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第七話 我が家の怪異①
「先輩、よくここに住んでいられますね」
私が中学三年生に上がり、美術部の部長になった頃。
一つ下の後輩である藤原さんを、家の前まで連れてきたことがある。
藤原さんは自称「幽霊が見える子」で、私は半信半疑で彼女の話を聞いていた。
そもそも、私自身が懐疑派に足を突っ込んでいるというのもあるけれど。
藤原さんは、誰それには龍が憑いているだとか、大きなリスに羽や角が生えているものが肩に乗っているだとか、あまりにも荒唐無稽で現実離れしたことを口にするからだ。
そんな彼女が指差した先は、アパートの一番奥にある私の部屋だった。
「なんで?」
「あの奥の部屋は真っ暗な通り道になっているから」
その言葉にだけは、思い当たる節がある。シングルマザーの母と私は、曾祖母の建てたアパートで生活をしていたのだが、子供の頃から我が家にはときどきおかしなことがあった。
例えば小学生のとき、帰宅して誰もいないはずの居間に入った瞬間、ブラウン管のテレビ画面がパチンと消える。
今さっきまでついていたテレビを、誰かが慌てて消したかのような不自然な動作だった。
私はあまりの恐怖に家から飛び出し、外にいた母の元へ泣きながら走っていった。
また、ある日の深夜。
静まり返った住宅街で、奇妙な抑揚のない男女の歌声が聞こえてきた。
「仰げば尊し、我が師の恩」
子供とも大人ともつかない歌声が風に乗ってやってくる。時期は、卒業シーズンではない。
隣に住んでいたのは母の従兄弟で、そんな曲を深夜に聴くような年頃でもなかった。
やがて、その声が我が家の近くまで来たかと思うと、アパートの周辺を大勢の人たちが合唱しながら歩いていく様子が、体感として頭に浮かんだ。
遠ざかったり、近くなったり、大勢の人の歌声がアパート全体を囲う。
私は金縛りにあったことは一度もなく、その様子を窓から確認しようと思えばできた。
けれど、急に怖くなり何も聞こえないふりをして、私は布団を被った。
「今こそ別れめ、いざさらば」
布団越しにその声が聞こえて、悲鳴を上げそうになった私は、あまりの恐怖に強く目を閉じた。
いつの間にか朝になっていたのだが、結局のところあれがなんだったのか、何を私に伝えたかったのかは分からない。
もしかすると、生きている世界からの、卒業ということだったのだろうか?
私が中学三年生に上がり、美術部の部長になった頃。
一つ下の後輩である藤原さんを、家の前まで連れてきたことがある。
藤原さんは自称「幽霊が見える子」で、私は半信半疑で彼女の話を聞いていた。
そもそも、私自身が懐疑派に足を突っ込んでいるというのもあるけれど。
藤原さんは、誰それには龍が憑いているだとか、大きなリスに羽や角が生えているものが肩に乗っているだとか、あまりにも荒唐無稽で現実離れしたことを口にするからだ。
そんな彼女が指差した先は、アパートの一番奥にある私の部屋だった。
「なんで?」
「あの奥の部屋は真っ暗な通り道になっているから」
その言葉にだけは、思い当たる節がある。シングルマザーの母と私は、曾祖母の建てたアパートで生活をしていたのだが、子供の頃から我が家にはときどきおかしなことがあった。
例えば小学生のとき、帰宅して誰もいないはずの居間に入った瞬間、ブラウン管のテレビ画面がパチンと消える。
今さっきまでついていたテレビを、誰かが慌てて消したかのような不自然な動作だった。
私はあまりの恐怖に家から飛び出し、外にいた母の元へ泣きながら走っていった。
また、ある日の深夜。
静まり返った住宅街で、奇妙な抑揚のない男女の歌声が聞こえてきた。
「仰げば尊し、我が師の恩」
子供とも大人ともつかない歌声が風に乗ってやってくる。時期は、卒業シーズンではない。
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やがて、その声が我が家の近くまで来たかと思うと、アパートの周辺を大勢の人たちが合唱しながら歩いていく様子が、体感として頭に浮かんだ。
遠ざかったり、近くなったり、大勢の人の歌声がアパート全体を囲う。
私は金縛りにあったことは一度もなく、その様子を窓から確認しようと思えばできた。
けれど、急に怖くなり何も聞こえないふりをして、私は布団を被った。
「今こそ別れめ、いざさらば」
布団越しにその声が聞こえて、悲鳴を上げそうになった私は、あまりの恐怖に強く目を閉じた。
いつの間にか朝になっていたのだが、結局のところあれがなんだったのか、何を私に伝えたかったのかは分からない。
もしかすると、生きている世界からの、卒業ということだったのだろうか?
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