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三話 鳥頭村①
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梨子の話はこうだ。
その日、梨子と達也、そして僕も同じく高校時代の友人である中山裕二と加藤愛、それにあともう二人同行者を引き連れて行く事にした。
そこは北関東にある『神隠しの家』と言われる、心霊スポットとしてそこそこ有名な廃墟らしい。
怖がりな梨子は達也から誘いを受け、一度は断ろうとしたが、話を聞けば、どうやら車二台で向かい、六人で行くという大所帯のようだった。
愛も裕二も一緒だと聞いて、最初で最後の肝試しも良いかもしれないと思ったそうだ。
彼女は、達也のどうしても怖かったら、車で待ってて良いから、と言う言葉に背中を押されて、渋々承諾した。
『その心霊スポットって、もっと都会にあると思ってたんだけど、結構山の近くにあるんだ? ねぇ、こんなに奥まで来て、大丈夫なの』
『廃村なんてだいたいこんなもんじゃねぇのかな。なんだよ梨子、もう帰りたくなってきたのかよ。本当に怖がりだなぁ』
『え、廃村……?』
梨子はここで始めて、その場所が廃村だと知った。
帰りたいと言う気持ちが強くなり、もうすでに弱音を吐く梨子を、助手席に座っていた達也が、振り返って笑った。
『大丈夫だって、六人もいたら怖くねーだろ』
『怖いに決まってるじゃん。お化けなんて、絶対に見たく無いよ』
『梨子、大丈夫だよ。愛は霊感強いから何かあったら私が祓ってあげる。それにね、後ろの車にいる宗介くんも霊感高いんだよぉ。あと、裕二くんのスタッフさん達は、心霊スポットに慣れてるから』
加藤さんは辰子島出身で、梨子とは正反対のタイプだ。漫画やアニメ大好きオタク女子という感じだったが、何故か二人は一緒にいる事が多かった。
彼女はクラスに一人はいる「私、実は霊感強いんです」系の女の子だ。悪い子では無いが、僕は正直苦手な自称霊感少女タイプで、あまり交流が無かった。
加藤さんは、梨子と後部座席に座り、どこかの神社のお守り、塩、パワーストーンのブレスレットなどを、梨子に見せて、怖がる彼女を安心させていたようだ。
『愛ちゃん、めちゃくちゃ本格的だね~~、もしさ、幽霊が出たら教えてよ。宗介と答え合わせしても面白そうだし。可愛い女の子が霊媒師として出て来ると、リスナーも盛り上がんだよね!』
裕二は、ミラー越しに話すと加藤さんに、企画を持ち掛けたらしい。
言い忘れていたが、彼は僕と同じように関東エリアで就職した。
それが、気まぐれに始めた某動画サイトの配信で、爆発的に人気が出てしまい、今は脱サラして、人気オカルト系動画配信者として生活している。
自分もカメラを構えるが、スタッフとして二人も雇えているんだから、凄いよな。
ちなみにその爆発的にバズった動画というのは、廃墟巡りしながらの一発芸、なんて芸人顔負けのネタ動画だった。
その時に偶然撮影した映像に、霊が映りこんでいたらしく、リスナーの間で話題になり、それがSNSのインフルエンサーに拡散され、一躍オカルト界隈で有名になって、そのまま心霊動画配信者になったという流れだ。
その動画を、以前彼から見せて貰ったけど、いまいち霊が映っているかどうかは良く分からなかったので、僕は眉唾ものだと思っている。
この日も動画サイトで配信する為に、裕二は自分でもカメラを持ってきていたらしい。
『お、あれじゃね? 見えてきたーー』
そうこうしているうちに、廃村入口へと到着した。仮に廃村の奥に『神隠しの家』があったなら、その場に残っていたのに、と梨子は随分と後悔しているようだった。
廃村の入口に差し掛かった時、車のヘッドライトが古い日本家屋の一軒家を照らした。障壁は所々苔むしていて、比較的綺麗だと思われる壁に『この先、進むな。呪いの家』とスプレーで書かれており、ご丁寧に矢印までされていたので、直ぐにそこが噂の場所だと分かったようだ。
『分かりやすくて助かるわ~! 表札も成竹だし、ここで間違いねぇな。しっかし、廃村入って直ぐに神隠しの家発見しましただと、企画的に面白くねぇよな』
裕二がそう言って車を止めると、カメラを回し始める。達也、加藤さん、梨子、そして最後に裕二が車から降りる。
その直ぐあとに、車が停車すると裕二の会社の後輩だった、照明係の秋本宗介さんと、そして四十代後半のカメラマン兼プロデューサーである、本田芳雄さんが出て来た。本田さんは、過去に有名なオカルトDVDシリーズを手掛けた事もある人らしい。
『ここか。裕二くん、直ぐに見つけちゃったら、ちょっとインパクト欠けるかなぁ。素人っぽさは残し時たいから、ちょっとぶらっとしときたいね』
『裕二さん、ここ、冗談じゃなく本気で嫌な感じがしますよ。あの神隠しの家が特に……おぞましい感じがするんです。だから廃村巡りだけでも良く無いですか?』
カメラを準備する本田さんに、秋本さんが顔を強張らせて言った。
「私ね、霊感とか全く無いし感じた事も無いから、信じてない。そういうの、怖いから全く興味無いんだけど、あの家は凄く気持ち悪く感じた。絶対ここに入ったら駄目だって思ったんだ」
梨子は、お洒落なグラスに注がれたレモンティーに口を付けないまま、項垂れて話を続ける。傍目から見ても、彼女が、相当怖い思いをしたのだろうと言うのが伝わってきた。
僕は、怖がったり嫌がっている人を無理にそういう場所に連れて行くのは反対だ。
『確かにそれ、あるっすね。やっぱ引きが無いとさ。うちとこは他と違って、ドキュメント最怖心スポ巡りを売りにしてるし』
『じゃあ、探検しようぜ! おもろいじゃんね』
達也は梨子とは対照的に、その時はかなり乗り気だったらしい。
梨子は、動画に映るのは絶対に嫌だと断って、照明の秋本さんと共に歩く事にした。愛は、今回のゲスト枠の特別出演の霊感少女として裕二の後ろに控えていた。達也は、嘘の体験者として出演する事になったらしい。
梨子は一応その彼女として、声だけの出演と言う事で、渋々了承する。
「本当かどうか分からないけど、その村は、烏頭村と言って五十年ほど前に、廃村になったんだって本田さんは言ってたよ」
廃村らしく、そこそこ鳥頭村は荒れていたが、成竹さんの表札がある、神隠しの家だけは、そこまで荒らされている様子は無く、障壁の落書きだけが異様に際立っていて、気味が悪かったらしい。
その日、梨子と達也、そして僕も同じく高校時代の友人である中山裕二と加藤愛、それにあともう二人同行者を引き連れて行く事にした。
そこは北関東にある『神隠しの家』と言われる、心霊スポットとしてそこそこ有名な廃墟らしい。
怖がりな梨子は達也から誘いを受け、一度は断ろうとしたが、話を聞けば、どうやら車二台で向かい、六人で行くという大所帯のようだった。
愛も裕二も一緒だと聞いて、最初で最後の肝試しも良いかもしれないと思ったそうだ。
彼女は、達也のどうしても怖かったら、車で待ってて良いから、と言う言葉に背中を押されて、渋々承諾した。
『その心霊スポットって、もっと都会にあると思ってたんだけど、結構山の近くにあるんだ? ねぇ、こんなに奥まで来て、大丈夫なの』
『廃村なんてだいたいこんなもんじゃねぇのかな。なんだよ梨子、もう帰りたくなってきたのかよ。本当に怖がりだなぁ』
『え、廃村……?』
梨子はここで始めて、その場所が廃村だと知った。
帰りたいと言う気持ちが強くなり、もうすでに弱音を吐く梨子を、助手席に座っていた達也が、振り返って笑った。
『大丈夫だって、六人もいたら怖くねーだろ』
『怖いに決まってるじゃん。お化けなんて、絶対に見たく無いよ』
『梨子、大丈夫だよ。愛は霊感強いから何かあったら私が祓ってあげる。それにね、後ろの車にいる宗介くんも霊感高いんだよぉ。あと、裕二くんのスタッフさん達は、心霊スポットに慣れてるから』
加藤さんは辰子島出身で、梨子とは正反対のタイプだ。漫画やアニメ大好きオタク女子という感じだったが、何故か二人は一緒にいる事が多かった。
彼女はクラスに一人はいる「私、実は霊感強いんです」系の女の子だ。悪い子では無いが、僕は正直苦手な自称霊感少女タイプで、あまり交流が無かった。
加藤さんは、梨子と後部座席に座り、どこかの神社のお守り、塩、パワーストーンのブレスレットなどを、梨子に見せて、怖がる彼女を安心させていたようだ。
『愛ちゃん、めちゃくちゃ本格的だね~~、もしさ、幽霊が出たら教えてよ。宗介と答え合わせしても面白そうだし。可愛い女の子が霊媒師として出て来ると、リスナーも盛り上がんだよね!』
裕二は、ミラー越しに話すと加藤さんに、企画を持ち掛けたらしい。
言い忘れていたが、彼は僕と同じように関東エリアで就職した。
それが、気まぐれに始めた某動画サイトの配信で、爆発的に人気が出てしまい、今は脱サラして、人気オカルト系動画配信者として生活している。
自分もカメラを構えるが、スタッフとして二人も雇えているんだから、凄いよな。
ちなみにその爆発的にバズった動画というのは、廃墟巡りしながらの一発芸、なんて芸人顔負けのネタ動画だった。
その時に偶然撮影した映像に、霊が映りこんでいたらしく、リスナーの間で話題になり、それがSNSのインフルエンサーに拡散され、一躍オカルト界隈で有名になって、そのまま心霊動画配信者になったという流れだ。
その動画を、以前彼から見せて貰ったけど、いまいち霊が映っているかどうかは良く分からなかったので、僕は眉唾ものだと思っている。
この日も動画サイトで配信する為に、裕二は自分でもカメラを持ってきていたらしい。
『お、あれじゃね? 見えてきたーー』
そうこうしているうちに、廃村入口へと到着した。仮に廃村の奥に『神隠しの家』があったなら、その場に残っていたのに、と梨子は随分と後悔しているようだった。
廃村の入口に差し掛かった時、車のヘッドライトが古い日本家屋の一軒家を照らした。障壁は所々苔むしていて、比較的綺麗だと思われる壁に『この先、進むな。呪いの家』とスプレーで書かれており、ご丁寧に矢印までされていたので、直ぐにそこが噂の場所だと分かったようだ。
『分かりやすくて助かるわ~! 表札も成竹だし、ここで間違いねぇな。しっかし、廃村入って直ぐに神隠しの家発見しましただと、企画的に面白くねぇよな』
裕二がそう言って車を止めると、カメラを回し始める。達也、加藤さん、梨子、そして最後に裕二が車から降りる。
その直ぐあとに、車が停車すると裕二の会社の後輩だった、照明係の秋本宗介さんと、そして四十代後半のカメラマン兼プロデューサーである、本田芳雄さんが出て来た。本田さんは、過去に有名なオカルトDVDシリーズを手掛けた事もある人らしい。
『ここか。裕二くん、直ぐに見つけちゃったら、ちょっとインパクト欠けるかなぁ。素人っぽさは残し時たいから、ちょっとぶらっとしときたいね』
『裕二さん、ここ、冗談じゃなく本気で嫌な感じがしますよ。あの神隠しの家が特に……おぞましい感じがするんです。だから廃村巡りだけでも良く無いですか?』
カメラを準備する本田さんに、秋本さんが顔を強張らせて言った。
「私ね、霊感とか全く無いし感じた事も無いから、信じてない。そういうの、怖いから全く興味無いんだけど、あの家は凄く気持ち悪く感じた。絶対ここに入ったら駄目だって思ったんだ」
梨子は、お洒落なグラスに注がれたレモンティーに口を付けないまま、項垂れて話を続ける。傍目から見ても、彼女が、相当怖い思いをしたのだろうと言うのが伝わってきた。
僕は、怖がったり嫌がっている人を無理にそういう場所に連れて行くのは反対だ。
『確かにそれ、あるっすね。やっぱ引きが無いとさ。うちとこは他と違って、ドキュメント最怖心スポ巡りを売りにしてるし』
『じゃあ、探検しようぜ! おもろいじゃんね』
達也は梨子とは対照的に、その時はかなり乗り気だったらしい。
梨子は、動画に映るのは絶対に嫌だと断って、照明の秋本さんと共に歩く事にした。愛は、今回のゲスト枠の特別出演の霊感少女として裕二の後ろに控えていた。達也は、嘘の体験者として出演する事になったらしい。
梨子は一応その彼女として、声だけの出演と言う事で、渋々了承する。
「本当かどうか分からないけど、その村は、烏頭村と言って五十年ほど前に、廃村になったんだって本田さんは言ってたよ」
廃村らしく、そこそこ鳥頭村は荒れていたが、成竹さんの表札がある、神隠しの家だけは、そこまで荒らされている様子は無く、障壁の落書きだけが異様に際立っていて、気味が悪かったらしい。
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