余白怪談

蒼琉璃

文字の大きさ
7 / 10

第七話 我が家の怪異①

「先輩、よくここに住んでいられますね」  

​ 私が中学三年生に上がり、美術部の部長になった頃。
 一つ下の後輩である藤原さんを、家の前まで連れてきたことがある。
 藤原さんは自称「幽霊が見える子」で、私は半信半疑で彼女の話を聞いていた。
 そもそも、私自身が懐疑派に足を突っ込んでいるというのもあるけれど。
 藤原さんは、誰それには龍が憑いているだとか、大きなリスに羽や角が生えているものが肩に乗っているだとか、あまりにも荒唐無稽で現実離れしたことを口にするからだ。
 そんな彼女が指差した先は、アパートの一番奥にある私の部屋だった。

​「なんで?」
「あの奥の部屋は真っ暗な通り道になっているから」

​ その言葉にだけは、思い当たる節がある。シングルマザーの母と私は、曾祖母の建てたアパートで生活をしていたのだが、子供の頃から我が家にはときどきおかしなことがあった。

 例えば小学生のとき、帰宅して誰もいないはずの居間に入った瞬間、ブラウン管のテレビ画面がパチンと消える。
 今さっきまでついていたテレビを、誰かが慌てて消したかのような不自然な動作だった。
 私はあまりの恐怖に家から飛び出し、外にいた母の元へ泣きながら走っていった。
 
 また、ある日の深夜。
 静まり返った住宅街で、奇妙な抑揚のない男女の歌声が聞こえてきた。
 
「仰げば尊し、我が師の恩」

​ 子供とも大人ともつかない歌声が風に乗ってやってくる。時期は、卒業シーズンではない。
 隣に住んでいたのは母の従兄弟で、そんな曲を深夜に聴くような年頃でもなかった。
 やがて、その声が我が家の近くまで来たかと思うと、アパートの周辺を大勢の人たちが合唱しながら歩いていく様子が、体感として頭に浮かんだ。
 遠ざかったり、近くなったり、大勢の人の歌声がアパート全体を囲う。
 私は金縛りにあったことは一度もなく、その様子を窓から確認しようと思えばできた。
 けれど、急に怖くなり何も聞こえないふりをして、私は布団を被った。

​「今こそ別れめ、いざさらば」 

​ 布団越しにその声が聞こえて、悲鳴を上げそうになった私は、あまりの恐怖に強く目を閉じた。
 いつの間にか朝になっていたのだが、結局のところあれがなんだったのか、何を私に伝えたかったのかは分からない。

​ もしかすると、生きている世界からの、卒業ということだったのだろうか?
感想 2

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

近づいてはならぬ、敬して去るべし

句ノ休(くのやすめ)
ホラー
山中、もしあなたがそれに出会ったら…… 近づいてはいけない。 敬して去るべし。   山を降りろ。   六年勤めた会社を辞めた。お荷物だとはわかっていたし、むしろ清々しくもあった。 28歳のコウイチには、仕事より大切なものがあった。 田舎歩きだ。そこ大事なのが学生のときにかじった民俗学だ。廃集落、古い祠、忘れられた神々——それを訪ねることは、彼のたった一つの愉しみだった。   大学時代、民俗学の講義で准教授はこう言った。「神々は神ではない」。人が畏れ、従い、忖度したものがかみになる。その言葉がコウイチを変えた。 会社の営業で関東のあちこちを歩きまわった。コウイチは仕事よりも土地の古老の話に耳を傾けることに熱中したほどだった。   失業後、ふと見つけた資料にコウイチは目を奪われた。 「名付け得ぬ神」。 東京の西、檜原村の奥深く、コボレザワという場所にその祭祀を担った一族がいたという。山奥には祠があるらしい。だがもう六十年も前に無人になってしまっているようだ。   コウイチは訪ねてみることにする。 道中、奇妙な老人に出会う。一人目は気のいい古書店主。二人目は何かを知りながら口を閉ざす資料館の老人。そして三人目は——   深い山中でコウイチはついに祠を見つけた。巨大な岩を背にした祠は古び、壊れていたが、まだ人が来ている痕跡があった。 不穏な気配にコウイチは振り向くが、なにもない。 日本の中心地・東京。そこからわずかにはずれた山の中に潜む秘密をめぐる奇譚。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【実話】怪談がらみの不思議話

真観屋桃生
ホラー
幼少期から『どういうこと?』『なに今の』と首を傾げるような不思議体験をそこそこの数してきた自分および身内や知人らの体験談を1話ずつ語って参ります。

【完結】声が聴こえる

金浦桃多
ホラー
夏に始まった違和感は、秋に歪み、冬に侵食し、春に崩れた。 俺を追う「声」は増え続けるのに、 ただひとつ、どうしても聴こえない声があった。 ある男の四季の物語。全四話。

ダークハンター

戸影絵麻
ホラー
 私こと島袋亜美14歳が通う天根市立曙学園では、ここのところ怪異が相次いで起きていた。  解体工事中の旧校舎から聞こえる獣の咆哮。  校内をさまよう異様な人影らしきもの。  日を追うごとに理科室に増えていく正体不明のホルマリン漬けの瓶…。  やがて怪異は学校の外にも溢れ出し、街のあちこちに異変が生じ始めた頃、どこからか彼女はやってきた。  

腐った絵本

チャビューヘ
ホラー
幼少期に読んだ絵本が、心の中で腐っている。 トラウマに感染した物語が体を蝕む奇病「蔵書症」——その治療法はただ一つ、患者の内面世界に潜り、腐った物語を縫い直すこと。 だが、パステルカラーの絵本世界に待っているのは、笑顔で内臓を盛り付ける怪異と、逃げることしかできない絶望だった。 繕い手・糸守縁、31歳。他人の痛みに一切共感できない。だからこそ、トラウマに引きずり込まれずに物語を縫い直せる。 解き手・鉤谷棘、24歳。他人の痛みがすべて自分の体に来る。だからこそ、トラウマの核を一瞬で見抜ける。 共感しない女と、共感しすぎる男。正反対の二人が、壊れた物語を摘出する——グロゴアホラー×バディ探索×心理ドラマ。 「治してどうするの?」 腐った世界の片隅で、黒い影が嗤っている。 「最初から壊れた物語を与えれば、壊れたまま生きていける」 治す者は、自分自身を治せるのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。