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【龍月編】
桃源郷のおしどり夫婦
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龍月が武陵桃源の霊峰に旅立ってから一週間の月日がたった。
その間の鳴麗は、義兄を心配するあまりご飯も喉を通らず、いつも元気で飛び跳ねている大きな尻尾も心なしかしなり、耳もへたって、心ここにあらずの状態で、女官の仕事に携わっていた。
事情を知る玄天上帝が見かね、激励の手紙を送り、あまりのしおれ具合に、先輩の若晴が心配して、桃園で、延々と悩み相談まで聞いてもらったくらいだ。
『龍の実』を持ち帰るために、危険な場所に彼を行かせたことが何よりも辛く、結婚なんて言い出さなければ良かったと後悔した日もあった。
龍月が、自分を避け、家に戻らなくなったあの日のように、鳴麗は屋敷の居間でうたた寝をしていた。
最近は、こうして義兄が帰ってくるのを待つのが、毎日の日課になっている。
今日もまた、深夜まで不安な時間を一人で過ごし、円卓机に寝そべっていた鳴麗だが、小さな物音がすると、猫のように耳をピクリと動かし反射的にガバッと顔をあげた。
「龍月お兄――――」
「――――鳴麗、ただいま。約束の龍の実を持ち帰ってきたぞ」
真珠のように、虹色に輝く宝珠を手の平に乗せた龍月が、目の前で腰を屈め覗き込んでいた。一週間会わないだけでも、懐かしく感じる大好きな龍月の姿は、思わず夢でも見ているような気がして、鳴麗は自分の頬をつねった。
「いひゃい……。本当に、本当に龍月お兄ちゃん?」
「当然だ。夢じゃない、鳴麗。義母さんと義父さんにはきちんと証拠を見せてきた。約束通り、正式に結婚の許しを得た」
「お兄ちゃん! 良かったぁ! 龍月お兄ちゃんが、無事に帰ってきてくれたことが一番の宝物だよっ、うわーん! 龍月お兄ちゃん、おかえりなさい!」
鳴麗はブワッと涙を溢れさせると、立ち上がり、龍月の首元に抱きついて口付けた。
義妹を受け止めた龍月は『月の印』で発情するのも構わず、愛しい義妹を受け止め啄むように何度も唇を合わせた。
「ああ、もうあんな大変な任務は二度とごめんだな。鳴麗、愛してる」
「うんっ、うんっ、愛してる、愛してるよぉ!」
二人はもつれ合いながら床に倒れ込んだ。
✤✤✤
「こら、鳴麗……いつまでそうしているんだ?」
「えへへ、だって龍月お兄ちゃんの婚礼衣装姿、とっっっても格好いいんだもん」
「――――はぁ。お兄ちゃん呼びは床几の上だけにしておきなさい。それにお前はもう、私の妻になるんだから、龍月でいい」
「うんっ、式が終わったらそう呼ぶから……これで言い納めだよ。今日から義兄妹じゃなくて、夫婦になるんだって思ったら……、幸せすぎて私死んじゃいそう。えへへ、嬉しいなぁ」
鳴麗はニマニマと満面の笑みを浮かべる。
龍月の婚礼衣装姿は、鳴麗が小さい頃から思い描いていた『私の夫になった龍月お兄ちゃん』の姿よりも何倍も格好良く、勢い余って背中に抱きついてしまった。
ご機嫌で、尻尾をパタパタとさせている様子に龍月は苦笑する。
今日は婚礼の日、黒龍族の花嫁衣装に身を包んだ鳴麗は『龍の実』で作られた、婚約指輪をはめた。
「おーい、鳴麗。龍月さん準備は……って、俺お邪魔だった?」
格子戸の扉を開けて、水狼が入ってくると、龍月の背中に抱きついている鳴麗を見て、目を丸くして笑った。
龍月の事を、幼い頃から恋敵と思っていた水狼だったが、彼女が幸せになれる最愛の相手を彼女自身が選んだのだから、もう横恋慕はできない。
幼なじみとして、雄としてきっぱりと二人の幸せを祈っていると告げた。
「わっ、も、もう準備できたよ。お母さんとお父さん、朝から宴会の準備すごく張り切ってたから楽しみだね」
「ああ。久しぶりに逢える親戚や宮廷の役人も来るからはりきっていたな。お前の友人も来てくれているようだ。さぁ、あまり来賓のみんなを待たせてはいけない。行こう、鳴麗。綺麗なお前を早くみんなに見せびらかしたい」
「うん、いちゃいちゃするのは初夜の時にでもたっぷりどうぞ。さぁ、みんな待ってるよ!」
水狼が扉を開けると、龍月は鳴麗に手を差し伸べた。
頬を染め、幸せそうな笑顔を浮かべた鳴麗の背中を押すようにして龍月は歩き出す。
広い中庭には、赤い絨毯が敷かれ、二人はゆっくりと歩調を合わせて、互いに手を取り合いながら、両親の元へと向かう。
青空の下で、円卓を囲むようにして来賓客が二人を見守った。
円卓には、黒龍族の伝統である婚礼用の食事と酒が並び、二人は赤い絨毯の先で、涙ぐむ両親が座る場所までゆっくりと歩んだ。
両親に深く頭を垂れながら拱手し、盃に酒を入れ、互いに口を付けると夫婦の契を交わす。
「私、孫龍月は鳴麗を天帝の名のもとに我が妻とする。一生かけて鳴麗を幸せにし、鳴麗の人生を守ると誓います。そして生涯、彼女を信頼し、愛し続けましょう」
「私、孫鳴麗は天帝の名のもとに龍月の妻となります。生涯をかけて慈しみ、誰よりも龍月を信頼し、支え、愛し続けます」
誓いの言葉は伝統にのっとって、新郎新婦がお互いに考えたものだ。
もうすでに、鳴麗の大きな瞳は感動のあまりうるうると潤んでる。
最後の口付けも、まだ済んでいないというのに、泣き出す鳴麗を龍月は柔らかい笑顔で見つめ、指先で涙を優しく拭ってやった。
そして、花嫁にやんわりと唇を重ねる。
「本当は子供の頃から、いつか鳴麗と結婚し、番になりたいと思っていた。私が、物心ついた時から、命をかけて護ろうと思った可愛い義妹は、初恋の相手だったんだな。ずいぶん、回り道をして、待たせてしまって……すまない。誰よりもお前を愛してる、鳴麗」
「わ、私も龍月お………っ! じゃない、龍月が初恋の相手でっっ、誰よりも愛してる!」
鳴麗はそう言うと、嬉し泣きしながら勢いよく龍月の首元に抱きついて、彼を驚かせた。
仲睦まじい様子に、来賓客は笑い、口々に祝いの言葉を述べ、拍手した。
初々しい新婚夫婦の結婚式を、木の上から足をぶらぶらさせ、見守る影が一つ。
武陵桃源に咲く、可愛らしい野花の香りを嗅ぐと、まるでささやかに祝うように、花弁を風に乗せて会場へ届けた。
「鳴麗さん、龍月……結婚おめでとう」
カルマは小さくそう告げると、微笑んだ。
鳴麗と龍月は、彼らと同じく兄妹の幼獣たちを授かり、両親に負けず劣らず仲睦まじいおしどり夫婦として、ご近所で有名になった。
そして、生涯玄天上帝の側近として仕えた有能な龍月の名前は、歴史に刻まれる事になる。
【龍月編・完】
その間の鳴麗は、義兄を心配するあまりご飯も喉を通らず、いつも元気で飛び跳ねている大きな尻尾も心なしかしなり、耳もへたって、心ここにあらずの状態で、女官の仕事に携わっていた。
事情を知る玄天上帝が見かね、激励の手紙を送り、あまりのしおれ具合に、先輩の若晴が心配して、桃園で、延々と悩み相談まで聞いてもらったくらいだ。
『龍の実』を持ち帰るために、危険な場所に彼を行かせたことが何よりも辛く、結婚なんて言い出さなければ良かったと後悔した日もあった。
龍月が、自分を避け、家に戻らなくなったあの日のように、鳴麗は屋敷の居間でうたた寝をしていた。
最近は、こうして義兄が帰ってくるのを待つのが、毎日の日課になっている。
今日もまた、深夜まで不安な時間を一人で過ごし、円卓机に寝そべっていた鳴麗だが、小さな物音がすると、猫のように耳をピクリと動かし反射的にガバッと顔をあげた。
「龍月お兄――――」
「――――鳴麗、ただいま。約束の龍の実を持ち帰ってきたぞ」
真珠のように、虹色に輝く宝珠を手の平に乗せた龍月が、目の前で腰を屈め覗き込んでいた。一週間会わないだけでも、懐かしく感じる大好きな龍月の姿は、思わず夢でも見ているような気がして、鳴麗は自分の頬をつねった。
「いひゃい……。本当に、本当に龍月お兄ちゃん?」
「当然だ。夢じゃない、鳴麗。義母さんと義父さんにはきちんと証拠を見せてきた。約束通り、正式に結婚の許しを得た」
「お兄ちゃん! 良かったぁ! 龍月お兄ちゃんが、無事に帰ってきてくれたことが一番の宝物だよっ、うわーん! 龍月お兄ちゃん、おかえりなさい!」
鳴麗はブワッと涙を溢れさせると、立ち上がり、龍月の首元に抱きついて口付けた。
義妹を受け止めた龍月は『月の印』で発情するのも構わず、愛しい義妹を受け止め啄むように何度も唇を合わせた。
「ああ、もうあんな大変な任務は二度とごめんだな。鳴麗、愛してる」
「うんっ、うんっ、愛してる、愛してるよぉ!」
二人はもつれ合いながら床に倒れ込んだ。
✤✤✤
「こら、鳴麗……いつまでそうしているんだ?」
「えへへ、だって龍月お兄ちゃんの婚礼衣装姿、とっっっても格好いいんだもん」
「――――はぁ。お兄ちゃん呼びは床几の上だけにしておきなさい。それにお前はもう、私の妻になるんだから、龍月でいい」
「うんっ、式が終わったらそう呼ぶから……これで言い納めだよ。今日から義兄妹じゃなくて、夫婦になるんだって思ったら……、幸せすぎて私死んじゃいそう。えへへ、嬉しいなぁ」
鳴麗はニマニマと満面の笑みを浮かべる。
龍月の婚礼衣装姿は、鳴麗が小さい頃から思い描いていた『私の夫になった龍月お兄ちゃん』の姿よりも何倍も格好良く、勢い余って背中に抱きついてしまった。
ご機嫌で、尻尾をパタパタとさせている様子に龍月は苦笑する。
今日は婚礼の日、黒龍族の花嫁衣装に身を包んだ鳴麗は『龍の実』で作られた、婚約指輪をはめた。
「おーい、鳴麗。龍月さん準備は……って、俺お邪魔だった?」
格子戸の扉を開けて、水狼が入ってくると、龍月の背中に抱きついている鳴麗を見て、目を丸くして笑った。
龍月の事を、幼い頃から恋敵と思っていた水狼だったが、彼女が幸せになれる最愛の相手を彼女自身が選んだのだから、もう横恋慕はできない。
幼なじみとして、雄としてきっぱりと二人の幸せを祈っていると告げた。
「わっ、も、もう準備できたよ。お母さんとお父さん、朝から宴会の準備すごく張り切ってたから楽しみだね」
「ああ。久しぶりに逢える親戚や宮廷の役人も来るからはりきっていたな。お前の友人も来てくれているようだ。さぁ、あまり来賓のみんなを待たせてはいけない。行こう、鳴麗。綺麗なお前を早くみんなに見せびらかしたい」
「うん、いちゃいちゃするのは初夜の時にでもたっぷりどうぞ。さぁ、みんな待ってるよ!」
水狼が扉を開けると、龍月は鳴麗に手を差し伸べた。
頬を染め、幸せそうな笑顔を浮かべた鳴麗の背中を押すようにして龍月は歩き出す。
広い中庭には、赤い絨毯が敷かれ、二人はゆっくりと歩調を合わせて、互いに手を取り合いながら、両親の元へと向かう。
青空の下で、円卓を囲むようにして来賓客が二人を見守った。
円卓には、黒龍族の伝統である婚礼用の食事と酒が並び、二人は赤い絨毯の先で、涙ぐむ両親が座る場所までゆっくりと歩んだ。
両親に深く頭を垂れながら拱手し、盃に酒を入れ、互いに口を付けると夫婦の契を交わす。
「私、孫龍月は鳴麗を天帝の名のもとに我が妻とする。一生かけて鳴麗を幸せにし、鳴麗の人生を守ると誓います。そして生涯、彼女を信頼し、愛し続けましょう」
「私、孫鳴麗は天帝の名のもとに龍月の妻となります。生涯をかけて慈しみ、誰よりも龍月を信頼し、支え、愛し続けます」
誓いの言葉は伝統にのっとって、新郎新婦がお互いに考えたものだ。
もうすでに、鳴麗の大きな瞳は感動のあまりうるうると潤んでる。
最後の口付けも、まだ済んでいないというのに、泣き出す鳴麗を龍月は柔らかい笑顔で見つめ、指先で涙を優しく拭ってやった。
そして、花嫁にやんわりと唇を重ねる。
「本当は子供の頃から、いつか鳴麗と結婚し、番になりたいと思っていた。私が、物心ついた時から、命をかけて護ろうと思った可愛い義妹は、初恋の相手だったんだな。ずいぶん、回り道をして、待たせてしまって……すまない。誰よりもお前を愛してる、鳴麗」
「わ、私も龍月お………っ! じゃない、龍月が初恋の相手でっっ、誰よりも愛してる!」
鳴麗はそう言うと、嬉し泣きしながら勢いよく龍月の首元に抱きついて、彼を驚かせた。
仲睦まじい様子に、来賓客は笑い、口々に祝いの言葉を述べ、拍手した。
初々しい新婚夫婦の結婚式を、木の上から足をぶらぶらさせ、見守る影が一つ。
武陵桃源に咲く、可愛らしい野花の香りを嗅ぐと、まるでささやかに祝うように、花弁を風に乗せて会場へ届けた。
「鳴麗さん、龍月……結婚おめでとう」
カルマは小さくそう告げると、微笑んだ。
鳴麗と龍月は、彼らと同じく兄妹の幼獣たちを授かり、両親に負けず劣らず仲睦まじいおしどり夫婦として、ご近所で有名になった。
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