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都市伝説 幻想図書館④-1
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ゴーン…ゴーン…
鐘が鳴り響く。
鐘塔からヒストアの街全体に鐘の音が響き渡る。
鐘の音を聞き、鳥たちが一斉にその場を飛び立っていく。
日が傾き始め、辺りはオレンジ色に染まっていく。
時刻は十六時を回ったところだ。
響き渡る鐘の音に街の方を振り向いた。ちょうど傾いた太陽の真反対に位置する場所に立っているからか、ヒストアの街が夕焼けをバックに綺麗なシルエットになって見えた。
思わず写真に収めたくなる美しさだ。カバンの携帯を取り出し、写真にその景色を収めた。
「綺麗だねー。まるで絵画みたい」
しばらくその景色を眺める。シルエットとなったヒストアの後ろに見える空は下から上にオレンジから紫へとグラデーションを描いていた。
「…ああ。…綺麗だな」
写真を収めた携帯をカバンにしまうオルメカの横で、同じように景色を眺めていたソロモンは呟いた。
シルエットの街から伸びる影を見る。その時、ある事に気がついた。
「…確認したい」
「ん?」
不意にそう話しかけられ、オルメカはソロモンを見る。彼の視線は街の方に注がれている。少し前驚いたような表情に見える。
「何?どうかした?」
「…いや、今、俺達がいるのは街の東に位置する廃墟…だな」
「ん?うん。そうだね。最早朽ち果てた廃墟だね」
そう、今二人がいるのはヒストアの街を出て東に位置する廃村である。その中の小高い丘に建てられていた館跡だ。石積みの構造だったようで、至る所に崩れた石壁や石材が転がっている。当時の家具だっただろうものもすっかり風化し、触るだけでも崩壊しそうな勢いだ。
「でもって、幻想図書館の出現予測地って事で見に来たのですよ?」
唐突なソロモンの話をオルメカは不思議に思いながら復習するように話す。
「…街の周辺にある出現予測地は他にいくつある?」
落ち着いた声で、しかし目線は街の方に向けたまま質問をしてくる。少しおかしなその様子に、オルメカは頭の上にハテナが飛ぶ。
「う、うん?えーっと…」
カバンの中のスクラップブックを取り出し、ヒストアのページを開く。
「えーっと、四か所、だね。でもこれ昼間全部回ったじゃん。ここが最後」
街を凝視したままのソロモンをちらちら見ながらスクラップブックを確認する。
街の西に二ヶ所、北に一ヶ所、人気のない廃墟があった。行ってみたものの、どれも規模も小さいもので、かつ、落書きなどがされている壁などもあり、普段、人が居なくとも、人の出入りがあるようだった。
しかも、木々が生い茂っており、日当たりが悪く、夜になっても月の光が差し込む程でもない。月の魔力が関係しているとするならば、候補地から外れるだろうという見解になり、最後の望みを掛けて東の廃村にやってきたのだ。
「何?急にどうしたのさ」
明らかに様子がおかしい。何か気づいたことがあるのかとその返事を待つ。
ずっと街の方を凝視していたソロモンが街の方を指差す。
「…覚えているか?大衆酒場での話を」
彼が指差した先を目で追い、何を指しているのかと探す。
「大衆酒場?おばちゃんの情報の事?」
そう答えてから、昨日の酒場での会話を思い出す。…しかし一体どれのことだろうか。
「…出現場所の話をしたな」
「出現場所ぉ?」
…ああ、そういやそんな話もあったなぁ。いやだって気がついたら話進んでたし?出現地が被らないことはスクラップブック作ってる時に気づいてたから、流し聞いてたわ…。
そのような事を考えているのがバレたのか、ソロモンは少しだけしらーっとした目で彼女をちらりと見たあと、指差していた手を下ろし、腰に当てる。
「…お前な…。話はきちんと聞いておけ」
「あはは」
呆れたように言われ、一体今日だけで何度呆れられたかなー?と考えつつ乾いた笑いで誤魔化す。
「えっと、それで?」
「…はぁ。…言っていたんだよ。ヒストアから東にある宮殿跡に出現した話を聞いたとな」
…は?東にある宮殿跡?そんなの…。どこにあったっけ?
慌ててカバンの中からワールドマップを探し出す。ガサッと広げ、ヒストアのパンフレットも合わせて周辺地域を見てみる。この日まわった四か所の廃墟や廃村についてはかつてあったものとしてパンフレットにもワールドマップにも書かれている。が、宮殿など、何処にも書かれていないし、あったと思われる空き地も見当たらない。
「何これ、どういう事?誰かが嘘の情報流しただけ?」
だが、宮殿程大きな建物を嘘の材料に使うだろうか。それどころか、何故、酒場のおばちゃんはこの情報に疑問を持たなかったのか。ヒストアの街に住んでいれば、東側に宮殿跡など無いことくらい知っているはずではないのか。
「…そうだ。マップにもパンフレットにも載っていない。だが、疑問に思わなかった。…それは何故か…」
ソロモンはオルメカが持っていたパンフレットを手に持ち、パラパラと捲る。通して見ても、やはり何処にも書かれていない。
パタンと閉じ、改めてヒストアの街の方を見る。
「…街の…いや、一部の人間だけが知る「宮殿」があったとしたら…」
オルメカはソロモンの視線の先を探す。やはり見つからない。そう思った時、ある事に気がついた。
「…あれ?街の影が…」
夕日に照らされたヒストアの街から東の草原に伸びる影。それが、大きなお城のような館のような形になっていた。
「…まさかっ!東の宮殿跡って…この影のこと!?」
思わずソロモンの方を見る。彼も驚いたような表情をしているが、落ち着いた様子で頷いた。
「ああ、恐らく。そういう事だろうな。噂の中の真実、と言ったところだな」
「まさか…でも、だとしたらもうこの街の周辺には現れない…?同じ場所には出現しないし、こんなに近くの廃村で出現する訳ないし…」
鐘が鳴り響く。
鐘塔からヒストアの街全体に鐘の音が響き渡る。
鐘の音を聞き、鳥たちが一斉にその場を飛び立っていく。
日が傾き始め、辺りはオレンジ色に染まっていく。
時刻は十六時を回ったところだ。
響き渡る鐘の音に街の方を振り向いた。ちょうど傾いた太陽の真反対に位置する場所に立っているからか、ヒストアの街が夕焼けをバックに綺麗なシルエットになって見えた。
思わず写真に収めたくなる美しさだ。カバンの携帯を取り出し、写真にその景色を収めた。
「綺麗だねー。まるで絵画みたい」
しばらくその景色を眺める。シルエットとなったヒストアの後ろに見える空は下から上にオレンジから紫へとグラデーションを描いていた。
「…ああ。…綺麗だな」
写真を収めた携帯をカバンにしまうオルメカの横で、同じように景色を眺めていたソロモンは呟いた。
シルエットの街から伸びる影を見る。その時、ある事に気がついた。
「…確認したい」
「ん?」
不意にそう話しかけられ、オルメカはソロモンを見る。彼の視線は街の方に注がれている。少し前驚いたような表情に見える。
「何?どうかした?」
「…いや、今、俺達がいるのは街の東に位置する廃墟…だな」
「ん?うん。そうだね。最早朽ち果てた廃墟だね」
そう、今二人がいるのはヒストアの街を出て東に位置する廃村である。その中の小高い丘に建てられていた館跡だ。石積みの構造だったようで、至る所に崩れた石壁や石材が転がっている。当時の家具だっただろうものもすっかり風化し、触るだけでも崩壊しそうな勢いだ。
「でもって、幻想図書館の出現予測地って事で見に来たのですよ?」
唐突なソロモンの話をオルメカは不思議に思いながら復習するように話す。
「…街の周辺にある出現予測地は他にいくつある?」
落ち着いた声で、しかし目線は街の方に向けたまま質問をしてくる。少しおかしなその様子に、オルメカは頭の上にハテナが飛ぶ。
「う、うん?えーっと…」
カバンの中のスクラップブックを取り出し、ヒストアのページを開く。
「えーっと、四か所、だね。でもこれ昼間全部回ったじゃん。ここが最後」
街を凝視したままのソロモンをちらちら見ながらスクラップブックを確認する。
街の西に二ヶ所、北に一ヶ所、人気のない廃墟があった。行ってみたものの、どれも規模も小さいもので、かつ、落書きなどがされている壁などもあり、普段、人が居なくとも、人の出入りがあるようだった。
しかも、木々が生い茂っており、日当たりが悪く、夜になっても月の光が差し込む程でもない。月の魔力が関係しているとするならば、候補地から外れるだろうという見解になり、最後の望みを掛けて東の廃村にやってきたのだ。
「何?急にどうしたのさ」
明らかに様子がおかしい。何か気づいたことがあるのかとその返事を待つ。
ずっと街の方を凝視していたソロモンが街の方を指差す。
「…覚えているか?大衆酒場での話を」
彼が指差した先を目で追い、何を指しているのかと探す。
「大衆酒場?おばちゃんの情報の事?」
そう答えてから、昨日の酒場での会話を思い出す。…しかし一体どれのことだろうか。
「…出現場所の話をしたな」
「出現場所ぉ?」
…ああ、そういやそんな話もあったなぁ。いやだって気がついたら話進んでたし?出現地が被らないことはスクラップブック作ってる時に気づいてたから、流し聞いてたわ…。
そのような事を考えているのがバレたのか、ソロモンは少しだけしらーっとした目で彼女をちらりと見たあと、指差していた手を下ろし、腰に当てる。
「…お前な…。話はきちんと聞いておけ」
「あはは」
呆れたように言われ、一体今日だけで何度呆れられたかなー?と考えつつ乾いた笑いで誤魔化す。
「えっと、それで?」
「…はぁ。…言っていたんだよ。ヒストアから東にある宮殿跡に出現した話を聞いたとな」
…は?東にある宮殿跡?そんなの…。どこにあったっけ?
慌ててカバンの中からワールドマップを探し出す。ガサッと広げ、ヒストアのパンフレットも合わせて周辺地域を見てみる。この日まわった四か所の廃墟や廃村についてはかつてあったものとしてパンフレットにもワールドマップにも書かれている。が、宮殿など、何処にも書かれていないし、あったと思われる空き地も見当たらない。
「何これ、どういう事?誰かが嘘の情報流しただけ?」
だが、宮殿程大きな建物を嘘の材料に使うだろうか。それどころか、何故、酒場のおばちゃんはこの情報に疑問を持たなかったのか。ヒストアの街に住んでいれば、東側に宮殿跡など無いことくらい知っているはずではないのか。
「…そうだ。マップにもパンフレットにも載っていない。だが、疑問に思わなかった。…それは何故か…」
ソロモンはオルメカが持っていたパンフレットを手に持ち、パラパラと捲る。通して見ても、やはり何処にも書かれていない。
パタンと閉じ、改めてヒストアの街の方を見る。
「…街の…いや、一部の人間だけが知る「宮殿」があったとしたら…」
オルメカはソロモンの視線の先を探す。やはり見つからない。そう思った時、ある事に気がついた。
「…あれ?街の影が…」
夕日に照らされたヒストアの街から東の草原に伸びる影。それが、大きなお城のような館のような形になっていた。
「…まさかっ!東の宮殿跡って…この影のこと!?」
思わずソロモンの方を見る。彼も驚いたような表情をしているが、落ち着いた様子で頷いた。
「ああ、恐らく。そういう事だろうな。噂の中の真実、と言ったところだな」
「まさか…でも、だとしたらもうこの街の周辺には現れない…?同じ場所には出現しないし、こんなに近くの廃村で出現する訳ないし…」
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