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邂逅逸話 暁のシジル 解⑤-4

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オオオオオオオオ…。

ゴゴゴゴゴゴゴ…。

   重低音を響かせながらゴーレムがその巨体を奮わせる。

「…!?動き出した!なんで!?ナアマはもう…」

   バッ!とオルメカは身構える。

「アリスは下がっていろ」

   ソロモンがアリスを背に回し、再び鍵を一本取り出す。
   するとシジルが彼の目の前に現れ、迷うことなくその鍵を差す。
    王の間で見せた召喚方法とは異なっているようだ。
    もしかすると、これが本来の召喚方法なのかも知れない。そう隣に居たオルメカは思った。

「…お前の力を貸してくれ!我が七十二柱が一人、三十六の軍団を率いる伯爵…」

   鍵を回すと、カチリと音が鳴る。その瞬間、シジルが強く光だし、シジルの前に扉が現れた。

「…悪魔アンドロマリウス!!」

   名を呼ぶとその扉が開きから悪魔が姿を現す。
   その姿は片手に蛇を巻きつけた男のようだった。

〈…久しいな。ソロモン〉

「ああ。そうだな。早速だが、頼めるか?」

〈ふっ。判りきったことを〉

   突然、悪魔を召喚したので、アラヌス達は驚いていた。

「嘘だろ?!悪魔召喚できんの!?何者なんだよ!ソロモンさんって」

「ほう…よもや人間が悪魔と契約をしているとはな…」

「……ふん」

   それを見ていたシャアムが手に着けたままだった暗器の刃を、ペロリと一舐めする。

「さっすが王様やなぁ。おっそろしいわ」

   ニヤリと笑い、楽しそうに言った。

「…戦力としては申し分ないわね」

   メイジーも弓を構える。

「スッゴいデース!!devil喚んでマース!」

   マトアカは初めて見るのか、悪魔アンドロマリウスを見てテンションが爆上がりしているようだ。

   そんなやり取りの横で、ゴーレムが次の動きを見せた。

グアアアアアアアアア!!

   ゴーレムは咆哮を上げる。
   暁に染まったこの空間で巨大なゴーレムとの戦闘が始まろうとしている。

ボコッ。

   ゴーレムの顔、その額に膨らみが出来る。その膨らみは徐々に形を成していく。
   そして、それが形を作ったとき、その場に居た全員が驚愕した。

「…ナ、アマ…」

   絞り出すようにソロモンが口にした。その瞳はゴーレムの額を捉え、揺れている。
   ゴーレムの額の膨らみが成した形は人型だ。泥で出来た身体だ。
   上半身だけが額から突き出ている。顔面の半分が崩壊し、漆黒の髪は逆立ったように広がっている。
   その姿はもう、口元を隠す様な布も、ヘッドドレスの様に頭を飾る宝石が散りばめられた髪飾りも、胸元の開いた踊り子のようなドレスも身に付けてはいなかった。それでも、ソロモンにはその人型がナアマだとわかったらしい。
   ゆらりと人型が動き、空を仰ぐように両手を広げ、

「まだ終わっていないわよおおおおおお」

   と、その人型が叫び声を上げる。それに呼応するようにゴーレムも咆哮を上げた。

グアアアアアアアアア!!

   ゴーレムが咆哮を上げると、周辺にビリビリとした振動が伝わる。
   アリスは思わず耳を塞いだ。

「あ、あれがナアマ…!?」

…嘘でしょ!?あれはもう人間なんかじゃ…。
   いや、正確には、会った時は既に人間ではなかった。泥の身体だったのだ。
   だが、城に埋もれたと思っていた彼女はまだ生きていた。そして、ゴーレムと同化して現れた。
   一体、何がどうなっているのか。

「なーラグさんよぉ。これって魔法なん?」

   シャアムがゴーレムを警戒しながらラグノアーサーに聞いた。

「…あれは、一種の古代魔法ぞ。それも、喪われた大魔法」

「あれが古代魔法だって言うのか?!」

   思わず声を上げたアラヌス。

「ふん。いちいち騒ぐな、脳内お花畑め。…だが、あのような小娘にそんな器量があるようには見えんがな」

   それに対して鬱陶しそうにルーエイが続けた。

   会話の途中でゴーレムが攻撃を繰り出す。両の拳を合わせて、まっ逆さまに地面に振り下ろす。

ドゴオオオン!!

   激しい音と共に地面が地震のように揺れ、叩きつけた拳の下から、一直線に地割れが起きる。

「うわっ」

「…ちっ」

   咄嗟にその場に居た全員が飛び退いて地割れを避ける。

「い、一撃で地割れが…!?」

「これは厄介ね…」

   飛び退いた先でオルメカとメイジーが各々に言葉を洩らす。

「これはもう、やるしかないっちゅーわけやな!」

   チャキ、と武器を構えると、シャアムは一直線にゴーレムに向かっていった。
   ソロモンも召喚していた悪魔アンドロマリウスに指示を出す。

「行くぞ!アンドロマリウス!!」

〈仰せのままに!〉

   ダッ!と走り出す。
   それを見ていたアラヌスも二人の後に続く。

「ゴーレムを叩けばいいんだよな!」

   その右手に光を集めると手のひらに魔法陣が浮かび上がった。魔法陣を中心にして集まった光は縦に伸び、光の剣となる。それを握り、ゴーレムに突っ込んでいく。

「はあああああああっ」

ザシュッ!

ズバッ!

   アラヌス、シャアム、ソロモンとアンドロマリウスが攻撃を繰り出す。
   だが、斬っても殴っても凍らせても、すぐに復活してしまう。

「あかん!!こいつもや!」

「再生能力…アンドロマリウスが攻撃したところでさえ復活するか…」

〈うむ…〉

「なんだよこいつ…!全然効いてないじゃん!」

   土の身体は固いわけではない。だから攻撃は入る。しかし…

「あの再生能力をどうにかしなければ、私達に勝機はないわね」

   弓を思いっきり引き、矢を放つ。

「百花繚乱・枝下柳!」

   ゴーレムの頭上に魔法陣が展開し、魔法の矢が降り注いだ。

「Meにまっかせるデース!!」

   マトアカは双銃をゴーレムに撃ち込む。

「転写!コピーレイン!」

   マトアカが撃った弾は魔法陣に変わり、その魔法陣は転々とする。その移動する魔法陣を光の雨が転写するように移動する。

グアアアアアアアアアッ

   集中攻撃を食らったゴーレムは咆哮をあげた。苦しんでいるようにも聞こえた。だが、攻撃で崩れた身体はすぐに再生してしまう。

「ふふ…無駄よ無駄よ無駄よ無駄無駄無駄あああああッ!!」

    ナアマが叫ぶ。その声は、徐々に壊れたように複数の声が混ざったようなものになる。

「返しなさいいいいいいいッ!!ソロモンをかえせえええええええッ!!」

   その叫びに呼応するようにゴーレムの体が光り出す。
   誰もがそれに警戒した瞬間、

カッ!!!

   と、いくつもの光線がゴーレムの身体から放たれた。
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