【R18】桃源郷で聖獣と霊獣に溺愛されています

蒼琉璃

文字の大きさ
49 / 70
【龍月編】

桃源郷のおしどり夫婦

しおりを挟む
 龍月ロンユエ武陵桃源ぶりょうとうげんの霊峰に旅立ってから一週間の月日がたった。

 その間の鳴麗は、義兄を心配するあまりご飯も喉を通らず、いつも元気で飛び跳ねている大きな尻尾も心なしかしなり、耳もへたって、心ここにあらずの状態で、女官の仕事に携わっていた。
 事情を知る玄天上帝が見かね、激励の手紙を送り、あまりのしおれ具合に、先輩の若晴ルォチンが心配して、桃園タオエンで、延々えんえんと悩み相談まで聞いてもらったくらいだ。
『龍の実』を持ち帰るために、危険な場所に彼を行かせたことが何よりも辛く、結婚なんて言い出さなければ良かったと後悔した日もあった。
 龍月が、自分を避け、家に戻らなくなったあの日のように、鳴麗は屋敷の居間でうたた寝をしていた。
 最近は、こうして義兄が帰ってくるのを待つのが、毎日の日課になっている。
 今日もまた、深夜まで不安な時間を一人で過ごし、円卓机に寝そべっていた鳴麗だが、小さな物音がすると、猫のように耳をピクリと動かし反射的にガバッと顔をあげた。

龍月ロンユエお兄――――」
「――――鳴麗ミンリィ、ただいま。約束の龍の実を持ち帰ってきたぞ」

 真珠のように、虹色に輝く宝珠を手の平に乗せた龍月が、目の前で腰を屈め覗き込んでいた。一週間会わないだけでも、懐かしく感じる大好きな龍月の姿は、思わず夢でも見ているような気がして、鳴麗は自分の頬をつねった。

「いひゃい……。本当に、本当に龍月お兄ちゃん?」
「当然だ。夢じゃない、鳴麗。義母さんと義父さんにはきちんと証拠を見せてきた。約束通り、正式に結婚の許しを得た」
「お兄ちゃん! 良かったぁ! 龍月お兄ちゃんが、無事に帰ってきてくれたことが一番の宝物だよっ、うわーん! 龍月お兄ちゃん、おかえりなさい!」

 鳴麗はブワッと涙を溢れさせると、立ち上がり、龍月の首元に抱きついて口付けた。
 義妹を受け止めた龍月は『月の印』で発情するのも構わず、愛しい義妹を受け止め啄むように何度も唇を合わせた。

「ああ、もうあんな大変な任務は二度とごめんだな。鳴麗、愛してる」
「うんっ、うんっ、愛してる、愛してるよぉ!」

 二人はもつれ合いながら床に倒れ込んだ。

✤✤✤

「こら、鳴麗……いつまでそうしているんだ?」
「えへへ、だって龍月ロンユエお兄ちゃんの婚礼衣装姿、とっっっても格好いいんだもん」
「――――はぁ。お兄ちゃん呼びは床几の上だけにしておきなさい。それにお前はもう、私の妻になるんだから、龍月でいい」
「うんっ、式が終わったらそう呼ぶから……これで言い納めだよ。今日から義兄妹じゃなくて、夫婦になるんだって思ったら……、幸せすぎて私死んじゃいそう。えへへ、嬉しいなぁ」

 鳴麗はニマニマと満面の笑みを浮かべる。
 龍月の婚礼衣装姿は、鳴麗が小さい頃から思い描いていた『私の夫になった龍月お兄ちゃん』の姿よりも何倍も格好良く、勢い余って背中に抱きついてしまった。
 ご機嫌で、尻尾をパタパタとさせている様子に龍月は苦笑する。
 今日は婚礼の日、黒龍族の花嫁衣装に身を包んだ鳴麗は『龍の実』で作られた、婚約指輪をはめた。

「おーい、鳴麗。龍月さん準備は……って、俺お邪魔だった?」

 格子戸の扉を開けて、水狼スイラァンが入ってくると、龍月の背中に抱きついている鳴麗を見て、目を丸くして笑った。
 龍月の事を、幼い頃から恋敵と思っていた水狼だったが、彼女が幸せになれる最愛の相手を彼女自身が選んだのだから、もう横恋慕よこれんぼはできない。
 幼なじみとして、雄としてきっぱりと二人の幸せを祈っていると告げた。

「わっ、も、もう準備できたよ。お母さんとお父さん、朝から宴会の準備すごく張り切ってたから楽しみだね」
「ああ。久しぶりに逢える親戚や宮廷の役人も来るからはりきっていたな。お前の友人も来てくれているようだ。さぁ、あまり来賓のみんなを待たせてはいけない。行こう、鳴麗。綺麗なお前を早くみんなに見せびらかしたい」
「うん、いちゃいちゃするのは初夜の時にでもたっぷりどうぞ。さぁ、みんな待ってるよ!」

 水狼が扉を開けると、龍月は鳴麗に手を差し伸べた。
 頬を染め、幸せそうな笑顔を浮かべた鳴麗の背中を押すようにして龍月は歩き出す。
 広い中庭には、赤い絨毯が敷かれ、二人はゆっくりと歩調を合わせて、互いに手を取り合いながら、両親の元へと向かう。
 青空の下で、円卓を囲むようにして来賓客が二人を見守った。
 円卓には、黒龍族の伝統である婚礼用の食事と酒が並び、二人は赤い絨毯の先で、涙ぐむ両親が座る場所までゆっくりと歩んだ。
 両親に深く頭を垂れながら拱手し、盃に酒を入れ、互いに口を付けると夫婦の契を交わす。

「私、孫龍月ソン・ロンユエは鳴麗を天帝の名のもとに我が妻とする。一生かけて鳴麗を幸せにし、鳴麗の人生を守ると誓います。そして生涯、彼女を信頼し、愛し続けましょう」
「私、孫鳴麗ソン・ミンリィは天帝の名のもとに龍月の妻となります。生涯をかけて慈しみ、誰よりも龍月を信頼し、支え、愛し続けます」

 誓いの言葉は伝統にのっとって、新郎新婦がお互いに考えたものだ。
 もうすでに、鳴麗の大きな瞳は感動のあまりうるうると潤んでる。
 最後の口付けも、まだ済んでいないというのに、泣き出す鳴麗を龍月は柔らかい笑顔で見つめ、指先で涙を優しく拭ってやった。
 そして、花嫁にやんわりと唇を重ねる。

「本当は子供の頃から、いつか鳴麗と結婚し、番になりたいと思っていた。私が、物心ついた時から、命をかけて護ろうと思った可愛い義妹は、初恋の相手だったんだな。ずいぶん、回り道をして、待たせてしまって……すまない。誰よりもお前を愛してる、鳴麗」
「わ、私も龍月お………っ! じゃない、龍月が初恋の相手でっっ、誰よりも愛してる!」

 鳴麗はそう言うと、嬉し泣きしながら勢いよく龍月の首元に抱きついて、彼を驚かせた。
 仲睦まじい様子に、来賓客は笑い、口々に祝いの言葉を述べ、拍手した。
 初々しい新婚夫婦の結婚式を、木の上から足をぶらぶらさせ、見守る影が一つ。
 武陵桃源に咲く、可愛らしい野花の香りを嗅ぐと、まるでささやかに祝うように、花弁を風に乗せて会場へ届けた。

「鳴麗さん、龍月……結婚おめでとう」

 カルマは小さくそう告げると、微笑んだ。
 

 鳴麗と龍月は、彼らと同じく兄妹の幼獣こどもたちを授かり、両親に負けず劣らず仲睦まじいおしどり夫婦として、ご近所で有名になった。
 そして、生涯玄天上帝の側近として仕えた有能な龍月の名前は、歴史に刻まれる事になる。
 

【龍月編・完】


しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】平凡OL(β)ですが、同期の末っ子御曹司(α)に溺愛されています

神無月りく
恋愛
日本外食産業の一翼を担う『川嶋フーズ』で秘書としてOL黒田鞠花(くろだまりか)は、同期で社長令息の川嶋隼人(川嶋はやと)に入社以来恋に似た憧れを抱いていた。 しかし、そもそもの身分が違う上に自分はβで、彼はα。 ただの同期以上の関係になれないまま、五年の月日が流れた。 ある日、Ωのヒートに巻き込まれて発情した彼を介抱するため一夜を共にし、それがきっかけで両思いだったことが発覚して交際がスタート。 意外に庶民的でたまに意地悪なスパダリ彼氏に溺愛され、順調にデートを重ねて幸せな日々を送っていた鞠花だったが、自分の母親からαの交際を反対されたり、彼の運命の番を自称するΩ令嬢が登場したりと、恋路を妨げる波乱に見舞われるように…… ※ムーンライトノベルズ(小説家になろう)様で同一作品を連載中ですが、こちらが若干先行公開となっております。 ※一応R18シーンには☆マークがついています。 *毎週土日および祝日の不定時に更新予定(ただし、1月1日~5日までは連日更新)。

わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件

こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

処理中です...