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第十話 着信あり
会社の先輩の望田さんが独身だったころのことだ。絶対に信じてもらえないと思うけど、という前置きでこの話を私にしてくれた。
「独身の頃に、同期たちで東京に行ったのよ。研修が目的だったんだけど、次の日は休みを取って遊ぼうっていう計画を立ててたの」
その人数は男女混合で六人。
全員、所属している課は別々だ。
シフト制だったので有給は取りやすかった。
研修で泊まるホテルは各自で予約するのだが、会社から経費が出るのでお得である。仲の良い六人は、男女それぞれに分かれて二つの部屋を取ることにした。
「それで、男子がお酒を持ってやってきたのよ。部屋で盛り上がってたんだけど、怖い映画をやるっていうからテレビをつけたの。そしたら、ほら……昔流行ってたホラー映画の『着信アリ』がやってたの。怖いのが苦手な子は、途中で男子の部屋の方へ逃げてたんだけど」
ホラーが苦手な女子が途中で離脱し、オカルトに興味がない望田さんの夫、当時は恋人だった坂上さんがいる部屋に避難した。
確か『着信アリ』の映画は、身に覚えのない着信音で未来の時刻から電話がかかってくる。
留守電を聞くと、自分の断末魔の悲鳴が録音されており、実はそれが死の予告という内容だったと思う。
私も映画を見たことがあるので、あの着メロの音が耳に残っている。
それが他人に伝播していく、というチェーンメールのような感染系のホラー映画だった。
「それでさ、あの映画で携帯が鳴るシーンがあるでしょ? そのときに、急に着信音がして飛び上がったのよ。それが私の携帯からだったんだけど……」
望田さんがおそるおそる携帯を確認した。自分の番号でもなく、知らない番号でもなく、非通知でもない。
「ガラケーのディスプレイには何の表示もされてなかったの。真っ白なのに電話がかかってきて、意味が分からなかった。それに、私が入れてない着メロ音だったのよ? みんな怖がっちゃって。電話に出てみろって言われたけど、そんなこと私にできるわけないじゃない」
しばらくして、望田さんの携帯は鳴り止んだ。また鳴るのが怖くて、彼女は電源を切ってしまった。
留守電が入っていたかどうかは覚えていないようだが、記憶にないということは、入っていても再生していないのだろう。
彼女たちが騒いでいるのが気になったのか、男子の部屋に避難していたふたりが戻ってきた。
「お前ら何騒いでんだよ。あのさ、黒電話がずーっと鳴ってるんだけど。誰かの着メロ?」
備え付けの電話のコール音ではない。
もちろん、このなかに黒電話の着メロを設定している人間は誰もいなかった。
彼らは音の出どころを部屋中探し回っていた。結局それがどこから鳴っているのか突き止められず、ひょっとして望田さんの部屋から聞こえているのではないかと思い、訪ねてきたのだ。
望田さんが今起こったことを坂上さんたちに話したが、半信半疑だった。
「とりあえず、こっちの部屋に来てみろ。まだ電話が鳴っているから」
それを確かめるために全員が部屋に向かうと、望田さんの耳には確かに黒電話の鳴り響く音がした。
「本当だ、聞こえる」
「えー、なにも聞こえないよ」
「嘘つけ、鳴ってるだろ!」
「俺にも聞こえない」
どうやら黒電話の着信音が聞こえる人と聞こえない人に分かれたらしい。恐ろしくなった彼らは部屋にいられず、とりあえず部屋で飲むのはやめにして、遅くまでやっている居酒屋で頭を冷やすことにした。
「その当時は事故物件サイトなんかなかったから。結局あれの正体が一体何なのか分からなかったけどね。まさか創作が本当になるわけじゃないだろうし」
なぜ自分の携帯だったのか。
望田さんはそれが恐ろしくて、東京から帰ってからも携帯に触るのが怖かったという。
「独身の頃に、同期たちで東京に行ったのよ。研修が目的だったんだけど、次の日は休みを取って遊ぼうっていう計画を立ててたの」
その人数は男女混合で六人。
全員、所属している課は別々だ。
シフト制だったので有給は取りやすかった。
研修で泊まるホテルは各自で予約するのだが、会社から経費が出るのでお得である。仲の良い六人は、男女それぞれに分かれて二つの部屋を取ることにした。
「それで、男子がお酒を持ってやってきたのよ。部屋で盛り上がってたんだけど、怖い映画をやるっていうからテレビをつけたの。そしたら、ほら……昔流行ってたホラー映画の『着信アリ』がやってたの。怖いのが苦手な子は、途中で男子の部屋の方へ逃げてたんだけど」
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留守電を聞くと、自分の断末魔の悲鳴が録音されており、実はそれが死の予告という内容だったと思う。
私も映画を見たことがあるので、あの着メロの音が耳に残っている。
それが他人に伝播していく、というチェーンメールのような感染系のホラー映画だった。
「それでさ、あの映画で携帯が鳴るシーンがあるでしょ? そのときに、急に着信音がして飛び上がったのよ。それが私の携帯からだったんだけど……」
望田さんがおそるおそる携帯を確認した。自分の番号でもなく、知らない番号でもなく、非通知でもない。
「ガラケーのディスプレイには何の表示もされてなかったの。真っ白なのに電話がかかってきて、意味が分からなかった。それに、私が入れてない着メロ音だったのよ? みんな怖がっちゃって。電話に出てみろって言われたけど、そんなこと私にできるわけないじゃない」
しばらくして、望田さんの携帯は鳴り止んだ。また鳴るのが怖くて、彼女は電源を切ってしまった。
留守電が入っていたかどうかは覚えていないようだが、記憶にないということは、入っていても再生していないのだろう。
彼女たちが騒いでいるのが気になったのか、男子の部屋に避難していたふたりが戻ってきた。
「お前ら何騒いでんだよ。あのさ、黒電話がずーっと鳴ってるんだけど。誰かの着メロ?」
備え付けの電話のコール音ではない。
もちろん、このなかに黒電話の着メロを設定している人間は誰もいなかった。
彼らは音の出どころを部屋中探し回っていた。結局それがどこから鳴っているのか突き止められず、ひょっとして望田さんの部屋から聞こえているのではないかと思い、訪ねてきたのだ。
望田さんが今起こったことを坂上さんたちに話したが、半信半疑だった。
「とりあえず、こっちの部屋に来てみろ。まだ電話が鳴っているから」
それを確かめるために全員が部屋に向かうと、望田さんの耳には確かに黒電話の鳴り響く音がした。
「本当だ、聞こえる」
「えー、なにも聞こえないよ」
「嘘つけ、鳴ってるだろ!」
「俺にも聞こえない」
どうやら黒電話の着信音が聞こえる人と聞こえない人に分かれたらしい。恐ろしくなった彼らは部屋にいられず、とりあえず部屋で飲むのはやめにして、遅くまでやっている居酒屋で頭を冷やすことにした。
「その当時は事故物件サイトなんかなかったから。結局あれの正体が一体何なのか分からなかったけどね。まさか創作が本当になるわけじゃないだろうし」
なぜ自分の携帯だったのか。
望田さんはそれが恐ろしくて、東京から帰ってからも携帯に触るのが怖かったという。
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