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新緑の町3
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俺がサクを愛でている間に言い争いは終わったらしい。息を切らしながらメリが「帰るぞ」と言った。
「うん。食材を買ってからね」
「今日はもう帰ろう」
「シチュー、食べたくないの?」
「う!」
「グラタンは?」
「ぅう」
「この町には食材を買う為に来たんだよね?」
「そうだが、危険だ」
「なにが?」
「親切な貴族がミツだって知られると、色々と面倒なことになる」
「面倒?」
「この町の連中はみんな貴族様のことを心から慕ってるんだよ。恋心を抱いている奴も少なくない」
「え? 小太りの中年貴族だったのに?」
「ああ! そうだよ! だけどな、心の綺麗さまでは誤魔化せていなかったんだ! 確かに容姿は最悪だったけど、不思議なことに好きになっちまうんだよ!」
「そう、ですか」
なんと、悪趣味な。いや、それを言ったらメリも悪趣味になるな。確かメリもあの姿の俺を好きになったんだよな? 今は本来の姿だけど俺の容姿は普通なんだけどなあ。
「ミツ。今、自分の容姿は普通って思ってた?」
「うん。俺って平凡だよな?」
「…………」
「え? なんで黙るの?」
「ミツ。よく聞いてくれ。ミツは誰よりも綺麗で可愛らしい。小柄で、腰が細くて、手が綺麗で、顔も幼く見えて、黒い髪も瞳も多くの人を魅了する」
「褒めてくれてありがとう。チビで貧弱で子どもっぽいと言いたいんだな? メリ、俺に喧嘩売ってるのか?」
「どうしてそうなるんだ!? 俺は本当のことを言っただけだ! 実際、ミツは物凄くモテる! 沢山の人を虜にしている! だから俺はミツが奪われないか心配で……」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃない。はあ、無自覚なのも魅力的だが、もう少し周囲を警戒してくれ」
「過保護だなあ」
「…………」
俺が呟くと、メリは大きなため息を吐いた。何故かギルバートさん達がメリの肩にぽんっと手を置いて「頑張れよ」と慰めている。さっきまで口喧嘩したのに、もう仲直りしたのか。やっぱり仲はいいんだな。この人達。
やっと解放された俺達は予定通り食材を買ってから屋敷に帰った。何故かギルバートさん達も一緒に付いて来たけど。新緑の町を見て回っている時に男の子達の名前も知った。赤茶色の髪をしたリーダーっぽい男の子はエドガー。青い瞳をしていてちょっと不良っぽい。茶髪の男の子はダリウスで瞳も茶色。エドガー達とは幼馴染で親友同士らしい。暴走しがちなエドガーのストッパー役らしい。そして、甘栗色の髪をした女の子はシェーナ。菫色の瞳をしたとても可愛らしい女の子だ。三人とも孤児で、今は他の子ども達のお世話をしながらギルバートさんの病院で働いているそうだ。この町には孤児院のような建物もあって、身寄りのない人は年齢問わずその建物を利用しているそうだ。
今は食べ物も豊富で水も綺麗になって生活水準も上がって、少しずつ孤児の数は減っているとか。孤児でも飢えることも寒さに震えることもなく、温かな食事にふかふかのベッド。沢山の絵本や教材を読んで文字の読み書きや計算も覚えているとか。それに月に一度フィスィさんが訪れて必要な植物の苗や食べ物を提供してくれているので、再び貧民街になる可能性はかなり低い。
「みんな立派だなあ。俺、その頃は受験に失敗して引きこもってたのに」
自分で言って恥ずかしい。エドガー達は生きる為に、他の孤児達を守る為に必死に努力して今もこうして一生懸命働いているのに、あの頃の俺は……う、考えたくない。思い出したくない。
「はあ? なに言ってんだ? アンタがあの町を変えたんだろ?」
「俺がしたのは本当に些細なことだよ。大したことはしていない」
「凄いことだろうが。あの頃の俺達はみんな心が荒んでいた。夢も希望もなく、生きるのに必死で平気で相手を蹴落として騙して奪い合って生きていた。そんな俺達を変えたのはお前だろ?」
「俺、本当に何もしてない。あの町を変えたのはメリとフィスィさんだろ?」
「ミツが殺された後は俺とフィスィで改善したが、その土台をしっかり作ったのはミツだ。俺達はミツの思いを引き継いだだけに過ぎない」
「ミツル様はどうしてそんなに自信がないの? メリを救って立派に育てて、貧民街をみんなが安心して暮らせる町に変えたのに」
「ミツは神獣様の心も虜にして、その眷属であるサク達の魂も救ってみせた。サクの兄妹達はそれぞれ神獣様から指示された国へ行って自分の役目を果たす為に努力している」
「それもトキワ様のお陰で、俺は何も……」
「ミツ」
「はい」
「ミツは、ミツが思っている以上にこの世界には必要な存在だ。ミツの身に何かあれば、みんなミツの為に動くぞ? 俺も、フィスィも、翠嵐も、フォティアも、お前の弟であるライコウも。若しかしたら、国全体が動くかもしれない。ミツは、神獣様の眷属を救った慈悲深い神子だから」
メリが真剣に話すから、俺はもう「大袈裟だ」とは言えなかった。俺にそんな価値があるとは思えない。サク達を救えたのはトキワ様が居てくれたからで、貧民街の人達が助かったのもメリとフィスィさんの努力の成果で、俺はやっぱり何もしていない。だけど、次にそんなことを言ったらメリが怒りそうだから、俺はもう諦めた。
「そう、だね」
「ミツじゃなければ、サクだってこんなに懐いてない」
まだ納得していないけど、サクに懐かれているのはとても嬉しい。今も俺の足元を走り回って「ごはん、まだー?」って言っている姿は本当に可愛い。可愛いのはいいんだけど……
「えっと、皆さんも食べます、よね? シチュー」
当然とでも言うようにギルバートさん達は力強く頷いた。まさか俺達の住む屋敷まで付いて来るとは。メリが「さっさと帰れ!」と怒鳴っているけど、みんな聞く耳持たず。メリだけずるい! とか、俺達だってミツル様の料理を食べたい! とか。なんだかフィスィさん達とのやりとりを思い出すなあ。ちょっと現実逃避しながら、俺は大きな鍋をテーブルの中央に置いた。みんなどれくらい食べるのか分からないから順番に好きな量だけ入れてと言った瞬間、その場は修羅場と化した。ははは。みんな元気だなー。
『みつ、しちゅー』
「はい。サクの分。少し冷ましてるけど、熱かったら言ってね」
『わあーい! みつのしちゅー、だあーいすき!』
「うぐ!」
本当に、なんなんだ。この愛くるしい生きものは! 俺を萌え殺す気か!? これが噂に聞く尊死!? サクが、サクが可愛すぎてつらい!
「うん。食材を買ってからね」
「今日はもう帰ろう」
「シチュー、食べたくないの?」
「う!」
「グラタンは?」
「ぅう」
「この町には食材を買う為に来たんだよね?」
「そうだが、危険だ」
「なにが?」
「親切な貴族がミツだって知られると、色々と面倒なことになる」
「面倒?」
「この町の連中はみんな貴族様のことを心から慕ってるんだよ。恋心を抱いている奴も少なくない」
「え? 小太りの中年貴族だったのに?」
「ああ! そうだよ! だけどな、心の綺麗さまでは誤魔化せていなかったんだ! 確かに容姿は最悪だったけど、不思議なことに好きになっちまうんだよ!」
「そう、ですか」
なんと、悪趣味な。いや、それを言ったらメリも悪趣味になるな。確かメリもあの姿の俺を好きになったんだよな? 今は本来の姿だけど俺の容姿は普通なんだけどなあ。
「ミツ。今、自分の容姿は普通って思ってた?」
「うん。俺って平凡だよな?」
「…………」
「え? なんで黙るの?」
「ミツ。よく聞いてくれ。ミツは誰よりも綺麗で可愛らしい。小柄で、腰が細くて、手が綺麗で、顔も幼く見えて、黒い髪も瞳も多くの人を魅了する」
「褒めてくれてありがとう。チビで貧弱で子どもっぽいと言いたいんだな? メリ、俺に喧嘩売ってるのか?」
「どうしてそうなるんだ!? 俺は本当のことを言っただけだ! 実際、ミツは物凄くモテる! 沢山の人を虜にしている! だから俺はミツが奪われないか心配で……」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃない。はあ、無自覚なのも魅力的だが、もう少し周囲を警戒してくれ」
「過保護だなあ」
「…………」
俺が呟くと、メリは大きなため息を吐いた。何故かギルバートさん達がメリの肩にぽんっと手を置いて「頑張れよ」と慰めている。さっきまで口喧嘩したのに、もう仲直りしたのか。やっぱり仲はいいんだな。この人達。
やっと解放された俺達は予定通り食材を買ってから屋敷に帰った。何故かギルバートさん達も一緒に付いて来たけど。新緑の町を見て回っている時に男の子達の名前も知った。赤茶色の髪をしたリーダーっぽい男の子はエドガー。青い瞳をしていてちょっと不良っぽい。茶髪の男の子はダリウスで瞳も茶色。エドガー達とは幼馴染で親友同士らしい。暴走しがちなエドガーのストッパー役らしい。そして、甘栗色の髪をした女の子はシェーナ。菫色の瞳をしたとても可愛らしい女の子だ。三人とも孤児で、今は他の子ども達のお世話をしながらギルバートさんの病院で働いているそうだ。この町には孤児院のような建物もあって、身寄りのない人は年齢問わずその建物を利用しているそうだ。
今は食べ物も豊富で水も綺麗になって生活水準も上がって、少しずつ孤児の数は減っているとか。孤児でも飢えることも寒さに震えることもなく、温かな食事にふかふかのベッド。沢山の絵本や教材を読んで文字の読み書きや計算も覚えているとか。それに月に一度フィスィさんが訪れて必要な植物の苗や食べ物を提供してくれているので、再び貧民街になる可能性はかなり低い。
「みんな立派だなあ。俺、その頃は受験に失敗して引きこもってたのに」
自分で言って恥ずかしい。エドガー達は生きる為に、他の孤児達を守る為に必死に努力して今もこうして一生懸命働いているのに、あの頃の俺は……う、考えたくない。思い出したくない。
「はあ? なに言ってんだ? アンタがあの町を変えたんだろ?」
「俺がしたのは本当に些細なことだよ。大したことはしていない」
「凄いことだろうが。あの頃の俺達はみんな心が荒んでいた。夢も希望もなく、生きるのに必死で平気で相手を蹴落として騙して奪い合って生きていた。そんな俺達を変えたのはお前だろ?」
「俺、本当に何もしてない。あの町を変えたのはメリとフィスィさんだろ?」
「ミツが殺された後は俺とフィスィで改善したが、その土台をしっかり作ったのはミツだ。俺達はミツの思いを引き継いだだけに過ぎない」
「ミツル様はどうしてそんなに自信がないの? メリを救って立派に育てて、貧民街をみんなが安心して暮らせる町に変えたのに」
「ミツは神獣様の心も虜にして、その眷属であるサク達の魂も救ってみせた。サクの兄妹達はそれぞれ神獣様から指示された国へ行って自分の役目を果たす為に努力している」
「それもトキワ様のお陰で、俺は何も……」
「ミツ」
「はい」
「ミツは、ミツが思っている以上にこの世界には必要な存在だ。ミツの身に何かあれば、みんなミツの為に動くぞ? 俺も、フィスィも、翠嵐も、フォティアも、お前の弟であるライコウも。若しかしたら、国全体が動くかもしれない。ミツは、神獣様の眷属を救った慈悲深い神子だから」
メリが真剣に話すから、俺はもう「大袈裟だ」とは言えなかった。俺にそんな価値があるとは思えない。サク達を救えたのはトキワ様が居てくれたからで、貧民街の人達が助かったのもメリとフィスィさんの努力の成果で、俺はやっぱり何もしていない。だけど、次にそんなことを言ったらメリが怒りそうだから、俺はもう諦めた。
「そう、だね」
「ミツじゃなければ、サクだってこんなに懐いてない」
まだ納得していないけど、サクに懐かれているのはとても嬉しい。今も俺の足元を走り回って「ごはん、まだー?」って言っている姿は本当に可愛い。可愛いのはいいんだけど……
「えっと、皆さんも食べます、よね? シチュー」
当然とでも言うようにギルバートさん達は力強く頷いた。まさか俺達の住む屋敷まで付いて来るとは。メリが「さっさと帰れ!」と怒鳴っているけど、みんな聞く耳持たず。メリだけずるい! とか、俺達だってミツル様の料理を食べたい! とか。なんだかフィスィさん達とのやりとりを思い出すなあ。ちょっと現実逃避しながら、俺は大きな鍋をテーブルの中央に置いた。みんなどれくらい食べるのか分からないから順番に好きな量だけ入れてと言った瞬間、その場は修羅場と化した。ははは。みんな元気だなー。
『みつ、しちゅー』
「はい。サクの分。少し冷ましてるけど、熱かったら言ってね」
『わあーい! みつのしちゅー、だあーいすき!』
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