165 / 222
連載
エリシアの本心
不思議な柔らかさ。ふんわりとは違う、粘りのある弾力。素朴な味が口に広がり、エリシアはようやくこれが食べ物だと認識できた。
「い、意外と美味しいじゃない」
実際に口にすれば、虫の卵じゃないと分かる。
柔らかくて、ほのかに甘い。これが米なのかと首を傾げてしまうエリシアである。
エリシアの知っている米は妙に臭くべちゃべちゃと口の中に張り付いて広がるのに、芯が残る絶妙に硬くて不快な食感だった。
こんなに食べ物らしいものじゃなかったはずである。
シンから貰ったおにぎりは噛むのも飲み込むのも苦痛じゃない。
(……これなら普通に食用として使えるわ)
ティンパイン王国の主食は小麦。エリシアの実家であるマルチーズ領もそうだ。
しかし、湿地が多く小麦が育ちづらい土地なので、生産量に対して需要が賄えない。他の領地から購入するしかなかった。
今まで、食用にならない米は飼料として売っていたが、飼料と食用は同じ重さでも金額が大きく違う。何倍もの量を作らなければ生活が立ち行かない。
マルチーズ領はそれなりに広さがあっても、裕福ではなかった。
(米が食べられるなら、うちの貧乏もマシになるかも)
エリシアの婚活が上手くいかない原因の一つである、実家の微妙に低迷した経済状況。
以前は容姿も大きな障壁だった。太った外見や肌荒れがコンプレックスだったけれど、シンのアドバイス通り、やけ食い癖をクッキーから白マンドレイクに置き換え、水分量を増やしたら一気に変わった。同時進行で、エリシアが乗馬にはまったのも大きい。
(でも、うちの頑固なお父様やお兄様が、私のアドバイスを素直に聞くかしら?)
女は顔と愛嬌、勉学は二の次だと思っている時代遅れな連中だ。そんな彼らがエリシアの学園入学を許可したのは、婚活のためだ。
見目のイマイチなエリシアの縁談をまとめるため、同じ年頃の貴族が多く集う学園はうってつけだった。
エリシアとしても、近隣で良い相手がいなかったので同意した。
今では乗馬が楽しくて仕方がないので、続けるためにも条件を色々考えている。痩せてから、男性側の態度も明らかに変わった。それにエリシアは優秀な生徒だ。下手な安売りは、却って危険だと思い始めている。
正直、親や兄のように理想の淑女像を勝手に押し付けてくる相手はろくでなしが多いのだ。
エリシアはおにぎりのあった手を見下ろし、横目でそっとシンを見る。
(シンが男爵家……ううん、商家や騎士の家でもいい。財力か由緒ある家柄だったら)
そこまで考えて、首を振った。シンはドーベルマン伯爵家に目をかけられているとはいえ、平民の少年だ。家族は認めてくれないだろう。
駆け落ちをする勇気がエリシアにはない。そもそも、シンがエリシアを友人としてしか見ていないのは分かっている。
結構毒舌でドライな性格なのに、妙に面倒見が良い。仲間には優しい人だから、友人も多い。
今、温室に集まって彼らだけでなく、錬金術部にも寮の中にも友人がいると会話から察せる。
「どうしたの、エリシア。さっきからずっと俯いているけど」
「ううん、なんでもない。そういえば、米が欲しいのよね。どれくらいあればいい?」
「あればあるだけいい。実はマジックバッグがあるし、入らなかったら倉庫とか借りるから。輸送費とか諸費用全部請求していいから」
思ったより大きく出てきたので、セシリアは慌てる。だが、シンは揺るがずに話を進めようとしている。
「そんなお金、どこにあるのよ?」
「一山当てたから。冒険者業でも結構稼いでるし」
問題ないとシンは断言する。事実、シンは化粧水や美容液などのレシピでかなり収入があった。
慎重派のシンが断言するくらいだからそれなりの資金があると、何も知らないエリシアも信用してしまいそうになる。だが、彼はまだ十代の学生だと思い直そうとした。
「エリシアちゃん。シン君、マジで金持ってんで。心配あらへん」
動揺しているエリシアを後ろから打つような発言をしたのは、ビャクヤだった。
指についた米粒を舐め取りながら、服についていないか確認している。エリシアのほうなんて見ていない。彼女の混乱した様子に気づいていなかった。
エリシアは一縷の望みを見つけてしまったかもしれないのだ。
「い、いっぱいきても知らないからね!」
とりあえず意地っ張りに言い返すのが精一杯のエリシアである。
「い、意外と美味しいじゃない」
実際に口にすれば、虫の卵じゃないと分かる。
柔らかくて、ほのかに甘い。これが米なのかと首を傾げてしまうエリシアである。
エリシアの知っている米は妙に臭くべちゃべちゃと口の中に張り付いて広がるのに、芯が残る絶妙に硬くて不快な食感だった。
こんなに食べ物らしいものじゃなかったはずである。
シンから貰ったおにぎりは噛むのも飲み込むのも苦痛じゃない。
(……これなら普通に食用として使えるわ)
ティンパイン王国の主食は小麦。エリシアの実家であるマルチーズ領もそうだ。
しかし、湿地が多く小麦が育ちづらい土地なので、生産量に対して需要が賄えない。他の領地から購入するしかなかった。
今まで、食用にならない米は飼料として売っていたが、飼料と食用は同じ重さでも金額が大きく違う。何倍もの量を作らなければ生活が立ち行かない。
マルチーズ領はそれなりに広さがあっても、裕福ではなかった。
(米が食べられるなら、うちの貧乏もマシになるかも)
エリシアの婚活が上手くいかない原因の一つである、実家の微妙に低迷した経済状況。
以前は容姿も大きな障壁だった。太った外見や肌荒れがコンプレックスだったけれど、シンのアドバイス通り、やけ食い癖をクッキーから白マンドレイクに置き換え、水分量を増やしたら一気に変わった。同時進行で、エリシアが乗馬にはまったのも大きい。
(でも、うちの頑固なお父様やお兄様が、私のアドバイスを素直に聞くかしら?)
女は顔と愛嬌、勉学は二の次だと思っている時代遅れな連中だ。そんな彼らがエリシアの学園入学を許可したのは、婚活のためだ。
見目のイマイチなエリシアの縁談をまとめるため、同じ年頃の貴族が多く集う学園はうってつけだった。
エリシアとしても、近隣で良い相手がいなかったので同意した。
今では乗馬が楽しくて仕方がないので、続けるためにも条件を色々考えている。痩せてから、男性側の態度も明らかに変わった。それにエリシアは優秀な生徒だ。下手な安売りは、却って危険だと思い始めている。
正直、親や兄のように理想の淑女像を勝手に押し付けてくる相手はろくでなしが多いのだ。
エリシアはおにぎりのあった手を見下ろし、横目でそっとシンを見る。
(シンが男爵家……ううん、商家や騎士の家でもいい。財力か由緒ある家柄だったら)
そこまで考えて、首を振った。シンはドーベルマン伯爵家に目をかけられているとはいえ、平民の少年だ。家族は認めてくれないだろう。
駆け落ちをする勇気がエリシアにはない。そもそも、シンがエリシアを友人としてしか見ていないのは分かっている。
結構毒舌でドライな性格なのに、妙に面倒見が良い。仲間には優しい人だから、友人も多い。
今、温室に集まって彼らだけでなく、錬金術部にも寮の中にも友人がいると会話から察せる。
「どうしたの、エリシア。さっきからずっと俯いているけど」
「ううん、なんでもない。そういえば、米が欲しいのよね。どれくらいあればいい?」
「あればあるだけいい。実はマジックバッグがあるし、入らなかったら倉庫とか借りるから。輸送費とか諸費用全部請求していいから」
思ったより大きく出てきたので、セシリアは慌てる。だが、シンは揺るがずに話を進めようとしている。
「そんなお金、どこにあるのよ?」
「一山当てたから。冒険者業でも結構稼いでるし」
問題ないとシンは断言する。事実、シンは化粧水や美容液などのレシピでかなり収入があった。
慎重派のシンが断言するくらいだからそれなりの資金があると、何も知らないエリシアも信用してしまいそうになる。だが、彼はまだ十代の学生だと思い直そうとした。
「エリシアちゃん。シン君、マジで金持ってんで。心配あらへん」
動揺しているエリシアを後ろから打つような発言をしたのは、ビャクヤだった。
指についた米粒を舐め取りながら、服についていないか確認している。エリシアのほうなんて見ていない。彼女の混乱した様子に気づいていなかった。
エリシアは一縷の望みを見つけてしまったかもしれないのだ。
「い、いっぱいきても知らないからね!」
とりあえず意地っ張りに言い返すのが精一杯のエリシアである。
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。