余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

文字の大きさ
164 / 222
連載

価値観の違い


 休日は米をしっかり堪能し、学園生活がまた始まる。
 特に約束がある訳でもないが、いつもの顔ぶれが朝昼夕と集まる温室。部活動がなければ、自然と顔を合わせることになるのだ。

「エリシア! あのお米がもっと欲しいんだ! 多ければ多いだけ良い! 輸送とか一切合財の経費も請求していいから、売ってくれないか?」

「え、シン。本気? あんなもの、本当に食べるの?」

 実はエリシアは米が嫌いである。籾を剥いた後のビジュアルが虫の卵っぽくて嫌いなのである。特に寺領で採れる米は丸みがあるので、一層それっぽい。
 騎獣をはじめとする動物は好きだが、虫は苦手なものが多い。
 それを欲しがるシンの心が分からない。エリシアの中では、あれは家畜の食べるゲテモノだった。

「うん、食べる。あれは僕の故郷の味に一番近いんだ」

 どこまでも澄んだ瞳で言い切ったシンに、エリシアはどきりとする。
 真面目な顔をして言っているが、シンはどこまでも食欲に取り憑かれているだけである。長らく再開できなかった米の味に、完全に我を忘れている。
 
「あんな不味いモノが……」

「まずくなーい! ほら、おにぎり持ってきたんだ。エリシアの領地で採れた米だよ」

 そう言って、シンが差し出したのは塩むすび。どんな具がいいか迷ったが、定番の梅干しは強い塩味と酸味で好き嫌いが分かれやすい。そもそも持っていない。おかか、昆布、鮭、ツナマヨなども同様だ。
 結果、手元にあるもので好き嫌い関係がない塩に落ち着いた。
 だが、それが良くなかった。米=虫の卵に似ているという先入観を持つエリシアには、塩むすびが卵の塊に見えてしまう。
 米の良さを知ってほしいシンと、苦手なものにビジュアルがそっくりな食べ物(推定)を突き付けられたエリシア。
 その場の空気が、一瞬固まる。

「おお! これが例の米料理でござるかー! パッと見たところ米を固めただけのように見えるでござるな。某もいただいても?」

 ひょっこりと顔を出したカミーユが、涎を垂らさんばかりに残りの塩むすびを見ている。

「一人一個ね」

 シンは米を布教するため、もともといつもの面子分は作ってあった。
 昼食とは別で、塩むすび五つ作っていた。自分の分も欲しかったので、ちゃっかり頭数に入れている。

「やったでござる~! いっただきまーす!」

 シンからお許しを得たカミーユは、笑顔で塩むすびに手を伸ばし、躊躇いなくかぶりつく。
 カミーユほど前のめりではなかったが、シンの故郷の味に興味があったレニとビャクヤも続いた。

「おお! もっちり? むちっと? 柔らかさと弾力が違うでござるな! ちょっと濃い目の塩味が米を引き立てているでござる! 噛んでいるとどんどん甘くなるでござるな―!」

 若い十代の体は、いつだって栄養を求めている。カミーユはちょっと変わった穀物だろうが、食べ物なら気にしないガバガバな判定をしていた。
 部活やタニキ村でシンの料理にあやかっていたので、彼の味覚を信頼していた。
 信頼や信用なんて言えば聞こえはいいがそれは別名『餌付け』という。

「あ、本当ですね。普段食べている米とだいぶ違います。こちらのほうが味や香りも強いような気がします」

「この米は存在感があるんやな。しかも粘りがあるから、形も作れるっちゅーわけや。これなこっちのほうがお稲荷さんも作りやすそうやな」

 レニとビャクヤも、うなずきながら塩むすびを堪能する。
 三人からはおおむね好評である。その好感触に、シンは満足そうに自分も塩むすびを食べる。
 一方、目の前で四人が一気に食べ始めたので、ますます拒否しにくくなったのはエリシアだ。
 食べなくてはと思っているけれど、やはりエリシアの目には虫の卵の塊に見えてしまう。

(でも、シンがわざわざ用意してくれたのを無下になんて……もう! しょーがない!)

 外見が苦手なら、見なければいい。まぶたを強く閉じて、エリシアは塩むすびを口にした。

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

『彼を解放して!』とおっしゃいましたが、何から解放されたいのですか?

シエル
恋愛
「彼を解放してください!」 友人たちと教室に戻ろうとしていると、突如、知らない令嬢に呼び止められました。 「どなたかしら?」 なぜ、先ほどから私が問いかける度に驚いているのでしょう? まるで「え!?私のこと知らないの!?」と言わんばかりですけれど、知りませんよ? どうやら、『彼』とは私の婚約者のことのようです。 「解放して」とおっしゃっいましたが、私の目には何かに囚われているようには見えないのですが? ※ 中世ヨーロッパモデルの架空の世界 ※ ご都合主義です。 ※ 誤字、脱字、文章がおかしい箇所は気付いた際に修正しております。