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閑話休題 馬車道道中記①-2
しおりを挟むそう考えると、少々変な人間ではあるが、出会って一緒に旅する事にしたのは、失敗ではないのかもしれない。そう思えた。
「ソロモン?どうかした?」
思考の沼にハマりかけた時、視界にヌッとオルメカの顔が入ってきた。どうやら買うだけ買って戻ってきたようだ。テーブルの上にはいくつかの料理が並んでいる。ネギしお焼きそば、カモネギうどん、だし巻き玉子や唐揚げ、炊き込みご飯など実に様々だ。
「…お前一人でこれだけを食べるのか?」
「んなわけないでしょ!アリスの分もあるし、ソロモンだってつまんでいいの」
バッと三人分の割り箸を広げて見せた。ガタッとイスを引いて座る。アリスもその横に座った。
「ソロモンも買ってくる?」
「…いや、軽くつまむだけでいい」
「あれ?お腹空いてないの?」
そう言うオルメカは既に焼きそばに食らいついている。ハムスターのように頬が膨らんでいる。思わずその頬を突っつきたくなるが、そこをぐっと堪えてソロモンは一言返事するに留まった。
「まぁ、な」
パキッと割り箸を割り、ひょいひょいっとつまんで食べる。その様子を不思議そうに見ていたアリスが口を開く。
「…あの、どうして普通にご飯を食べているんですか?召喚魔法ってご飯も食べれるんですか?」
その質問に二人はきょとんとする。朝だってご飯は食べていたのを見ているはずだからだ。もしかすると、その時から不思議に思っていたのだろうか。魔法的空間にいたとはいえ自身が魔法的存在ではないアリスとしては見慣れない光景だったと言うことなのかもしれない。
「んー、アリスは世界の構造ってどこまで知ってる感じ?」
「構造?魔法があって空があって海がある…みたいなことですか?」
「oh......まずはそこからね。了解」
そう言ってカバンから何かを取り出す。
「じゃーーん!シャボン玉?!!」
自慢げにそれを披露する。宙にシャボン玉が舞う。
「一体なんでそんなものを持ってるんだ」
呆れと驚きが入り交じったような表情でソロモンはテーブルの料理にシルフの風魔法を掛ける。
「まぁまぁ細かいことは気にしない!さて、わかりやすい様に説明するとね」
ふわふわと宙を漂うシャボン玉のひとつを指差す。
「このシャボン玉ひとつひとつが世界で、私達の世界がこれだとすると、周りのシャボン玉は異なる世界、通称、異世界って呼ばれる世界って事になるのね。シャボン玉の周りは宇宙と呼ばれていて、その空間の中に世界のひとつひとつが漂ってるってわけ」
三人の周りをシャボン玉が漂う。陽射しに照らされてキラキラと七色に輝いている。その時、びゅうっと風が吹きシャボン玉同士がぶつかり、くっつく。
「ほら、今くっついてるでしょ?この状態ってのが異世界同士がぶつかって出来る“世界の歪み”を生み出してるんだよね。で、この時に生まれる歪みを通って異世界に渡る人達も居るんだよね。まぁ、シャボン玉と違って実際は一時的な現象。すぐにでも離れてしまうからほとんどが転送魔法使いが必須条件なんだよねー」
そう言うオルメカはドヤ顔をしている。腰のブックボックスから例の魔導書を取り出す。それをテーブルに置いて広げて見せる。だが、中を見てみても白紙で、何も書かれていない。
「?…真っ白です」
「そうだね。これはある種、召喚魔法の魔導書なんだけど、同時に転送魔法の一種でもあるんだよ。もともと私が作ったものだし召喚魔法と転送魔法を組み合わせたってわけ。だから精霊とかじゃなくても異世界や私達の世界からでもいつでも呼び出せるってわけ」
ソロモンもこの仕組みを聞いた時は素直に感心したものだ。大魔法使いのランクを持っているわけでもない彼女にしてはよく考えたと思う。そして、同時に素質も感じた。きっと彼女は大魔法使いの域にだって辿り着ける才はあるだろう。きちんと魔法学に関する学校にでも通い、修行すれば。だが、彼女にその気はない。聞けば魔法は親に教わった部分と独学の部分とがあるという。
なんだか勿体無い気がする。
ソロモンは再び料理に手をつけながら話に耳を傾ける事にした。
「じゃあお兄さんは魔法じゃなくて転送魔法で呼ばれているんですか?」
「そーいうこと。ただ、一応は召喚魔法なもんで制約はあるし、扱いは魔法的存在。それであの幻想図書館館に張ってあった結界魔法をすり抜けられた理由ってわけ」
最後にパチンとウインクしてみせる。アリスはずっと残っていた疑問がスっと溶けた気がした。
「お姉さんはすごい魔法使いなんですね」
そう褒められてオルメカは嬉しそうだ。オルメカとアリスはお互いに微笑みあっている。
なんだがそれが面白くないソロモンは、二人に早く食べてしまう様に促した。
ソロモンに促された二人は少し冷めかけた料理をせっせと食べ始めた。
☆
食事を終え、道の駅をぶらぶらした後、運転手に言われた時間になり馬車に乗り込み、三人を乗せた馬車は道の駅を後にした。
そろそろ日が沈む頃。
ガタンゴトンと揺れる馬車の中で沈む夕陽を窓から眺める。オルメカの隣で彼女にもたれる様にしてアリスがうたた寝している。お腹がいっぱいになり眠くなったようだ。
二人の反対側に座るソロモンも窓の向こうに沈む夕陽を眺めている。
「…なぁ、オル」
ふいにソロモンが話しかけてきた。オルメカはソロモンの方を向く。
「…お前は……」
そう言いかけて、止めてしまう。なんだか、切ないような、何か思い詰めたかのような表情だ。
「何?どうしたの?」
「…いや、やはり、なんでもない。気にするな」
…いやいや、そんな憂いた顔されたら気にするってもんでしょうよ!!
そう思ったが、それ以降、彼は口をつぐみ黙ってしまった。今は話す気が無いという事なんだろうな。
その気が無い相手に無理矢理追及するのも気が引けるので、今は何も聞かないことにして、また窓の向こうを眺める。
沈む夕陽の周りは虹のように鮮やかなグラデーションになっていた。
沈む夕陽にセンチメンタルにでもなったのか、寝ているアリスと二人はそれから話すこともなく、次の街へと馬車は向かったーー……。
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