処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判

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第一章

1.茶会への準備

翌朝。

メイドのマリアが部屋に入ってきたのは、まだ朝日も昇り切らない早い時間だった。

「エリオット様、お目覚めでございますか。本日はアレクシス殿下との茶会がございます」

カーテンが開けられる。
春の陽光が、レースの隙間から部屋に流れ込んできた。

とうとう茶会の日が来てしまった。

原作でエリオットは、この茶会で第二王子アレクシスの想い人、フェリクスの存在に感づく。

その後、嫉妬からフェリクスへ苛烈な嫌がらせを始めるが……

そもそもアレクシスに興味がない俺はそんなことはもちろんしない。

問題はエリオットがアレクシスへの毒殺未遂の罪で処刑されることだ。

たしか、夜会で毒を盛られて倒れたあと、一命をとりとめる。

そしてその後の調査でエリオットが犯人として逮捕され、毒殺未遂の罪で処刑という流れだった。

しかも毒殺未遂の犯人がエリオットではなかったことは、最後の方にさらっと書かれているだけで、真犯人が誰かも明かされない。

おそらくだけど、アレクシスとフェリクスのラブストーリーという設定上、エリオットは二人の当て馬として話を盛り上げたあとは邪魔になる。

だから処刑という形で話の都合上サクッと退場させられたんじゃないか……。


物語なら楽しめたけれど、自分がエリオットになった今、そんなことで死ぬのは御免だ。

アレクシスとフェリクスの邪魔をするつもりはない。

けれど第二王子の婚約者という立場でいる限り2人の物語に巻き込まれてしまう可能性がある。これは危険だ。

理想は婚約解消。
少なくともできる限り距離を取らなくては。

だからこそこの茶会で気は抜けない。


はあ。気が重い。
でもうまく交渉して、なんとしても冤罪&処刑の未来を変えなくては。


あれ――
もしかして
ふと頭に浮かぶ。

今日もガイウスに会えるのか……?
アレクシスの護衛をしているということは、今日の茶会にも、きっといるはず。
昨日会ったばかりだけど、今日も一目見られたらいいなあ……

ああ、まずい。

そんなことをのんきに考えている場合ではないのに。
集中しなくては。


「わかった。準備を」

返事をする。冷たく、短く。
悪役令息らしい口調で。


――いや、待て。


エリオットは、マリアを見た。
雇ったばかりの、新しいメイド。

原作のエリオットは高圧的で、メイドが長続きしなかった。

前のメイドたちは、エリオットの些細な機嫌で物を投げられたり、怒鳴られたりして、次々と辞めていった。

最低な主人、原作エリオット。
でも、俺は違う。

この体でやったことじゃないけど、この体の記憶はある。

責任も、ある。


「あの…マリア」

「はい、エリオット様」

マリアが、びくっと肩を震わせた。
怯えられている。

俺は、マリアの両手をとり、できる限りやさしく、目線を合わせてゆっくりと言った。

「今までの、私の態度について…謝罪したい」

「…え?」
マリアの目が、見開かれた。

「物を投げたり、怒鳴ったり。理不尽なことをたくさんしてきた。それについて、心から謝りたい。

本当に申し訳なかった。」


マリアは、ぽかんと口を開けている。


「これからは、もうそういうことはしない。もちろんすぐに信じてもらえるとは思っていない。ただこれからの態度を見ていてほしい。だから――もし良ければ、今後も私のメイドを続けてくれると嬉しい。」


「エリオット様…?」
マリアの声が震えている。


「このあいだ倒れてから、考え方が変わったんだ。今までの傍若無人な態度はよくないとやっと気づけた。人に優しくしたい、誠実になりたいと思うようになったんだ……」

嘘じゃない。
せっかく転生したこの世界で生きていくなら、周りの人を大切にしたい。

マリアは、しばらく何も言わなかった。

それから――

「…ありがとうございます」

小さく、でもはっきりと聞こえた。
目に、涙が浮かんでいる。


「頑張ります。エリオット様のお役に立てるよう」


エリオットは、微笑んだ。
「ありがとう、マリア」

マリアが恭しく頭を下げて、衣装の準備を始めた。その手つきが、少しだけ軽やかになった気がした。


きっとずっと怯えながら仕えてくれたのだろう。こんなに働き者で気の利くマリアになんてことを……まったくエリオットめ……


正直エリオットらしい言動を四六時中意識するのも限界だ。

少なくともマリアの前では素のままでも物語への影響はないだろう。たぶん。


マリアが退室した後、エリオットは鏡の前に立った。

深い青の上質さが一目でわかるな衣装。
胸元には銀の刺繍、ヴァンクレール家の紋章だ。

鏡に映るのは、完璧な令息。


「我ながら美しいな……。エリオットって性格さえまともなら傾国の美青年だよな……」

でも、中身は――ただの俺だ。

元平凡な会社員だった記憶があるせいでどうにもこの豪華な服がしっくりこない。

外見と中身にギャップがありすぎる。


深呼吸をする。落ち着け。俺はエリオットだ。

冷静に……ボロが出ないようにしなければ。

感想 2

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