62 / 70
【水狼編】
これは悪いこと?①
しおりを挟む
普段、行き慣れていない場所に遊びに行き、何度も抱き合ってしまって、体が予想以上に疲れたのかもしれない。だから、鳴麗の部屋で横になって、誰かがノックをして部屋に入ってくるまで、全く気配に気付かなかった。
鳴麗の隣には、熟睡している水狼。鳴麗が目を擦りながら前方を見ると、そこには険しい顔をした龍月が、仁王立ちで立っている。
鳴麗は彼の表情を見て、一気に青ざめた。今朝、龍月は帰りが遅くなると言っていたが。外に視線を向けると、もうとっぷり日が落ちて真っ暗になっていた。この静けさからして、どうやら、ぐっすり夜中まで眠ってしまっていたようだ。
「――――何をしてる」
「ひぇぁあ!? ろろろろ、龍月兄さんっ」
「客人の気配があるのに、いくら鳴麗を呼んでみても返事がなかった。まさか、番でもないお前が、私の義妹を傷物にするとはな、水狼!」
龍月の表情は絶対零度で、怒り心頭の様子だった。こんなに怒っている龍月を見たのは、生まれて始めてかもしれない。
水狼はようやく耳をピコピコと動かし、目を擦って起きた。寝ぼけたまま、龍月に乱暴に腕を引っ張られて、天蓋付きの寝台から転がり落ちる。額を打ってようやく水狼は目覚めると、そこには仁王立ちをしている龍月が居るのに気づき、さっと顔色を変えた。
「ろ、龍月さん……」
「いつか、こんなことになるんじゃないかと私は危惧していたのだ。狼族は発情が早いから、鳴麗と二人きりなるなと言っただろう。水狼、とっとと出ていけ。二度と鳴麗に近づくな!」
「ちょ、ま、待ってくれ! 俺は鳴麗と真剣にっ……!」
「龍月兄さん、ちょっと待って! ちゃんと私たち、番として将来を誓ってお付き合いしてるんだってば」
龍月は無言のまま、問答無用で水狼の腕を引っ張り、散らかった服を掴むと、ずるずると階段を降りた。そのまま屋敷から追い出して乱暴に服を投げつける。水狼は慌てて下着を履き、服を着こむと、屋敷の扉をガシャガシャとノックしたが、龍月はそれを無視して鳴麗の腕を掴むと玄関から離れた。横暴な義兄の態度に、鳴麗はブンブンと尻尾を振り回す。
「酷いよ、龍月兄さん! 本当に私たちは真剣に考えてるのっ!」
「鳴麗、とりあえず服を着なさい。全く人の気も知らないで……」
「うぅ~~~~ッッ! はっ! ちょ、ちょっと待っててっ、ちゃんとお話しするから」
薄いシーツを体にぐるぐる巻き付けていた鳴麗が、大きく唸ると龍月は溜息をついた。
パタパタと着替えに行く背中を見て、水狼と一線を越えてしまったであろう義妹を、複雑な心境で見守る。義兄の気持ちなど、彼女は全く気がついてもいない。
龍月が今まで、幼なじみという存在に危機感を感じ、どれほど溺愛し、どれほど自分が、血の繋がらない義理の兄ではなく、何度普通の雄として鳴麗と番いたいと思ったことか。
だが、その気持ちを悟られないようにしながら、成獣として、鳴麗に言わなければいけないことがある。
「……龍月兄さん。その……」
「ちょっと冷静になったか? ここに座りなさい」
服を着替えているうちに、徐々に冷静になってきた鳴麗は、階段の上からひょっこり顔を出して、龍月の様子を伺っていた。それから視線で合図されると、恐る恐る階段を降りて円卓の椅子に座る。
鳴麗は水狼と遊びで交尾をした訳ではなく、ましてや彼に、むりやり貞操を奪われた訳でもない。幼なじみではなく、成獣になって、番として将来を誓いあったのだ。
けれど、ここは元々龍月の屋敷。
義兄と離れるのが寂しく、無理を言って転がり込んできたのは、鳴麗の方だ。
「二人のお屋敷で、水狼と交尾しちゃったのは凄く反省してます……。でも、真剣だよっ、将来は、番になろうって誓い合ってるしっ」
「私は、義父さんや義母さんからお前を預かってる。そういう言葉は、雌と交尾したい雄なら誰でも簡単に口にするのだ。お前たちは、結婚して番になりたいというが、狼族は一部を除いてあまり黒龍族を快く思っていない。それは、鳴麗も肌味で感じているだろう。しかも水狼は、あの若さで白虎帝の側で仕えるほど出世している雄だ。きっと、同族の相応しい雌が、番として選ばれるだろう」
「そ、そんな……水狼はそんな雄じゃないよ。黒龍族のことは、そうかもしれないけど、水狼のお母さんとお父さんは優しいよ。それに狼族の番は絶対なんでしょ?」
「どうだろうな。別の正統な番が現れるかもしれない」
龍月の言葉に、少なからず鳴麗はショックを受けていた。狼族の友だちも彼以外にいたものの、年配の霊獣になると、黒龍族に対して素っ気ない態度の者が多い。そのせいか、狼族の多い西の國には、黒龍族が移住したがらない。彼らの言う運命の番は同族にしか現れないのだろうか。それもよく分からず、鳴麗はうなだれる。
「鳴麗、お前も宮廷に仕えて間もない。もし、卵でも産んだら、せっかくつけた宮廷の職も辞めて実家に帰るしかなくなるだろう。ちゃんと考えなさい。もう、水狼には会わないように」
「…………」
龍月兄さん酷いよ、とは言えなかった。彼の言葉も頭では理解している。水狼は責任を取ると言っていたけれど、ちゃんと彼の両親に話を通したとして、群れの反対に合えば、番になれるかどうかなんて分からない。宮廷の仕事や、狼族との確執。そして幼なじみの彼が白虎帝の直属でエリートであることを思うと、結婚して番になれる可能性がだんだん薄れてきたような気がして、鳴麗はポロポロと涙を流した。
「もう今日は遅い、寝なさい。なにがあっても私は、お前の味方だから、それだけは信じてほしい」
龍月の真剣な眼差しと、労る言葉を聞くと余計に胸が苦しくなる。龍月の顔をまともにみれなくなった鳴麗は、無言のまま立ち上がり部屋へと戻っていった。ポフっと寝具に倒れ込み、泣きながら頬を膨らませる。
(どうやったら、龍月兄さんや狼族のみんなに分かってもらえるのかな。会うなって言われたけど、会いたい。だって大好きなんだよ!)
鳴麗の隣には、熟睡している水狼。鳴麗が目を擦りながら前方を見ると、そこには険しい顔をした龍月が、仁王立ちで立っている。
鳴麗は彼の表情を見て、一気に青ざめた。今朝、龍月は帰りが遅くなると言っていたが。外に視線を向けると、もうとっぷり日が落ちて真っ暗になっていた。この静けさからして、どうやら、ぐっすり夜中まで眠ってしまっていたようだ。
「――――何をしてる」
「ひぇぁあ!? ろろろろ、龍月兄さんっ」
「客人の気配があるのに、いくら鳴麗を呼んでみても返事がなかった。まさか、番でもないお前が、私の義妹を傷物にするとはな、水狼!」
龍月の表情は絶対零度で、怒り心頭の様子だった。こんなに怒っている龍月を見たのは、生まれて始めてかもしれない。
水狼はようやく耳をピコピコと動かし、目を擦って起きた。寝ぼけたまま、龍月に乱暴に腕を引っ張られて、天蓋付きの寝台から転がり落ちる。額を打ってようやく水狼は目覚めると、そこには仁王立ちをしている龍月が居るのに気づき、さっと顔色を変えた。
「ろ、龍月さん……」
「いつか、こんなことになるんじゃないかと私は危惧していたのだ。狼族は発情が早いから、鳴麗と二人きりなるなと言っただろう。水狼、とっとと出ていけ。二度と鳴麗に近づくな!」
「ちょ、ま、待ってくれ! 俺は鳴麗と真剣にっ……!」
「龍月兄さん、ちょっと待って! ちゃんと私たち、番として将来を誓ってお付き合いしてるんだってば」
龍月は無言のまま、問答無用で水狼の腕を引っ張り、散らかった服を掴むと、ずるずると階段を降りた。そのまま屋敷から追い出して乱暴に服を投げつける。水狼は慌てて下着を履き、服を着こむと、屋敷の扉をガシャガシャとノックしたが、龍月はそれを無視して鳴麗の腕を掴むと玄関から離れた。横暴な義兄の態度に、鳴麗はブンブンと尻尾を振り回す。
「酷いよ、龍月兄さん! 本当に私たちは真剣に考えてるのっ!」
「鳴麗、とりあえず服を着なさい。全く人の気も知らないで……」
「うぅ~~~~ッッ! はっ! ちょ、ちょっと待っててっ、ちゃんとお話しするから」
薄いシーツを体にぐるぐる巻き付けていた鳴麗が、大きく唸ると龍月は溜息をついた。
パタパタと着替えに行く背中を見て、水狼と一線を越えてしまったであろう義妹を、複雑な心境で見守る。義兄の気持ちなど、彼女は全く気がついてもいない。
龍月が今まで、幼なじみという存在に危機感を感じ、どれほど溺愛し、どれほど自分が、血の繋がらない義理の兄ではなく、何度普通の雄として鳴麗と番いたいと思ったことか。
だが、その気持ちを悟られないようにしながら、成獣として、鳴麗に言わなければいけないことがある。
「……龍月兄さん。その……」
「ちょっと冷静になったか? ここに座りなさい」
服を着替えているうちに、徐々に冷静になってきた鳴麗は、階段の上からひょっこり顔を出して、龍月の様子を伺っていた。それから視線で合図されると、恐る恐る階段を降りて円卓の椅子に座る。
鳴麗は水狼と遊びで交尾をした訳ではなく、ましてや彼に、むりやり貞操を奪われた訳でもない。幼なじみではなく、成獣になって、番として将来を誓いあったのだ。
けれど、ここは元々龍月の屋敷。
義兄と離れるのが寂しく、無理を言って転がり込んできたのは、鳴麗の方だ。
「二人のお屋敷で、水狼と交尾しちゃったのは凄く反省してます……。でも、真剣だよっ、将来は、番になろうって誓い合ってるしっ」
「私は、義父さんや義母さんからお前を預かってる。そういう言葉は、雌と交尾したい雄なら誰でも簡単に口にするのだ。お前たちは、結婚して番になりたいというが、狼族は一部を除いてあまり黒龍族を快く思っていない。それは、鳴麗も肌味で感じているだろう。しかも水狼は、あの若さで白虎帝の側で仕えるほど出世している雄だ。きっと、同族の相応しい雌が、番として選ばれるだろう」
「そ、そんな……水狼はそんな雄じゃないよ。黒龍族のことは、そうかもしれないけど、水狼のお母さんとお父さんは優しいよ。それに狼族の番は絶対なんでしょ?」
「どうだろうな。別の正統な番が現れるかもしれない」
龍月の言葉に、少なからず鳴麗はショックを受けていた。狼族の友だちも彼以外にいたものの、年配の霊獣になると、黒龍族に対して素っ気ない態度の者が多い。そのせいか、狼族の多い西の國には、黒龍族が移住したがらない。彼らの言う運命の番は同族にしか現れないのだろうか。それもよく分からず、鳴麗はうなだれる。
「鳴麗、お前も宮廷に仕えて間もない。もし、卵でも産んだら、せっかくつけた宮廷の職も辞めて実家に帰るしかなくなるだろう。ちゃんと考えなさい。もう、水狼には会わないように」
「…………」
龍月兄さん酷いよ、とは言えなかった。彼の言葉も頭では理解している。水狼は責任を取ると言っていたけれど、ちゃんと彼の両親に話を通したとして、群れの反対に合えば、番になれるかどうかなんて分からない。宮廷の仕事や、狼族との確執。そして幼なじみの彼が白虎帝の直属でエリートであることを思うと、結婚して番になれる可能性がだんだん薄れてきたような気がして、鳴麗はポロポロと涙を流した。
「もう今日は遅い、寝なさい。なにがあっても私は、お前の味方だから、それだけは信じてほしい」
龍月の真剣な眼差しと、労る言葉を聞くと余計に胸が苦しくなる。龍月の顔をまともにみれなくなった鳴麗は、無言のまま立ち上がり部屋へと戻っていった。ポフっと寝具に倒れ込み、泣きながら頬を膨らませる。
(どうやったら、龍月兄さんや狼族のみんなに分かってもらえるのかな。会うなって言われたけど、会いたい。だって大好きなんだよ!)
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる