167 / 222
連載
二人の神子
しおりを挟む
真実を知るカミーユであるが、言えるはずもない。自分の友人兼部活仲間が国の内外から血眼で探されている超絶加護持ちの神子様だなんて、口が裂けても言えない。
せっかくの就職先がパーだし、友情も木っ端みじんになる。
(しかし、見事に対比になってるでござるな)
女子生徒のほうは、周囲に担ぎ上げられた感がするが、男子生徒は自ら先導している雰囲気がある。
加護の有無を見抜く力などカミーユにはない。そういった特殊な技能持ちは、力が強ければ強いほど神殿や国が独占をしているから、早々お目にかかれるものではない。
「水色の髪の男子生徒がマイルズ・コールマン男爵令息。赤みのあるブルネットの女子生徒がラミィ・ロックベルさんよ」
コールマンということは、ティンパイン貴族ではないのだろうか。ティンパイン貴族は動物に関係する家名が付くことが多い。
「コールマン男爵はあまり聞かない名でござ……ですが、他国留学生ですか?」
あやうくいつものござるが出るところだったカミーユは、慌てて咳払いで誤魔化した。
女性生徒たちは気にした様子もなく、噂の相手が気になるのか口を開く。きっと、話したくてうずうずしていたのだろう。
「いいえ、コールマン男爵は新興貴族ですよ」
「もとは商家だったそうだけど、爵位を買ったそうよ。先々代だから、彼が三代目だったかしら」
「特別な功績が認められたわけじゃないし、婚姻によって得た爵位ではないから普通の家名なのよね」
動物由来の家名は、ティンパインでは一種の格の一つである。
その家が興された時は注目されるが、後世に引き継がれるにつれて恒常化して忘れられがちだが、意味があるのだ。
カミーユに教えてくれた女子生徒の声は、特別大きくなかった。だが、家名の話題になった途端、マイルズがこちらを見て睨んできた。
(家名にコンプレックスがあるタイプでござるか……)
面倒なタイプである。貴族は虚勢を張ってなんぼなところもあるが、度が過ぎるプライドは足を引っ張る。
カミーユだって、元侯爵家の一員だ。貴族の見栄っ張りなところは知っているし、父親がそういう人間だった。
そんなもので腹が満たされるわけではないし、トラブルになりやすい。カミーユにはあまり共感できない心理だし、できれば関わりたくない。
だが、この手の噂をしているのはカミーユに教えてくれた女子生徒だけではない。似たような会話が周囲のいたるところで行われている。家名のことが出るたびに、マイルズは首を振り回す勢いで睨みつけている。
マイルズの視線がこちらに留まらないうちに、女子生徒にお礼を言って素早く退散する。
「なんやった?」
「学園の生徒に『神子様』かもしれない生徒がいるでござる。マイルズ・コールマンとラミィ・ロックベルの二人を巡って、派閥争いっぽいものが起こっているようでござるよ」
その場に沈黙が下りる。
どっちも偽物だと知っている面子にしてみれば、心底関わりたくない類だ。藪蛇だったらたまらない。
(シン殿は無視するでござろうな。神子だと言い張っているのは赤の他人でござる。事実がバレて空気は悪くなっても、本人たちの自業自得としかいえないのでござる)
ラミィのほうは大人しそうだが、マイルズは気も強ければ、我も強そうだ。こちら側から特にアクションを起こさなくても、自爆するだろう。
彼らのきっかけは些細な嘘や誤解だったかもしれないけれど、これだけ周囲を巻き込んでいるとなれば何事もなく収束とはいかないだろう。
平民たちの噂話で終われば良かったものの、貴族や王族も通っている学園で広まってしまったのだから。
せっかくの就職先がパーだし、友情も木っ端みじんになる。
(しかし、見事に対比になってるでござるな)
女子生徒のほうは、周囲に担ぎ上げられた感がするが、男子生徒は自ら先導している雰囲気がある。
加護の有無を見抜く力などカミーユにはない。そういった特殊な技能持ちは、力が強ければ強いほど神殿や国が独占をしているから、早々お目にかかれるものではない。
「水色の髪の男子生徒がマイルズ・コールマン男爵令息。赤みのあるブルネットの女子生徒がラミィ・ロックベルさんよ」
コールマンということは、ティンパイン貴族ではないのだろうか。ティンパイン貴族は動物に関係する家名が付くことが多い。
「コールマン男爵はあまり聞かない名でござ……ですが、他国留学生ですか?」
あやうくいつものござるが出るところだったカミーユは、慌てて咳払いで誤魔化した。
女性生徒たちは気にした様子もなく、噂の相手が気になるのか口を開く。きっと、話したくてうずうずしていたのだろう。
「いいえ、コールマン男爵は新興貴族ですよ」
「もとは商家だったそうだけど、爵位を買ったそうよ。先々代だから、彼が三代目だったかしら」
「特別な功績が認められたわけじゃないし、婚姻によって得た爵位ではないから普通の家名なのよね」
動物由来の家名は、ティンパインでは一種の格の一つである。
その家が興された時は注目されるが、後世に引き継がれるにつれて恒常化して忘れられがちだが、意味があるのだ。
カミーユに教えてくれた女子生徒の声は、特別大きくなかった。だが、家名の話題になった途端、マイルズがこちらを見て睨んできた。
(家名にコンプレックスがあるタイプでござるか……)
面倒なタイプである。貴族は虚勢を張ってなんぼなところもあるが、度が過ぎるプライドは足を引っ張る。
カミーユだって、元侯爵家の一員だ。貴族の見栄っ張りなところは知っているし、父親がそういう人間だった。
そんなもので腹が満たされるわけではないし、トラブルになりやすい。カミーユにはあまり共感できない心理だし、できれば関わりたくない。
だが、この手の噂をしているのはカミーユに教えてくれた女子生徒だけではない。似たような会話が周囲のいたるところで行われている。家名のことが出るたびに、マイルズは首を振り回す勢いで睨みつけている。
マイルズの視線がこちらに留まらないうちに、女子生徒にお礼を言って素早く退散する。
「なんやった?」
「学園の生徒に『神子様』かもしれない生徒がいるでござる。マイルズ・コールマンとラミィ・ロックベルの二人を巡って、派閥争いっぽいものが起こっているようでござるよ」
その場に沈黙が下りる。
どっちも偽物だと知っている面子にしてみれば、心底関わりたくない類だ。藪蛇だったらたまらない。
(シン殿は無視するでござろうな。神子だと言い張っているのは赤の他人でござる。事実がバレて空気は悪くなっても、本人たちの自業自得としかいえないのでござる)
ラミィのほうは大人しそうだが、マイルズは気も強ければ、我も強そうだ。こちら側から特にアクションを起こさなくても、自爆するだろう。
彼らのきっかけは些細な嘘や誤解だったかもしれないけれど、これだけ周囲を巻き込んでいるとなれば何事もなく収束とはいかないだろう。
平民たちの噂話で終われば良かったものの、貴族や王族も通っている学園で広まってしまったのだから。
5,698
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
姉妹差別の末路
京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します!
妹嫌悪。ゆるゆる設定
※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。