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番外編
着ぐるみパジャマ1
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年末年始の繁忙期は過ぎたが、今度は有名ブランドのチョコレート専門店とのコラボ商品が雨之神で発売される。発売日は二月一日からバレンタインまでの期間限定。広告やCMなどでも大々的に発表した為、雨之神は今も大忙し。年末年始同様、氷雨の朝は早く、帰宅する時間も深夜がほとんど。
休日でも頻繁に仕事の電話が入り、逢珠真は仕事続きで顔色が悪い氷雨をずっと心配そうに眺めていた。
「これを、きるの?」
クローゼットの中に仕舞ってあった可愛らしいロゴが印刷された紙袋の中から真っ白なもこもこの服を取り出して広げてみる。上下セットのそれはとても触り心地がよく、寒い夜に着たら全身あったかくてぐっすり眠れそうだ。しかし、逢珠真はそれを着るのを躊躇った。氷雨に「着て」と言われてはいない。
『これを着た逢珠真は、とっても可愛いんだろうな』
『私もそう思いますが、着てくれるんですか?』
『……無理だな。あの子にも男としてのプライドがある。それに、逢珠真は俺の王子様だから、王子様とは程遠いこの服は嫌がるだろう』
『確かに』
『それでも、一度でいいから逢珠真にこれを着てもらいたい。そうすれば、仕事の疲れも一瞬で吹き飛んで癒されるのに』
『…………』
夜遅くに目が覚めた逢珠真は二人の会話を聞いてしまった。その時の氷雨の表情がとても寂しそうで、悲しそうで、逢珠真も胸が苦しくなった。
普段の逢珠真だったら「ぜったいにいやです!」と全力で拒否した真っ白なもこもこの服。しかし、今の疲れ果てている氷雨を癒す為には絶対に必要なこと。
「これで、ひさめさんがげんきになるなら」
男としてのプライドも羞恥心も捨て、逢珠真は覚悟を決めた。
「ぅう、やっぱり、はずかしい」
氷雨の為だと我慢して着てみたものの、大きな鏡に映る姿を見て逢珠真は恥ずかしくて涙目になった。
もこもこのフードを被ると腰あたりまでだらんと垂れる長くて大きな耳、お尻にはまん丸の柔らかな尻尾。耳の内側は可愛らしい淡いピンク色で、セットになっているオレンジと緑の布で作られたニンジンをお腹のポケットに差し込めば、とっても可愛い白うさぎさんの完成だ。
「これも、ひさめさんのため。はずかしいのは、がまんしなきゃ。きょうだけ。きょうの、よるだけだから」
白いうさぎの着ぐるみパジャマ姿のまま、逢珠真はリビングへ移動してソファにちょこんと座り、氷雨が仕事から帰って来るのを待った。しかし、何時まで経っても氷雨が帰って来る様子はなく、夜の九時半頃までは頑張って起きていたが、眠気に勝てず逢珠真はそのままソファで眠ってしまった。
バサバサバサ!
今日も仕事が遅くなり、急いで帰宅した氷雨はリビングに入った瞬間、持っていた書類や荷物、その他諸々を床にぶちまけてしまった。
「んん、ひさめ、さん?」
「うぐ!」
大きな音で小さく丸まって眠っていた逢珠真がゆっくりと起き上がる。眠っている姿も国宝級に可愛かったが、寝起きで目蓋をこする姿はそれ以上に可愛すぎて氷雨は心臓が止まりそうになる。
「ただいま。逢珠真」
「おかえりなさい! ひさめさん!」
白いうさぎさんの姿で逢珠真はむぎゅ! と氷雨に抱きついて満面の笑みを浮かべた。
「可愛すぎてしんどい。逢珠真しか勝たん」
床に散らばった書類や荷物は全て放置し、氷雨はとっても可愛らしい白うさぎさんを抱き上げ、柔らかなほっぺにキスをした。
「ひさめさん、いやされましたか?」
「うん。とっても癒されたよ。ありがとう、逢珠真」
「ほんとうですか?」
「本当だよ」
「よかったです! にんむかんりょうです!」
「え?」
「ひさめさんがげんきになったので、おきがえしてきます!」
「だめ」
「えっ?」
氷雨はまだ可愛い白うさぎさん姿の逢珠真を思う存分堪能していない。欲に負けて買いはしたものの、逢珠真は絶対に着てくれないと思っていたのだ。けれど、彼は氷雨の為に恥ずかしいのを我慢して着ぐるみパジャマを着てくれた。今、この機会を逃したら次に超絶キュートな白うさぎさん姿の逢珠真を見られるのは何時になるか分からない。もしかしたら、二度と見られないかもしれない。
「逢珠真。実はまだ疲れが取れていないんだ。毎日仕事が忙しくて、君と過ごす時間も少なすぎて、このままだと俺は過労で倒れてしまうかもしれない」
「え!? ひさめさん、おつかれなんですか!?」
「うん。逢珠真を補充しないと、動悸息切れ貧血頭痛目眩手足の痺れが……う!」
「た、たいへんです! き、きゅうきゅうしゃ!」
「救急車は呼ばなくて大丈夫。逢珠真を補充すれば元気になるから」
「ほじゅう?」
「うん。明日は一日休みだから、ずっと逢珠真と一緒に過ごしたいな」
「ひさめさんといっしょ! とっても、とってもうれしいです!」
逢珠真は嬉しさのあまり先程よりも強く氷雨に抱きついた。むぎゅう! とくっついて離れない白うさぎさんが可愛くて、氷雨は不敵な笑みを浮かべる。
「それじゃあ、明日もこの可愛いうさぎさんの姿で俺を癒してね」
「え?」
満面の笑みを湛えたまま、氷雨は逢珠真に着ぐるみパジャマを着るよう脅……お願いした。
休日でも頻繁に仕事の電話が入り、逢珠真は仕事続きで顔色が悪い氷雨をずっと心配そうに眺めていた。
「これを、きるの?」
クローゼットの中に仕舞ってあった可愛らしいロゴが印刷された紙袋の中から真っ白なもこもこの服を取り出して広げてみる。上下セットのそれはとても触り心地がよく、寒い夜に着たら全身あったかくてぐっすり眠れそうだ。しかし、逢珠真はそれを着るのを躊躇った。氷雨に「着て」と言われてはいない。
『これを着た逢珠真は、とっても可愛いんだろうな』
『私もそう思いますが、着てくれるんですか?』
『……無理だな。あの子にも男としてのプライドがある。それに、逢珠真は俺の王子様だから、王子様とは程遠いこの服は嫌がるだろう』
『確かに』
『それでも、一度でいいから逢珠真にこれを着てもらいたい。そうすれば、仕事の疲れも一瞬で吹き飛んで癒されるのに』
『…………』
夜遅くに目が覚めた逢珠真は二人の会話を聞いてしまった。その時の氷雨の表情がとても寂しそうで、悲しそうで、逢珠真も胸が苦しくなった。
普段の逢珠真だったら「ぜったいにいやです!」と全力で拒否した真っ白なもこもこの服。しかし、今の疲れ果てている氷雨を癒す為には絶対に必要なこと。
「これで、ひさめさんがげんきになるなら」
男としてのプライドも羞恥心も捨て、逢珠真は覚悟を決めた。
「ぅう、やっぱり、はずかしい」
氷雨の為だと我慢して着てみたものの、大きな鏡に映る姿を見て逢珠真は恥ずかしくて涙目になった。
もこもこのフードを被ると腰あたりまでだらんと垂れる長くて大きな耳、お尻にはまん丸の柔らかな尻尾。耳の内側は可愛らしい淡いピンク色で、セットになっているオレンジと緑の布で作られたニンジンをお腹のポケットに差し込めば、とっても可愛い白うさぎさんの完成だ。
「これも、ひさめさんのため。はずかしいのは、がまんしなきゃ。きょうだけ。きょうの、よるだけだから」
白いうさぎの着ぐるみパジャマ姿のまま、逢珠真はリビングへ移動してソファにちょこんと座り、氷雨が仕事から帰って来るのを待った。しかし、何時まで経っても氷雨が帰って来る様子はなく、夜の九時半頃までは頑張って起きていたが、眠気に勝てず逢珠真はそのままソファで眠ってしまった。
バサバサバサ!
今日も仕事が遅くなり、急いで帰宅した氷雨はリビングに入った瞬間、持っていた書類や荷物、その他諸々を床にぶちまけてしまった。
「んん、ひさめ、さん?」
「うぐ!」
大きな音で小さく丸まって眠っていた逢珠真がゆっくりと起き上がる。眠っている姿も国宝級に可愛かったが、寝起きで目蓋をこする姿はそれ以上に可愛すぎて氷雨は心臓が止まりそうになる。
「ただいま。逢珠真」
「おかえりなさい! ひさめさん!」
白いうさぎさんの姿で逢珠真はむぎゅ! と氷雨に抱きついて満面の笑みを浮かべた。
「可愛すぎてしんどい。逢珠真しか勝たん」
床に散らばった書類や荷物は全て放置し、氷雨はとっても可愛らしい白うさぎさんを抱き上げ、柔らかなほっぺにキスをした。
「ひさめさん、いやされましたか?」
「うん。とっても癒されたよ。ありがとう、逢珠真」
「ほんとうですか?」
「本当だよ」
「よかったです! にんむかんりょうです!」
「え?」
「ひさめさんがげんきになったので、おきがえしてきます!」
「だめ」
「えっ?」
氷雨はまだ可愛い白うさぎさん姿の逢珠真を思う存分堪能していない。欲に負けて買いはしたものの、逢珠真は絶対に着てくれないと思っていたのだ。けれど、彼は氷雨の為に恥ずかしいのを我慢して着ぐるみパジャマを着てくれた。今、この機会を逃したら次に超絶キュートな白うさぎさん姿の逢珠真を見られるのは何時になるか分からない。もしかしたら、二度と見られないかもしれない。
「逢珠真。実はまだ疲れが取れていないんだ。毎日仕事が忙しくて、君と過ごす時間も少なすぎて、このままだと俺は過労で倒れてしまうかもしれない」
「え!? ひさめさん、おつかれなんですか!?」
「うん。逢珠真を補充しないと、動悸息切れ貧血頭痛目眩手足の痺れが……う!」
「た、たいへんです! き、きゅうきゅうしゃ!」
「救急車は呼ばなくて大丈夫。逢珠真を補充すれば元気になるから」
「ほじゅう?」
「うん。明日は一日休みだから、ずっと逢珠真と一緒に過ごしたいな」
「ひさめさんといっしょ! とっても、とってもうれしいです!」
逢珠真は嬉しさのあまり先程よりも強く氷雨に抱きついた。むぎゅう! とくっついて離れない白うさぎさんが可愛くて、氷雨は不敵な笑みを浮かべる。
「それじゃあ、明日もこの可愛いうさぎさんの姿で俺を癒してね」
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