余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

文字の大きさ
180 / 222
連載

偽神子たちの対立


「いつも思うが、ロックベル嬢。君はいつも友人とやらの陰に隠れているが、自分で何も言えないのか?」

 マイルズは敵意を隠そうとしない。皮肉る口調に、彼の派閥の生徒たちは賛同するように嘲りが広がる。
 それに厳しく睨み返すラミィ派閥だが、ラミィ本人はますます俯いて何も言わない。
 当人たちは本気で争っているつもりかもしれないが、周囲の人垣の半分以上は、面白半分にこの状況を見ているのだろう。
 意地の悪い行動にも見えるが、本来神子の話題はデリケートな問題。王家も絡むので、ノータッチにするべきなのだ。こんな問題を起こすほうがおかしい。
 どちらかの派閥に加わってしまった時点で、親から叱責が飛ぶ可能性が高い。貴族なら家ごとその派閥に巻き込まれる可能性があるし、平民だった場合は後見人に見放されて退学になるかもしれない。

(……って、レニは言っていたけど、この偽神子派閥たちはしょっちゅうケンカしているよな)

 この学園にはティンパイン王家の人間がいない。
 唯一在学扱いのティルレインは、療養の関係で在席はしているが通学はしていない。色々複雑な事情があるので、割愛する。
 神子はティンパインの王家にしか正体を知らされていない――ということになっている。貴族にはお披露目はあったが、多くの護衛がいる状態での交流。限られた時間でできるのは、手短な挨拶のみ。
 その時の神子は長いヴェールを顔に降ろして年齢及び性別、本名出身地もすべて不明。厳重に秘匿されている。
 万が一にも誘拐されないようにとの警戒もあるのだろう。
 お披露目直後に、テイランの王妃が魅了のスキルで操った者たちを押しかけさせた前例もある。
 あれ以来、神子の姿は一般公開されていない。
 その厳重な情報封鎖もあり、神子の噂は独り歩きしていた。僅かな情報が想像と妄想でこねくり回され、色々な話になっている。
 そんな状況だから、マイルズとラミィも神子の振りができている。
 学園中の誰も正体を知らないから、僅かな可能性を否定できない。嘘でもその虚勢で利益を得られると踏んでいる者もいるだろう。

(そういえば神殿では加護が分かるんだよな)

 シンの記憶の菫色の長髪と瞳を持つ神官が呼び起こされる。加護察知犬のような能力を持った神官アイザック・カイデンスキーは変態だった。猫吸いよろしくに体臭を嗅がれたのはトラウマだが、かなり稀少な能力だ。
 ああいう芸当のできる者がここにきてしまえば、偽神子らは一発アウトだろう。
 マイルズとラミィ本人は自分が神子でない自覚はあるはずだ。嘘でも誰かに持て囃されたかったのだろうか。虚栄心を満たすために愚行に及ぶ人間はどこの世界でもいるのかもしれない。嫌な共通点だ。

(関わらんでおこう)

 目に見える地雷(時限爆弾機能付き)である。
 その場から逃げるように立ち去るのだった。


あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。