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第一部
恋敵3
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必要なことはステラに全て報告し、俺は着替えを済ませて隣の部屋へ向かった。ジャノの部屋は俺の部屋の隣だ。室内にも扉があり、そちらからもお互いに行き来できる。俺の隣の部屋。それはつまり、将来俺の妻となる人物に与えられる特別な部屋ということ。その意味を知っているから、令嬢達は血眼になってこの部屋に入ろうとしていた。全て阻止したが。ステラ達もそれは分かっている。この部屋が、どういう意味を持つ特別な部屋なのかを。
「ジャノ。入ってもいいですか?」
我慢できずに扉を開けてしまったが、許してほしい。暫く会えなかったんだ! 寂しいに決まっているだろう! ステラから「何日も会えなかったようなことを言わないでください」と言われた。確かにそうだが! 俺にとってジャノと会えない時間はそれくらい長く感じるんだ!
「おかえりなさい。ユベール様」
「ただいま。ジャノ」
「お仕事は大丈夫だったんですか?」
「はい。無事に終わりました。午前中に終わらせたので、午後からは別のところに行っていました」
「別のところ?」
「はい。ジャノの親友のお店です」
「え!?」
「彼からお弁当を預かっています。貴方に渡してほしいと」
「ほ、本当ですか!?」
お弁当、と口にしただけでジャノは無邪気な子どものように目を輝かせた。その表情もとても愛らしく、俺の心をグサグサと刺激する。あぁ、可愛い可愛い可愛い美しい可愛い! こんな表情、俺はまだ出せたことがないのに。お弁当だけでジャノを喜ばせるフェルナンが羨ましくて仕方ない! 嬉しいのに悔しい。
「彼と色々話しました。ジャノもフェルナンも、お互い恋愛感情は抱いていないと。嫉妬して少しだけ彼に敵意を向けてしまいましたが、今はもう大丈夫です。親友同士だと分かったので」
「嫉妬って……本当に、何もしてませんか?」
「はい! 彼を傷付けてはいません! 断言します!」
「そう、ですか。あまり迷惑をかけちゃダメですよ。文也にも色々と事情があるんですから」
「ジャノは彼のことを『フミヤ』と呼ぶんですね」
「あー。それは、昔のクセで、つい。俺も彼奴と同じなんですよ。今はジャノって名前ですけど、昔は裕人と呼ばれていたんです。だからその名残で、今も俺は親友のことを文也、文也は俺のことを裕人って呼び合っているんです」
「本当に親しい関係なんですね」
「ええ! 自慢の親友です! 恋愛感情はありませんけど!」
フミヤの話をするジャノはとても輝いている。付き合いが長く、屋敷から追い出された時は何時も彼のお店でお世話になっていたと聞いた。彼が居なければ、ジャノはとっくの昔に死んでいたかもしれない、と。
「ジャノ……」
「あ。折角のお弁当なので、一緒に食べませんか? お箸も二膳入れてくれているので、二人で食べる為に用意したんでしょうね」
「二人で?」
「ん? これは、手紙?」
紙袋の中からお弁当箱を取り出し、ハシという四本の細長い棒を手に取ると、一枚の紙が落ちる。ジャノはそれを手に取って読むと「プッ」と吹き出した。プルプルと肩を震わせ、体調が悪いのかと慌てて駆け寄ると声を出して笑った。
「ジャノ? どうしたんですか?」
「い、いえ。すみません。彼奴らしいっていうか、変わらないのが嬉しいというか」
そう言って、ジャノは手紙を見せてくれた。
とうとう捕まっちまったかー。
今まで不幸だった分、天才魔導士様と末永く幸せに暮らせよ。
結婚が決まったら教えてくれよな!
美味い料理を作って待ってるぜ!
手紙の内容はジャノを祝福する言葉だった。親友らしいとはこういうことだったのか。確かに彼らしい。まだ一度しか会っていないのに、人柄の良さが伺える。それに、フェルナンが作る料理はとても美味しい。近い将来、俺の望む未来になったらジャノと一緒にあの店を訪れてもいいかもしれない。
「それじゃあ、美味しいお弁当を食べましょうか。ユベール様」
「はい」
ジャノと俺は中央にある長テーブルではなく、少し小さめの丸テーブルに腰をかけた。中央にお弁当を置き、ジャノがお弁当箱の蓋を開ける。その中には、俺が見たことのない料理が沢山詰め込まれていた。
俺は今、重要な試練を課せられている。少しでも気を緩めれば、理性ではなく本能が勝ってしまうような危機的状況だ! 俺の背中に密着する大天使様の胸。俺の手に添えられた白く細っそりとした美しい指。俺の耳に顔を寄せる大天使様は、幼い子どもに優しく言い聞かせるように「ハシ」とやらの使い方を教えてくれた。
「先ずは上のお箸をペンを持つようにして……下のお箸は此処で支えるんです。動かすのは上のお箸なので、下は動かさないように」
「あ、あぁあ」
「大丈夫ですか? やっぱり、難しいですよね?」
「そ、そそそ」
それどころじゃないー! ち、ちちちち、近い! ジャノとの距離が、今までにないくらい近いー! 彼は親切心で「ハシ」の使い方を教えてくれているだけだと頭では理解している。が! ずっと好きだった大天使様自ら俺に手を添えてくれるなんて、此処が天国なのだろうか。幸せと欲望が混ざり合って俺の頭の中は爆発寸前だ!
「初めてですからね。無理しなくていいですよ。ちょっと待ってください」
そう言ってジャノは俺の手から「ハシ」を引き抜き、向かいの席に座る。あぁ、離れてしまった。もう少しだけ、ジャノの体温を感じていたかったのに。しかし、落ち込んだのは一瞬。ジャノはお弁当箱の蓋を利用して「ハシ」を使って平等におにぎりやおかずを移動させる。そして、自分は蓋に移動したものを、俺にはお弁当箱に入っているものを置き、俺が使っていた「ハシ」を手にした。
何をするつもりなんだろう? しかし「ハシ」を使うジャノも美しいな。むしろ、彼にはこっちの方が似合っているとさえ思えてしまう。
「ユベール様。どうぞ。卵焼きです」
「な!」
ジャノは「タマゴヤキ」という、卵を巻いて焼いた料理をハシで摘んで、あろうことかそれを俺の口元へ持ってきた。俺の目の前には慈愛に満ちた笑顔の大天使様の美しいお顔。だ、だだだだ、大天使様自ら、お、おおおおお、俺に、俺に「あーん」をしてくれている! 嬉しすぎて涙が出てしまいそうだ! ジャノ! 貴方という人は! どれだけ俺の心を虜にすれば気が済むのですか!
「ん。これは、美味しいですね!」
「でしょう!? 彼奴が作る卵焼き、最高に美味しいんですよ! おにぎりもからあげもミニハンバーグもポテトサラダも全部美味しくて! 次は何を食べたいですか?」
「それじゃあ、これを」
「からあげですね。どうぞ」
「はい!」
あぁ、ずっとこの幸せな時間が続けばいいのに。大好きな大天使様に美味しい料理を食べさせてもらえるなんて、俺は今最高に幸せだ。後でこの記憶も魔導具に抽出して何時でも夢の中で体験できるようにしなければ。いや、その必要はもうないのか? 今はもうジャノがいるのだから、態々そんなことをしなくてもジャノに頼めば何時でもしてくれるし、だが、やはり夢の中でも……悩む!
「完食できましたね。お弁当箱、ちゃんと洗って返さないとなあ」
「そう、ですね」
「ユベール様? 大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
いいや、実際は大丈夫じゃない。幸せすぎてまだ頭がふわふわしている。ジャノの前で情けない姿は見せられない! と思っているのに、それよりも幸福度が増していて自分を制御できない。
「ご褒美の話はどうします?」
「ご褒美?」
「お仕事を頑張ったら、ご褒美がほしいと」
「は!」
「お風呂に入った後でもいいですか? それとも今がいいですか?」
「お、お風呂の後で! 俺が寝るまでずっと、ずっとしてほしいです!」
その後は当然俺がジャノを浴室に連れて行き、彼を隅々まで洗い、肌の手入れもしっかりとして、触り心地のいい寝巻きを着せて俺の部屋にある寝室へ連れて行く。そして、大きなベッドの上にジャノを座らせ、俺は「お願いします」と言った。
「えっと、それじゃあ、失礼します」
あの時のように、恐る恐る俺に腕を回して、ギュウと優しく抱きしめられる。あぁ、やはり落ち着く。彼の腕の中は温かくて、優しくて、頭を撫でる手も気持ちよくて。仕事を頑張った俺を沢山褒めてくれる。本当に、夢の中にいるみたいだ。必ず、貴方を幸せにしてみせます。年齢も身分も関係ない。俺にはジャノが必要だ。彼以外との結婚なんて考えられない。全身でジャノを感じて、彼の腕の中があまりにも心地よくて、俺は何時の間にか眠っていた。
「ジャノ。入ってもいいですか?」
我慢できずに扉を開けてしまったが、許してほしい。暫く会えなかったんだ! 寂しいに決まっているだろう! ステラから「何日も会えなかったようなことを言わないでください」と言われた。確かにそうだが! 俺にとってジャノと会えない時間はそれくらい長く感じるんだ!
「おかえりなさい。ユベール様」
「ただいま。ジャノ」
「お仕事は大丈夫だったんですか?」
「はい。無事に終わりました。午前中に終わらせたので、午後からは別のところに行っていました」
「別のところ?」
「はい。ジャノの親友のお店です」
「え!?」
「彼からお弁当を預かっています。貴方に渡してほしいと」
「ほ、本当ですか!?」
お弁当、と口にしただけでジャノは無邪気な子どものように目を輝かせた。その表情もとても愛らしく、俺の心をグサグサと刺激する。あぁ、可愛い可愛い可愛い美しい可愛い! こんな表情、俺はまだ出せたことがないのに。お弁当だけでジャノを喜ばせるフェルナンが羨ましくて仕方ない! 嬉しいのに悔しい。
「彼と色々話しました。ジャノもフェルナンも、お互い恋愛感情は抱いていないと。嫉妬して少しだけ彼に敵意を向けてしまいましたが、今はもう大丈夫です。親友同士だと分かったので」
「嫉妬って……本当に、何もしてませんか?」
「はい! 彼を傷付けてはいません! 断言します!」
「そう、ですか。あまり迷惑をかけちゃダメですよ。文也にも色々と事情があるんですから」
「ジャノは彼のことを『フミヤ』と呼ぶんですね」
「あー。それは、昔のクセで、つい。俺も彼奴と同じなんですよ。今はジャノって名前ですけど、昔は裕人と呼ばれていたんです。だからその名残で、今も俺は親友のことを文也、文也は俺のことを裕人って呼び合っているんです」
「本当に親しい関係なんですね」
「ええ! 自慢の親友です! 恋愛感情はありませんけど!」
フミヤの話をするジャノはとても輝いている。付き合いが長く、屋敷から追い出された時は何時も彼のお店でお世話になっていたと聞いた。彼が居なければ、ジャノはとっくの昔に死んでいたかもしれない、と。
「ジャノ……」
「あ。折角のお弁当なので、一緒に食べませんか? お箸も二膳入れてくれているので、二人で食べる為に用意したんでしょうね」
「二人で?」
「ん? これは、手紙?」
紙袋の中からお弁当箱を取り出し、ハシという四本の細長い棒を手に取ると、一枚の紙が落ちる。ジャノはそれを手に取って読むと「プッ」と吹き出した。プルプルと肩を震わせ、体調が悪いのかと慌てて駆け寄ると声を出して笑った。
「ジャノ? どうしたんですか?」
「い、いえ。すみません。彼奴らしいっていうか、変わらないのが嬉しいというか」
そう言って、ジャノは手紙を見せてくれた。
とうとう捕まっちまったかー。
今まで不幸だった分、天才魔導士様と末永く幸せに暮らせよ。
結婚が決まったら教えてくれよな!
美味い料理を作って待ってるぜ!
手紙の内容はジャノを祝福する言葉だった。親友らしいとはこういうことだったのか。確かに彼らしい。まだ一度しか会っていないのに、人柄の良さが伺える。それに、フェルナンが作る料理はとても美味しい。近い将来、俺の望む未来になったらジャノと一緒にあの店を訪れてもいいかもしれない。
「それじゃあ、美味しいお弁当を食べましょうか。ユベール様」
「はい」
ジャノと俺は中央にある長テーブルではなく、少し小さめの丸テーブルに腰をかけた。中央にお弁当を置き、ジャノがお弁当箱の蓋を開ける。その中には、俺が見たことのない料理が沢山詰め込まれていた。
俺は今、重要な試練を課せられている。少しでも気を緩めれば、理性ではなく本能が勝ってしまうような危機的状況だ! 俺の背中に密着する大天使様の胸。俺の手に添えられた白く細っそりとした美しい指。俺の耳に顔を寄せる大天使様は、幼い子どもに優しく言い聞かせるように「ハシ」とやらの使い方を教えてくれた。
「先ずは上のお箸をペンを持つようにして……下のお箸は此処で支えるんです。動かすのは上のお箸なので、下は動かさないように」
「あ、あぁあ」
「大丈夫ですか? やっぱり、難しいですよね?」
「そ、そそそ」
それどころじゃないー! ち、ちちちち、近い! ジャノとの距離が、今までにないくらい近いー! 彼は親切心で「ハシ」の使い方を教えてくれているだけだと頭では理解している。が! ずっと好きだった大天使様自ら俺に手を添えてくれるなんて、此処が天国なのだろうか。幸せと欲望が混ざり合って俺の頭の中は爆発寸前だ!
「初めてですからね。無理しなくていいですよ。ちょっと待ってください」
そう言ってジャノは俺の手から「ハシ」を引き抜き、向かいの席に座る。あぁ、離れてしまった。もう少しだけ、ジャノの体温を感じていたかったのに。しかし、落ち込んだのは一瞬。ジャノはお弁当箱の蓋を利用して「ハシ」を使って平等におにぎりやおかずを移動させる。そして、自分は蓋に移動したものを、俺にはお弁当箱に入っているものを置き、俺が使っていた「ハシ」を手にした。
何をするつもりなんだろう? しかし「ハシ」を使うジャノも美しいな。むしろ、彼にはこっちの方が似合っているとさえ思えてしまう。
「ユベール様。どうぞ。卵焼きです」
「な!」
ジャノは「タマゴヤキ」という、卵を巻いて焼いた料理をハシで摘んで、あろうことかそれを俺の口元へ持ってきた。俺の目の前には慈愛に満ちた笑顔の大天使様の美しいお顔。だ、だだだだ、大天使様自ら、お、おおおおお、俺に、俺に「あーん」をしてくれている! 嬉しすぎて涙が出てしまいそうだ! ジャノ! 貴方という人は! どれだけ俺の心を虜にすれば気が済むのですか!
「ん。これは、美味しいですね!」
「でしょう!? 彼奴が作る卵焼き、最高に美味しいんですよ! おにぎりもからあげもミニハンバーグもポテトサラダも全部美味しくて! 次は何を食べたいですか?」
「それじゃあ、これを」
「からあげですね。どうぞ」
「はい!」
あぁ、ずっとこの幸せな時間が続けばいいのに。大好きな大天使様に美味しい料理を食べさせてもらえるなんて、俺は今最高に幸せだ。後でこの記憶も魔導具に抽出して何時でも夢の中で体験できるようにしなければ。いや、その必要はもうないのか? 今はもうジャノがいるのだから、態々そんなことをしなくてもジャノに頼めば何時でもしてくれるし、だが、やはり夢の中でも……悩む!
「完食できましたね。お弁当箱、ちゃんと洗って返さないとなあ」
「そう、ですね」
「ユベール様? 大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
いいや、実際は大丈夫じゃない。幸せすぎてまだ頭がふわふわしている。ジャノの前で情けない姿は見せられない! と思っているのに、それよりも幸福度が増していて自分を制御できない。
「ご褒美の話はどうします?」
「ご褒美?」
「お仕事を頑張ったら、ご褒美がほしいと」
「は!」
「お風呂に入った後でもいいですか? それとも今がいいですか?」
「お、お風呂の後で! 俺が寝るまでずっと、ずっとしてほしいです!」
その後は当然俺がジャノを浴室に連れて行き、彼を隅々まで洗い、肌の手入れもしっかりとして、触り心地のいい寝巻きを着せて俺の部屋にある寝室へ連れて行く。そして、大きなベッドの上にジャノを座らせ、俺は「お願いします」と言った。
「えっと、それじゃあ、失礼します」
あの時のように、恐る恐る俺に腕を回して、ギュウと優しく抱きしめられる。あぁ、やはり落ち着く。彼の腕の中は温かくて、優しくて、頭を撫でる手も気持ちよくて。仕事を頑張った俺を沢山褒めてくれる。本当に、夢の中にいるみたいだ。必ず、貴方を幸せにしてみせます。年齢も身分も関係ない。俺にはジャノが必要だ。彼以外との結婚なんて考えられない。全身でジャノを感じて、彼の腕の中があまりにも心地よくて、俺は何時の間にか眠っていた。
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