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8巻
8-1
しおりを挟むプロローグ
ブラック企業の社員だった相良真一はある日、異世界で行われた勇者召喚の儀式に巻き込まれて、乗っていたバスごと異世界転移した。
何故か若返って子供の体になって召喚されたが、テイラン王国が求めていた能力を持たない〝ハズレ異世界人〟として追い出されてしまう。
それから彼は冒険者としてお金を貯めて、何かとキナ臭いテイランから脱出。流れ流れてティンパイン王国の山間にあるタニキ村に辿り着いた。
現在は王都のティンパイン国立学園で学びつつ、ティンパイン公式神子の身分を隠して楽しいスローライフや第二の青春を謳歌している。
そんな相良真一改めシンは、現在危機に直面していた。
――制服が! キツイ!
夏休みをタニキ村で過ごしたシンだったが、久々に袖を通した制服がキツくなっていたのだ。
成長期とは時に残酷なものである。
そんなわけで、シンは制服の仕立て+そのための資金稼ぎをするべく、夏休みもそこそこに王都エルビアへ向かうのだった。
シンと共にタニキ村に来ていた友人のカミーユとビャクヤも制服がきつくなっており、一緒に王都に行くことになった。
カミーユとビャクヤは騎士科の生徒で、普通科のシンとは違う学科だが、二人はシンの護衛をする聖騎士(見習い)になったので、その意味でも彼らが同行するのは正しい。
カミーユの本名はカミーユ・サナダ・ヒノモト。
すっきりと整った顔立ちの美少年で、薄青の瞳と紺色の髪のポニーテールがトレードマークだ。独特な〝ござる言葉〟を隠すために学園では無口でクールを装っているが、最近は疎かになっており、ぼろを出しまくっている。
テイラン王国のヒノモト侯爵家の出身だが、後継者としては下の下で、扱いは最悪。
戦神バロスの失墜による天罰で先行きが怪しくなったテイランの情勢もあって、彼は留学と称して母と共にティンパイン王国まで脱出してきた。
ちなみに、現在はヒノモト家とは縁を切っている。
狐の獣人であるビャクヤ・ナインテイルも、同じくテイラン王国出身だ。
カミーユとは方向性の違うエキゾチックな美少年で、金の瞳と毛先に行くにつれて深紅になる金髪を持つ。中でも特徴的なのは、やはり大きな狐耳と〝マロ眉〟だ。
テイラン王国では獣人の扱いは悪く、彼も自国で苦労していた。それを見返すために学園に来たのだが――ぶっちゃけ、天罰のせいでテイランはすでに実質崩壊状態にある。
苦学生ゆえ、今は復讐よりも現実的な金銭問題や学業で忙しい。
制服問題で王都へ行く三人には、他にも同行者がいた。
ティンパイン王国第三王子ティルレイン・エヴァンジェリン・バルザーヤ・ティンパインと、そのお付きの者たちである。
ティルレインは白銀の髪に、紫を帯びた深い藍色の瞳のイケメンだが、年下のシンを親友と公言するストーカー気味の残念殿下だ。
彼は学生である三人とは違って、シンプルに置いていかれたくないという理由で引っ付いてきている。
それに巻き込まれる侍従のルクスや、護衛の騎士たちは慣れっこだった。むしろ、シンがいればしっかり躾けつつ王子を監視してくれるので、楽なくらいだ。
王都への道中は平和なものだった。
街道沿いは魔物が少ない。時折出てくる魔物は、シンたちと護衛の騎士が協力して退治した。
倒した魔物は騎士たちには不要なので、シンたちが引き取っている。冒険者ギルドで換金し、今後の足しにするのだ。
移動中は基本的に村や街に宿泊していたが、そうはいかない時もある。
そんな時でもシンはティンパイン公式神子なので、幌を大きく張って荷馬車に偽装した上等な馬車を優先的に割り当てられた。
カミーユやビャクヤもそこで一緒に寝ていた。
二人は歳も近く、同性なので気兼ねしなくていい。
たまにビャクヤがカミーユの寝相の悪さに耐えかねて蹴り出すことはあったものの、おおむね問題なく過ごせる。
そんな三人を羨ましそうに見つめるのはティルレインだ。
我慢できずに三人の寝床に押し入ることもあって、ギャーギャーと騒ぐ若者を、騎士たちが「青春だなぁ」と眺める。
ご機嫌な馬鹿プリンスと、その愚行に静かに怒りを燃やす神子。王子の侍従ルクスと、神子の聖騎士であるアンジェリカは、その間でおろおろする。
そんなこんなで、一行は王都に着いたのであった。
第一章 ちょっと懐かしい王都
「エルビア到着!」
王都エルビアの周囲にはぐるりと外壁が巡らされている。魔物や賊、侵略者から王都と民を守るための頑丈な壁だ。
出入りするには門に併設された検問所を通る必要があるので、馬車は一旦停止した。
シンたちの一行は大所帯だ。
数台の馬車で通るため、一応確認などの手続きで呼び止められたのだろう。
御者や護衛の騎士たちは、手慣れた様子で説明と手続きをしている。対応をする兵士もプロだ、サクサクと確認事項を済ませていく。
そんな中、馬車が停まったのをいいことに、ティルレインはイエーイとハイテンションで馬車から降りた。そして、当然のようにシンも降ろそうとする。
すぐに動き出すだろうし、余計なことをしない方がいいと判断したシンは、ティルレインをたしなめる。
「まだ検問の最中ですよ」
しかしティルレインは納得していないようで、しつこく誘う。
「外行こうよー! ちょっと城下を見て回って、そのあと王宮を案内するんだぞぅ!」
体格を見れば身長はティルレインが高いが、力があるのは小柄でも実力派冒険者のシンである。温室育ちのもやしプリンスがシンを動かすのは無理だった。
「いえ、その前に寄るところがあるので」
シンがいくら断っても、ティルレインは王城を案内したいと駄々をこねた。彼がウザ絡みするのはいつものことなので、カミーユもビャクヤも放置している。
自分たちの説得ではシンの正論パンチと毅然とした態度には敵わないと、経験上知っていた。
そこに、思いがけない人物がやってきた。
「あらまぁ、騒がしいと思ったらやっぱり殿下でしたのね。ご機嫌麗しゅう」
おっとりとした声と共に、冷ややかな空気が下りる。
癖のないホワイトブロンドに、悪戯っぽいオレンジ色の瞳。城壁より王城が似合う優雅なドレス。仕草、口調、佇まいの全てがエレガントで、まさにご令嬢という美人である。
ティルレインの婚約者ヴィーことヴィクトリア・フォン・ホワイトテリア公爵令嬢、その人である。
ご機嫌麗しゅうという挨拶のわりに、ヴィクトリア本人は全くご機嫌麗しくなさそうだ。
そんなことも気づかない脳内フローラル王子は、のんきに彼女に近づいていく。
「ヴィーだ! ただいま戻ったぞー! 今からシンを案内するんだ!」
「オホホ。あら嫌ですわ、殿下ったら。冗談はその脳みそだけにしてくださいまし。貴方は王宮魔術師様たちのところへ赴き、定期検診に決まっているでしょう? 我が婚約者様は本当にお顔と明るいところしか取り柄がないのだから」
花も恥じらう笑顔のヴィクトリアが、毒針のような言葉でめった刺しにしてくる。
開いた扇で慎ましく表情を隠す仕草をするが、言葉の刃は慎ましくない。
ティルレインはようやく不穏な空気を察知したものの、もう遅い。
右を見ても、左を見ても、ずらりと兵士が包囲網を敷いていた。
「さ、連行なさって? これは王命です。聖女様もお待ちですわ」
パチンと閉じられた扇の音を合図に兵が群がり、ティルレインは捕まった。
断末魔の悲鳴を上げている婚約者をうっとりと眺めたヴィクトリアは、くるりとシンたちへ向き直ると、優雅に一礼して去っていく。
絶妙なタイミングで迎えに来たヴィクトリアにより、ティルレインは連行されていった。
見事な手腕だ。
そこへ、ヴィクトリアと入れ違いでルクスがやってきた。
「遅くなって申し訳ありません。こちらにホワイトテリア公爵令嬢が殿下をお迎えに――殿下は?」
どうやら検問所で呼び止められていた理由は、確認だけではなく、ティルレインが他所をほっつき歩く前に捕まえるためでもあったらしい。
「さっきごっつい美人でめっちゃ怖そうな婚約者さんに連れていかれたで」
「完全に尻に敷かれていたでござるな。その御仁はヴィーと呼ばれていたでござるな。ティルレインと親しげな様子であったが……」
ビャクヤとカミーユの証言に、ルクスが項垂れる。
「その方がヴィクトリア・フォン・ホワイトテリア公爵令嬢です」
ヴィクトリアの動きが速すぎて、間に合わなかったようだ。
シンはヴィクトリアと面識があったので、多少驚きはしたが、成り行きに任せた。
あの面倒な馬鹿犬王子を引き取ってくれるなら、ありがたい。
「定期検診に連れていくそうですよ」
シンが状況を伝えると、納得したルクスは気を取り直すように咳払いをした。
一応ティルレインは療養中の身である。あまりに政治に使えないので、田舎にぶん投げられている気もするが。
「そうですか。私と殿下の護衛は城へ向かいますが、シン君はどうしますか?」
「チェスター様はお城にいるだろうから……まずはミリア様に会いに、ドーベルマン伯爵邸に向かおうと思います」
シンはティンパイン王国の辣腕宰相チェスターとその妻ミリアに、何かと世話になっている。
「そうですか。ではミリア様へ先触れを出しておきましょう」
エルビアは王都だけあって広く、貴族街は門から遠い場所にある。
外壁近くは平民や庶民向けの店が立ち並んで、貴族街は中心部の王城の近くに割り振られているため、辿り着くにはそれなりに時間がかかる。
しかも、THE・ド田舎な村とは違って日中は人の行き来が多いので、愛馬であるデュラハンギャロップのグラスゴーでかっ飛ばすわけにはいかない。
「チェスター様にご挨拶と、レニにも久々に会いたいですし、お城へはその後で向かいます」
アンジェリカと共に初期からシンの護衛を担っているレニは、今回のタニキ村帰省には同行しなかったため、顔を合わせるのは久しぶりだった。
レニはシンの護衛の聖騎士だが、それを隠して一緒に学園に通っている。頭が良く、魔法が得意な金髪碧眼の美少女だ。
また、タニキ村を襲ったブラッドウルフの騒動の時、王国はすぐに援軍を送ってくれたし、その後の復旧に尽力してくれている。これらはティンパインの上層部が迅速な判断を下したおかげだ。そのお礼を伝えたかった。
とはいえ、公式神子になってもシンの心は庶民のままなので、正直立派な城には気後れしてしまうのだった。
「とりあえず、ブラッドウルフの騒動以降に途切れがちになっていた化粧水と美容液を渡しに行こうと思います。荷物の中にちょっと在庫が――」
シンが言いかけると、普段にこやかなルクスが表情をそぎ落とし、早口でまくし立てた。
「すぐ行ってください。今すぐ」
「え、でも検問……」
「以前、シン君の化粧水や美容液が盗難に遭って切れかけた時のミリア様やマリアベル妃殿下の狂乱ぶりは……それはもう凄まじかったと噂が伝わっております。ティンパインの平和のためにも、お願いします」
ルクスは噂でしか知らないが、多方へ被害をもたらしたアンチエイジングの鬼たちの働きっぷりは、各地に轟いている。万が一にでも、二度目が起こったらたまらない。
「それでは、某とビャクヤが同行するでござるよ」
「グラスゴーとピコちゃんもおるし、バッチリ護衛するで」
カミーユとビャクヤが護衛を申し出た。ここは治安の良い王都だし、そう滅多なことは起きないだろう。
若い二人の見習い護衛は、年齢を考慮すれば優秀だ。それにシンの二頭の魔馬の戦力があれば、もうオーバーキルである。襲撃者が灰になる予感しかしない。
(……それに、王都に入った時点で王家の護衛が増援されて、シン君を陰ながら護衛しているはず)
そんな見立てもあって、ルクスは旅の道中より心が軽かった。
正直、第三王子で瑕疵があるティルレインより、神々の寵愛めでたいティンパイン公式神子のシンの方が王国にとっては重要だ。
本来なら真っ先に登城させるべきだろうが、理由が理由なので、国王のグラディウスやチェスターも納得する。
二人は奥方にとことん弱いのだ。
◆
――ルクスの判断は正しかった。
シンが王都へ到着した旨と、ドーベルマン邸に向かったことが速やかに城へと伝えられた。
当然、その理由も一緒に。
怒り狂う妻たちに怯えた記憶がまだまだ生々しいチェスターとグラディウスは、あっさりとシンの行動を受け入れた。
ルクスとシンたちが別行動になったと報告を聞いたグラディウスは、「後で来るってー」とのんびりしている。
「ふむ、シン君が来るとなると、今日のミリアの機嫌は良いだろうな」
チェスターはまるで自分のことのように嬉しそうだ。
「そういえば、リヒターとユージンが帰ってきてから、ちょっと荒れ気味だったよね」
二人の息子の名前を聞き、チェスターの顔が僅かに曇る。
「あいつらは生まれてくる前からデリカシーをミリアの腹……いや、前世に置き忘れてきて、持たせようとしても、ずっとどこかに落としたり失くしたりしているからな」
「それ、オタクの息子さんですよ?」
あまりの酷評に、グラディウスは思わずツッコミを入れた。露骨な呆れ顔である。
だが、チェスターは不遜に鼻を鳴らすだけで、それ以上は言わない。
そのやさぐれた仕草が、彼の過去の苦労を物語っていた。
◆
ティンパインの重鎮たちがそんな会話をしていた頃、シンは目的地に到着していた。
久々にやってきたドーベルマン邸は、相変わらず白い壁と赤い屋根のコントラストが眩しく、可愛らしい佇まいだ。サイズは全然可愛くないが。
この建物に強面なチェスターが住んでいるのは意外だが、ふんわりとした美女のミリアもいるとなると、奥さんの好みだと納得する。
屋敷の門兵がシンに気づき、気さくに声をかけてきた。
「やあ、シン君。奥様がお待ちだよ」
門番はシンの顔を覚えていた。
彼の中で、礼儀正しいシンの印象は良かった。主人がべらぼうに彼を気に入っていて、奥様も溺愛しているからだ。
「お久しぶりです。この二人は学友です。一緒で大丈夫ですか?」
「ああ、連絡は来ているよ。騎獣はいつもの場所にな」
「はい。ありがとうございます」
カミーユとビャクヤのことも連絡済みのようで、スムーズに済んだ。
愛馬たちも久々のドーベルマン邸を眺めながら、悠々とした足取りで厩舎の方へ向かう。しばらく来ていなかったが、ちゃんと場所を覚えているようだ。
二頭を預けた後、シンはようやく屋敷に足を踏み入れた。
その瞬間、温かく柔らかい何かがボフッと音を立ててぶつかってきた。
「いらっしゃい、シン君! 待っていたわ~っ」
ご機嫌なハイテンションでシンたちを迎え入れたのは、蜂蜜色に輝く金髪に新緑の瞳を持つ白皙の美女。相変わらず二児の母には見えない、ミリア・フォン・ドーベルマン伯爵夫人である。
その大歓迎っぷりにシンは一瞬だけ思考が停止し、すぐ後ろにいたカミーユとビャクヤは固まってしまう。
シンを堪能するように抱きしめるミリアは一層腕に力を入れ、逃がすまいと言わんばかりにぎゅうぎゅうとハグしている。
そんな中、真っ先に我に返ったのはシンだった。
「お久しぶりです。ミリア様」
「んもう~、お手紙は送ってくれていたけれど、寂しくて……ああそうだわ、以前もらった化粧水なんだけれど、夏場に使うとさっぱりして気持ちよくて! あと冷たい麺……うどんも美味しかったわぁ~。暑くてもあれならつるんって喉を通ってくれるの!」
あれもこれもと、嬉しそうに報告するミリア。
そんなに喜んでもらえるのは何よりだが、シンには背中に突き刺さるカミーユとビャクヤの視線が痛い気がした。
だが、ミリアの怒涛の言葉が止まった。
彼女の新緑の瞳は、シンの背の向こう側――カミーユとビャクヤに向いている。
「新しい聖騎士候補になったと聞いたけれど」
やや含みのある口調と、しんなりと細くなるミリアの瞳。口こそ笑みを浮かべているが、底冷えするような眼差しで値踏みしている。
威圧感たっぷりな美女の睨みに、騎士科コンビが震え上がる。
そんな視線に唯一晒されていないシンは、抱きしめられたままあっけらかんと言う。
「タニキ村の一件でバレたんで、権力と金ビンタと就業保障で黙らせようかと」
カミーユとビャクヤはテイラン国出身なうえに、貴族と獣人族という特殊な生まれだ。ティンパインでも就職難が予想されている。
コネも金もなく、現時点でも学費と生活費がかなりぎりぎりだ。
正直、祖国であってもテイランには恨みしかなく義理はない。彼らにとって、シンの申し出は渡りに船だった。
「用心深いシン君が許可したのだから大丈夫でしょうけれど……もし、シン君を裏切ってテイランと密通でもしたら、我がドーベルマン家を含めたティンパイン王国と、神殿の関係者が地の底まで追いかけて罪を償わせることになるから」
ミリアはずっと優しい口調だが、言っていることは死の宣告だ。下手な脅迫よりずっと怖い。
カミーユとビャクヤはガクガクと震えながら、互いに身を寄せ合って頷く。
そんな二人の気配を察し、シンはミリアを落ち着かせるように背をポンポンと軽く叩く。
「ミリア様。心配していただけるのはありがたいのですが、怖がらせるのはほどほどになさってください」
「あら、こういうのは大事よ?」
ミリアはシンをようやく解放して視線を合わせる。
ね? と小首を傾げる姿はとっても愛らしいのだが、この美女はデンジャラス奥様なのだ。やる時はとことんやるだろう。
権謀術数が飛び交う社交界を渡り歩く百戦錬磨の宰相夫人に、ひよっこ騎士科コンビが敵うはずがない。
すでに二人は負けを察して、めそめそした顔でシンに助けを求めている。
シンも口は達者だが、ミリアはそれを上回る。
言葉、仕草、場の空気を作って、自分のペースに巻き込んでくる。
しかしミリアの話術はただ押しが強いだけでなく、相手にちゃんと譲歩する。地雷には踏み込まない配慮があった。
その心遣いが巧妙で、シンとしても抵抗しにくいのだ。
(うーん、僕がミリア様を説得するのは難しい。ミリア様の懸念は宰相夫人として当然のものだし……話題を変えるくらいならできるかな)
そのためのうってつけのカードを、シンは持っていた。
「ミリア様」
「なぁに、シン君?」
「新作の化粧水と美容液を渡したいのですが」
「嬉しい! 楽しみにしていたの! 新作に免じて、若い子イジリはこれくらいにしておきましょう」
シンの話題転換は露骨だったが、ミリアはあっさり食いついて、圧をかけるのをやめた。
それも込みでミリアの手の平でコロコロ転がされている気がするが、何も言えない三人は、やっと一息つくことができるのだった。
三人が通されたのは、こぢんまりとしながらも立派な応接室だ。
歓待の準備は万全と言わんばかりに、前菜からメインディッシュ、デザートまでどどんと用意されている。
テーブルに所狭しと並んだ料理の数々は、肉料理一つ取っても鶏、豚、牛、兎、羊などと幅広くある。
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