング?」
中に入っていたのは、シンプルなデザインのペアリングだった。目の前にある光景が信じられず、何度も時雨の顔を見る。彼は愛おしそうに幸平を見つめ「夢ではありませんよ」と優しい声で告げた。
「無意識かもしれませんが、ジュエリー関係のCMや広告をジッと見ていたので。いきなりペアリングを渡すのは重いと思っていたのですが、羨ましそうに眺めている幸平さんを見てクリスマスプレゼントはペアリングにしようと決めたんです」
「あの、それって、プロポーズ」
「その通りです。幸平さん。私と、結婚してください」
「っ」
真剣な目で見つめられ、幸平は嬉しさのあまり涙を流してしまう。男同士では結婚できない。ペアリングも身に付けることができない。幸せそうに指輪をしている夫婦が羨ましくて、ジュエリーショップで楽しそうに指輪を選んでいるカップルを見ると胸が苦しくなって、それでも諦めきれず無意識に目で追っていた。
「幸平さん。化身と伴侶は同性同士でも結婚できます。化身と伴侶専用のお店も沢山あるんですよ。それには式場も含まれています。ですから、同性同士だからと悩む必要はありません」
「はい。ありがとうございます」
「幸平さん。直ぐにとは言いません。私と結婚してくれますか?」
「喜んで」
渡されたペアリングを両手で大事に持ち、幸平は自分から時雨に口付ける。一度唇を離すと今度は時雨から口付けられ、幸平は大きすぎる彼の愛を素直に受け入れた。
「プロポーズが成功した後のケーキは最高に美味しいですね」
「驚くほど美味しいです。このケーキ、何処で購入したんですか?」
暫く甘い時間を過ごした後、二人は再び椅子に座りクリスマスケーキを堪能した。3号サイズの小さなホールケーキで、イチゴがサンタの形をしていてとても可愛らしい。来年はこのお店で予約したいと思い、幸平はこのケーキを何処で購入したのか時雨に聞いた。
「あぁ。これは何処にも売っていません。氷雨さんの手作りなので」
「えっ? て、手作り!?」
「今年は逢珠真くんも手伝ってくれたんですよ。ケーキの他に、タルトやクッキーもいただきました」
「ま、待ってください! 峯滝さんは、プロのパティシエなんですか?」
「いいえ。プロの和菓子職人です」
「意味が分かりません! そしてやっぱり美味しいです!」
何故和菓子職人が洋菓子を作っているのか。そして何故、プロのパティシエが作るケーキよりも美味しいのか。色々とツッコミどころ満載で、幸平は訳が分からなくなってしまった。
「普段はあまり洋菓子を作らないのですが、従業員限定で毎年クリスマスケーキを作って配ってくれるんですよ。このケーキを食べてしまうと他のケーキでは満足できなくなってしまって。流石、学生時代に和菓子コンテストで毎年最優秀賞を受賞していただけのことはありますね」
「凄すぎて何も言えません」
和菓子職人が洋菓子を作る図が滑稽すぎる。いや、今は和菓子専門店でも洋菓子を販売している店舗もあるにはあるが……
「思った通り、白ワインと合いますね」
「あの、時雨さん。このケーキ、とても美味しいです。販売したら大人気になると思うんですけど、どうして売らないんですか?」
「…………」
「時雨さん?」
「幸平さん。私達を殺す気ですか?」
「えっ!?」
「いいですか? 和菓子店の繁忙期は年末年始! つまり、今が戦場なんです! 雨之神は今や全国に知れ渡った有名店! 和菓子を販売するだけでもクッソ忙しいのに、それに加えてクリスマスケーキまで展開したら我々が過労で死んでしまいます!」
「は、はあ」
「この時期はみんな殺伐としています! 例えるなら今から戦場へ向かう軍人です!」
「す、すみません」
「ですが、従業員限定であれば来年もケーキを作ってくれますよ。氷雨さんは従業員を大切にする方なので。年末年始は『無情の鬼』と化しますが……」
「えっと、想像できませんね」
幸平が知っているのは逢珠真に優しく笑いかける氷雨の姿だ。しかし、時雨が言うには彼を怒らせるととっても怖いらしい。自分にも従業員にも厳しく、些細なミスや遅れも一切許さない。一瞬の油断が全体の流れを悪くし、全従業員に悪影響を及ぼしてしまうからだ。何故そんな空気になるのかというと、雨之神で販売している和菓子は全工程が従業員達による手作業だからだ。
「幸平さんには怒りませんよ。むしろ心から感謝しています」
「そうなんですか?」
「はい。氷雨さんと一緒に逢珠真くんも雨之神に来てくれて、みんなに手作りのケーキとお菓子を配ってくれたんです」
そう言って、時雨は手紙をテーブルに置いた。宛先には「きりしま先生へ」と子どもの字で書かれている。
『きりしま先生へ
先生に言われたとおり、サンタさんにお手紙を書いたら
本当にプレゼントを届けてくれました。
きりしま先生のおかげで、今年はとっても幸せな
クリスマスになりました。
先生も、時雨さんと最高のクリスマスを過ごしてください。
ほんの少しですが、ぼくとひさめさんから
クリスマスのおすそわけです。
二人で仲良く召し上がってください。
きりしま先生、本当に、本当にありがとうございました。
来年も、よろしくお願いいたします。
峯滝 逢珠真』
子どもの字で書かれた手紙を読んで、幸平はまた涙が溢れてしまった。かなり無茶ぶりを言ってしまったが、氷雨は逢珠真の為に六年分のクリスマスプレゼントを用意してくれた。そのことに心から安堵する。
「逢珠真くんは、本当にいい子ですね」
「はい。私の、自慢の生徒です」
「では、逢珠真くんに言われた通り、私達も幸せなクリスマスを過ごしましょうか」
「そうですね。俺は今、とても幸せです」
「私も幸せですよ」
クスッとお互いに笑い合い、二人はケーキと白ワインを楽しみながら甘くて幸せなクリスマスを過ごした。愛しい恋人と過ごす時間はあっという間に過ぎ去り、特別なクリスマスは静かに終わりを告げた。
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