余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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教師たちの決断

 これはいよいよ、まずいかもしれない。
 偽神子派閥は予想以上に冷静じゃなかった。思い込みが激しく自分の擁護する神子(偽)を信じて疑っていない。周囲が自分の神子たちを冷遇する。神子と信じていないことに苛立って、だんだんと派閥の勧誘が乱暴になってきた。
 シンの予想通りに、事態は悪くなっていく。
 うかつにふらふら一人で歩いていると、派閥に目をつけられ、囲い込みをされる。その囲い込みは物理的でも囲い込みである。派閥の生徒で一人の生徒を助けを呼べない状況にして、派閥加入へ一筆書かせる。そういう脅しの圧力を用いた勧誘の仕方になってきた。
 本人は本意でないことが多い。でも、後で抜けたいと言っても許されない。派閥内でつまはじきにされ、でも離反されたら困るからと監視される。もはや怪しい宗教とやっていることが近い。
 どちらにも属していない生徒たちは、なるべく複数で行動して囲い込みから逃げようと対策をするようにした。
 運のよい生徒は、生徒会や先輩の上級貴族の介入があって逃げることもできた。

「同じ思想を持つ同士が集まるのは否定しないが、嫌がる生徒の勧誘は無視できない。今後、学園内で本人の意思に沿わない勧誘は自粛するように!」

 校内放送で、生徒会の代表でヴィクトルが宣言した。
 隣国トラッドラの第四王で、ティンパインに留学中である。王族だけあり、人前での演説には長けている。
 しかし、勧誘はなくならなかった。生徒会の見回りから避けるため、表立って強引な勧誘は減った。彼らの目がないところで行われるようになっただけだ。
 身分の高い生徒には強引な勧誘はできないが、下級貴族や平民は無理やり入れられてしまうことがあった。ついに耐え切れず、何人かの生徒やその友人たちが学園の相談窓口や、生徒会、信頼する教師に相談する事態に発展した。
 神子を主張する派閥が形成されつつあったことは、教師たちも認識していた。そして、それが偽物だということも。
 できれば生徒同士で解決するか、そのうち瓦解すると踏んで静観している間に、一気に事態は悪化。生徒会は基本、生徒の自主性を重んじる。教師もそうだったが今回は看過できない状況になっていた。
 健全な学び舎としての機能が失われつつある。これは懸念すべき事態だ。

「もはや放置はできません。解散させるべきでしょう」

 角刈りの黒髪に黒い瞳の二十代後半の男性教師。彼は元Aランク冒険者で、学園では騎士科の授業を主に担当しているブライアン・ティラノが低く発言した。その低い声音のように重い覚悟を感じさせた。

「だが、あのグループは部活でもない。学園内では実体がないのだ。学園や生徒会の圧力で解散させたら、中心人物たちも無事では済まない……それより問題なのは、当事者の生徒たちが納得しないことだ。何度でも繰り返しかねない」

 落ち着きと力強さのある赤銅の瞳と白髪交じりの黒髪をしたロマンスグレーはグレゴリオ・プテラ。魔法や錬金術関係の授業を主に担当し、一年の学年主任でもある。そうしたいのはやまやまだが、難しいのが現実だ。
 トラブルの原因である生徒たちは、それぞれの擁する神子が本物だと信じている。学園からの処分を不当だと思い、過激な行動に移りかねない。

「……これはもう、呼ぶしかありませんね」

 重々しく口を開いたのはコリンナ・カイデンスキー。淡い髪と瞳をしている。髪は上品に結い上げ、シニョンでまとめていた。六十を超えているが、いつもその背はぴんと伸ばされて凛とした佇まいだ。
 元王宮の筆頭侍女だった彼女は、学園で教養科を担当。多くの有能な侍女を輩出してきた。
 コリンナもこの学園に漂う不穏な空気を察知し、ついに覚悟を決めたのだ。

「加護があるか判別できる神官を招きましょう。私の個人的な伝手ですが、こちらに呼びます。これ以上、学園の平穏を脅かすことは許してはなりません」

 かつて王族すら震え上がらせたコリンナの眼光に、否を唱えられる者はいなかった。


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