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連載
遂にお米、到着
あれから一週間後、エリシアの兄はようやく王都についた。
その荷物と一緒に運ばれてきた米もだ。シンは待ちに待っていたが、それはエリシアも同じである。友人からの頼まれごとを失敗したくないと、責任感を感じていた。
「あっちこっちの領主に挨拶しながらダラダラ来ていたみたい。直行できなさいって話よね。もしくは、遅くなる前提で予定日を伝えて欲しいわ」
エリシアの怒りはごもっともである。
米は多めに頼んだが、個人消費と知って大袋に一つだけらしい。折角あるスキルもマジックバッグも、やりがいのない量にがっかりしてしまいそうである。
「せっかく待ってくれていたのに、ごめんなさい。芋と豆を仕入れて、それで一杯みたい。新しい農作物として領地に広めたいようね」
「じゃあ、現金でさっさと渡そうか」
エリシアは謝るが、彼女の意思ではどうにもならないことなのだろう。
たくさん持ってきてほしいと伝えてくれてはいたようだが、相手はそれを軽く受け止めて、別のことを優先させた。
理不尽なようだが、シンはずっと付き合いのある商売相手でもないから仕方のないこと。
付き合いのある高貴な人たちが、親切にしてくれることが多いので忘れがちだが、平民と貴族は平等ではないのだ。
(長期休みにエリシアの実家に寄ってみるとか? そこなら買付し放題だろうし)
タニキ村に帰るのは少し遅れてしまうけれど、それでも恋しい白米の味。
狐の獣人ビャクヤは、お揚げに執着している。その原料である大豆にもご執心だ。夏休み前はその熱意に呆れていたが、馬鹿にできない。故郷の味は、人をこうも積極的にさせるのだ。
幸い美容系レシピのマージンで、シンの懐は温かい。米のためなら、財布のひもを緩めるどころか引きちぎれた。
「悪いけど、今日の放課後に一緒に来てくれる? 宿にいるから、積み荷を渡したいって」
「うん、いいよ」
エリシアの兄なんて、今後そう深くかかわる相手でもない。シンは軽い気持ちでOKした。
ただ、その時のエリシアが微妙な顔をしていた。まるで嫌いな医者にでもかからなければいけないような顔。やらなくてはいけないけれど、気が向かない。そんな表情だ。
(エリシア、最近よく悩んでいるよな。あっちにも事情があるだろうから、無理に聞き出すのは悪いよな)
好奇心で首を突っ込んでいい話ではない。婚約者探しは結構デリケートな話題だと思うし、シンに助力できることはない。
平民のシンに、貴族の人間関係は分からない。知り合いは少しいるが、神子関連も絡んでくるから、隠しながらというのは難しいだろう。
レニたちにも聞いてみたが、同性で一番仲の良さそうなレニにも相談していないようだ。
まだ誰にも話したくない、もしくは話せるほど自分の中で整理がついていないのかもしれない。
もやもやとした思いを胸にしまいつつ、放課後はエリシアと共に宿に向かう。貴族用の高級宿泊街は、平民向けとは違う場所にあるので、初めて向かう場所だ。
「ここよ。玄関口の脇にあるロビーにいればいいんだけど」
玄関口に広間と廊下が併設されている。宿泊施設によくある造りだ。チェックインやチェックアウトをする間、待つのに便利だ。
貴族向けだからか、入り口には見張りのような兵が立っていた。
ちらりとシンたちを見たが、学園の制服だからか何も言われない。貴族も多く通う学園だからか、不審に思わなかったのだろう。
エリシアは入ってすぐロビーを見渡すが、目当ての人物はいなかったらしい。
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