余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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手紙の攻防

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 それから、トントン拍子に話が進んでいった。
 ジーニーの動きも速く、ミリアの情報網にもすぐに引っ掛かり警告が入ったこともあり、マラミュート公爵の腰もすぐに上がった。
 最初は腐れた貴族の慰み者になるのかと泣いていたエリシアは、本物のマラミュート公爵から屋敷に招待された。そして、マラミュート公爵家の生き恥の狼藉を詫びられ、やらかした馬鹿を泳がせるために、少しだけ我慢してほしいと頼まれた。
 今回のことを広めなければ、色々と融通すると言われれば頷くしかない。
 相手は爵位が上だし、それ以上に勢力としては圧倒的だ。庇護を受けられ、コネも作れるとなれば悪い話ではない


「……生き恥ジジイが私にすごく会いたがっているの」

「お、おおぅ……頑張れ」

「ぎりぎりまで焦らして,先延ばしにするつもりだけどね。マラミュート公爵とご令嬢から、現行犯で捕まえたいから泳がせているけれど、そうでなかったら我慢できなかった。手紙からしてもう、酷いのよ……セクのハラとかモラのハラが臭い立って仕方がないの」

 ちなみに、その呪物より精神汚染を食らわせてくる手紙は、エリシアの目に入るものの右から左へマラミュート公爵家の手に渡っている。証拠として集められているのだ。
 エリシアが目を通すのは、返事を書かなくてはいけないから。話題にずれが起きないようにとのことだが、その必要がないくらい定型の文でしか返していない。
 ストレスを感じているのか、親の仇のようにマンドレイクスティックを食べている。白マンドレイクを細長く切っただけだが、食感と優しい甘みが美味しい。だが、ここまでやけ食いしているのは久々だ。
作戦は秘密裏に行われているので、エリシアは事情を知っているシンにしか愚痴れない。ジーニーには恐れ多く、兄のセブランはエリシアに会いたがるロリコン対応に苦心している。それどころではない状況。
 エリシアは愚痴れるくらいには心にゆとりがあった。
 じらしてじらして、ロリコンが釣れるまで待つ。相手も本家マラミュートに気づかれたくないのか、やたら輿入れを急かし、エリシアを王都の外に連れ出そうとしている。

「しかし……セブラン様もどうしてそんなロリコンを公爵だなんて信じちゃったのさ」

「マラミュート家の紋章を持っていたのよ。実家からこっそり盗んだみたい。
 面識あれば気づけただろうけれど、うちみたいな田舎貴族が王都で活躍する公爵閣下のお顔を間近で見る機会なんてそうそうないの。それに、うちは貴族としては貧乏だから王都の社交シーズンでも、顔を出せる場所は限られているし」

 セブランの混乱にもつけ込んだのだろう。
 そういえば、シンもドーベルマン伯爵家の紋章を持っている。
 一度、高級騎獣であるデュラハンギャロップのグラスゴーは、泥棒に遭った。前々から騎獣泥棒が噂されていたため、その時に防護策としていただいたものだ。
 泥棒だって、貴族の馬より平民の馬のほうがローリスクで狙いやすい。

(あれはあのまま取っといていいって言われているけれど、一種のご印籠だしな)

 ちらりとエリシアを見る。部活には参加しているが、遠乗りには行けないのも彼女にとっては不満の一つなのだろう。
 彼女の身柄そのものが狙われているため、学園内からなるべく出ないようにと言われている。
 学園は王侯貴族が通うので、当然警備は万全だ。貴族に詳しい人もいる。例のロリコンはそれを知っているからか、学園内にいるエリシアには会いに来ようとはしない。
 馬鹿なことをする割には、そういうことに気づくのだ。絶妙なせこさを感じる。

(何はともあれ、エリシアの件はジーニー先輩に任せれば良さそうだな)

 ミリアから来た手紙には、ちょっと残念がっている気配があった。
 シンのために頑張るぞとやる気に満ちていたが、ミリアより理由があるマラミュート公爵家が動いているので、静観している。
 そんなミリアには、新作の化粧水と入浴剤を贈っておいた。温室で栽培したハーブが再活躍した品である。黒マンドレイクでも試してみたかったが、あまり数を増やせていない。材料にするのは心もとないので、今回は見送った。
 なんだかんだでトラブルはなく学園生活は平和――とはいかなかった。
 シンが一人で校内を移動していると、何か諍いの気配を感じる。
 先日、神子騒動を起こしていた二人が、再び人垣を作って騒ぎを起こしていたのだ。
 引き連れている取り巻きはさらに人数を増やしている。相変わらずラミィは困惑していて、護衛のように立つ生徒の後ろに隠れている。
 一方、マイルズは先頭に立つように一番前に出て、腕組みをしてラミィ派閥を睨んでいた。
 敷地の広い学園でも、何度か似たような光景は見ていた。シンも暇ではないので、基本的には迂回して避けることが多かった。今回は一段と険悪そうである。

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