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43、研究棟の変人
しおりを挟む「……これは、あなたのものですわね」
漆黒の縦ロールのお嬢様と精霊という付き人。そんなふたりが訪れたのは学院内にある研究棟。そこにいるある人物に逢いに来ていた。
雑多に物が並べられた、いや、散らかったという表現がぴったりの部屋と机。どう見ても片付いていないし、多肉植物に覆われた不気味な研究室。明らかに貴族令嬢が訪れるには不釣り合いな場所。
そこで漆黒の縦ロールが特徴の貴族令嬢カルミアは足の踏み場もない部屋にローダンセが魔法で物を退けて作った道を進んで突き当たった場所にある大きな研究机で本や書類に埋まるようにして座っていた人物に声をかけた。
さらに、その人物からもよく見えるように持ち込んだ物を机の上に置いて見せる。
それは燃えるような真っ赤な色の花弁と赤色と黄色がまだら模様を作り出す植物の種らしき小さな物体。
「この花弁も、この種も、“火雀の花”ですわね?この花はとても美しい紅を持つ品種ですから上流貴族の中では人気はとても高いですわ。けれど、とても扱いが難しい花で、魔力を察知すると自ら自然発火してしまうほど繊細な花。それも、ただの火ではなく、魔力によるものな為、通常の水や雨では消えることの無い“久遠の燈”と呼ばれる特種な炎です。ひとたび燃え移れば簡単に消火することが出来なくなる厄介な炎ですわ」
淡々とカルミアが話を続けると、ローダンセがぽんっと拳と平手を重ねて閃いた仕草をして、何かを閃いたと言わんばかりに横から口を挟んだ。
「ああ、そういう事でしたか!なるほどなるほど……。つまり、カルミア様がおっしゃりたいのは、“火属性の魔法使いでなければ管理の難しい火雀の花を送り付けて火災を起こした犯人”が彼であるという事ですね?」
わざとらしく大きな声でそう言えば、視線は本や書類に埋まる男に向けられる。椅子に座っているのに埋もれている男の肩がピクっと反応する。
「……ええ。火雀の花は火属性の魔力にのみ適性を示す不思議な花。上流階級の貴族であれば知っている有名な話ですけれど、平民や下級貴族、ましてや田舎の男爵令嬢が知っているような話でもありませんわ。それに一般に出回る分は王国が管理している為、ただの男爵令嬢が手に入れられるわけも、しかもこのナスタチウム学院内に持ち込めるはずもないんですわ」
カルミアはそう言い切る。すると、バサバサと音を立てて本や書類を振り落としながら埋まっていた男が椅子に腰掛け直し、「それでは、何故、ここに火雀の花があるのでしょうネ?」と、ニヤニヤ笑いながら人を試すような言葉を吐いた。
若草色のもじゃもじゃ頭。頬くらいまで伸びた長い前髪から覗く大きな丸眼鏡がキラリと反射して白くなって目を隠す。
誰もがイメージしそうな偏屈な科学者と称するのがぴったり合いそうな白衣を着た男だ。
きひひ……、と不気味な笑い声を洩らしながらカルミアに向き合う。
カルミアと男の視線がぶつかると、カルミアは不愉快そうな声で男の名を呼んだ。
「……プラタナス。相変わらず趣味の悪い事を画策してますのね」
「きひひ……。そんなことないよォ?ボクはただここで好きなことをしているだけサ」
若草色の前髪の長いもじゃもじゃの毛先が跳ねまくった髪型の丸眼鏡。肌は青白く、日に当たったっていない故の白さと不健康そうな血色の無さ。白衣の下はどこかからか借りてきたような学生服で貴族らしい格好では無いのがわかる。靴はサンダルで素足で履いている。ニヤニヤと人を小馬鹿にしたような表情でこちらの不快感を煽ってくる男だ。
「あの……、カルミア様。こちらの方は一体何方でしょうか?火雀の花を学院に持ち込んだのが彼だと言うのは話の流れから察することが出来ましたが……」
隣にいたローダンセがそうカルミアに耳打ちして尋ねてくる。ローダンセはジニアの精霊で従者だが、学院の全員を把握しているわけでも無いようだ。
「あら、ご存知ありませんでしたのね。彼はプラタナス・オブシディアン。これでもオブシディアン男爵家の次男ですわ」
「オブシディアン男爵家と言えばアゲット王国でも有数の植物園を経営する爵位を買った貴族、でしたよね?確か、学院の研究棟にオブシディアン男爵家の息子が所属しているとはいえ聞いていましたが……この方でしたか」
感心するようにローダンセが言えばプラタナスは机の上の火雀の花の花弁をつまんで照明にかざしながらつまらなさそうに答える。
「んーつまらないこと知ってるネ。もっと楽しいことに尽力すべきだヨ」
さも知ったことではないといった様子で花弁をじろじろと眺めながらいじるプラタナスにカルミアは不満の色を態度に表す。
「……プラタナス。貴方がネリネさんに火雀の花を渡したのではなくって?おかげで貴族の女子寮が家事になりましたわ。一体、どういうつもりですの?貴方の目的はなんなんですの!?」
バンッ!と両手で机を叩くカルミアにローダンセはちょっと目を見開いて驚きの表情を見せる。けれど、プラタナスは花弁をいじったままカルミアを見向きもしない。
全く興味が無いようだ。
そんな態度にカルミアはムッとなる。
「プラタナス!!!下手をすれば誰かが亡くなっていたかもしれませんのよ!?それをわかっていますの!?」
怒りを顕にしたカルミアにプラタナスははぁーっと大きなため息をついてからこんなことを言い放った。
「証拠もないのに悪者扱いしないで欲しいナ。婚約者に近づく男爵令嬢が忌々しくて仕方ない悪役令嬢様。あんたの方がよっぽど怪しいネ?」
じろじろと舐め回すように見られた上、不快な言葉をかけられたカルミアの表情が軽蔑するようなものになったことは言うまでもなかった。
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