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67、エンリケ・ブランデルの末路(ざまぁパート)2
しおりを挟む混乱する中で、彼が残した言葉は最後まで滑稽だった。
「フレア! 助けろ! 俺を助けろ、フレアああ!」
後に化け物王子と呼ばれ、後世に残る悪評を残すエンリケ・ブランデルはたくさんの剣や槍に刺されて殺された。
病気でかつての美貌が見る影もなく歪み崩れた顔は、恐怖と混乱が張り付いた表情で死んだ。その首は、民衆に晒されて石や汚物を投げられ続けた。
そしてその二日後、すべての悪の根源としてグラニア・ブランデル――かつて民衆に夢と希望の象徴と言われた王妃は、王都の中央広場で断頭台に上る。
グラニアはどんな状況だろうと変わらなかった。
既に炉端の石より価値のない存在に成り下がったことに、未だに気付いていない。
引きずられるようにして断頭台に連れていかれた。
「私は王妃よ! 王子を産んだ国母に向かって何をするの! 無礼者! お前たちが死ね!」
そう喚き散らす老婆は、悪鬼の方がまだ可愛らしいほどだった。
かつて称賛されていた愛らしい美貌は見る影もなく、ただ権力に酔い狂った老女がいた。
乱れた白髪を振り乱し、皺だらけの顔と、口を開くたびに見える疎らな歯。目だけが異常なほど爛々としており、箍が外れたように醜い言葉ばかりを吐き連ねる。
その姿は、誰もが悪魔だ、鬼だ、悪女だ、化け物だというに相応しい。
王族としての誇りもなく、憎悪と怒りを吐き散らす姿は皆に嫌悪された。
「殺してやる! 不敬罪だわ! お前ら全員死刑よー!」
悪の象徴としては実に見事だっただろう。
堕ちたギロチンの刃が、憤怒の形相と喚き散らして開いた大口をとどめたまま首を飛ばした。断頭台の周囲に血だまりができて、ゴロゴロと人の頭部が転がって落ちていく。
誰もがその死を喜び、歓声を上げた。
ブランデルの夜が明けると誰しもが思っていた。
しかし、ブランデルはその後さらに混迷を極める。
新体制が決まらないのだ。王族の蛮行に辟易し、新たな王が決まらなかったのだ。
民主制を説いたが、そんな基盤はなく、ただの夢物語でしかなかった。
指導者が決まらず、規律や風紀は乱れる一方。経済も停滞し、田畑は荒れるばかり。彷徨う民たちは、弱者から職を失っていき浮浪者が溢れた。
救済する為政者は居らず、賊が跋扈するようになる。王家が定期討伐していた魔物や獣も放置され、いくつもの町や村が襲われるようになった。
人の集落が寸断され、街道が荒れ、流通が途絶える。
台頭してきたのは、武装集団だった。彼らはその武力で物資をかき集め、勢力を拡大していった。
経済が破綻しているブランデルはますます荒廃し、武装集団はそこで国家を名乗るようになった――が、所詮は烏合の衆だった。
ブランデルが自滅し、職にあぶれた民や、それに紛れた賊が横行するに従い、隣国ランファンにもその影響が出た。
荒れ果てたブランデルより、経済がきちんと循環しているランファンの方がずっと豊かであった。少ない物資をブランデルで奪い合うより、ランファンを荒らした方が実入りも良かったのだ。
領土侵害と盗賊行為――それはランファンという国に兵を立ち上げさせるきっかけとなってしまう。
ランファンの治安を脅かしたのだ。国境沿いの集落や行商を狙って賊が出るようになり、それは民衆や王侯貴族の不興を買う結果になる。そして、ついにはランファンに戦争の口実を与えた。
ランファンの正規軍は圧倒的だった。統率された動きで、あっと言う間に国家を名乗る蛮族たちは淘汰された。
こうして、ブランデルという国は地図から消えた。ランファンに併呑されたのである。
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