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外伝 ー昔話ー

終焉の始まり

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まだだ…まだこんなものじゃないだろう
「…ッ!リミッター、完全解放フルドライブ……目を…ませ……XXXXッ」
刹那、地獄のような業火が全てを灰塵に帰すと言わんばかりに燃え盛り、我が身を焼き尽くさんと荒れ狂う
「ぐぁッ…そう……それで、良いッ!」
俺の身なんて二の次だ。ここで、今ここでやられたら、多くの人々の血と涙が、犠牲が、努力が、希望が、全てが無駄になる
そんなことはさせない!絶対に守ってみせるッ!
「焼き尽せ……ッ!」
ーーーその為なら、俺は喜んで灰になろう

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二〇〇〇年、突如として東京新宿の上空に「門」の顕現けんげんが確認された。「門」内からは未知の生命体が地上に降り立ち、新宿付近は混乱に陥った。それから時を経て、未知の生命体達を「異世界固有種アンノウン」と呼ぶ様になった。基本的に人間には襲ってこないようが、中には襲ってくる個体もいるらしく、好き好んで固有種達に近づく者はいなかった。
「門」顕現から2年後の二〇〇二年に、それは起こった。「終末の薔薇」問題である。最初に「発芽」が確認されたのは千葉県に住む9歳の男の子だった。「発芽」が確認され、宿主となった人間は脳を「終末の薔薇」に支配され、身体が朽ちてもなお動き続ける「生ける屍」へ化した。ゾンビから無数の薔薇のツタ状の触手が生えた容姿をしている。
それから3年間、人類はなす術もなく「終末の薔薇」の「発芽」によりゾンビ化してしまう者達が増え続け、日本の人口は激減。中でも「終末の薔薇」の「花粉」に耐性が著しく低かった男性の多くが「発芽」しゾンビ化した。この頃、日本以外の国での「発芽」が確認されていなかったのが不幸中の幸いだろう。
そして二〇〇五年、固有種についての研究していた生物学者である米俵宗次郎こめだわらそうじろうが「終末の薔薇」を掃討する為、一つの計画を立案した。「固有種適合手術」によって、身体能力の向上、「終末の薔薇」の「花粉」への耐性を高めた人々を集め、軍隊として運用するというものだった。
これは昔の話。人類を救う為に戦う戦士達の、昔話。

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ーーー体が重い…とても、だるい。そして、痛い。体中が、痛い…針に刺された様な痛みが、体中に襲ってくる…
「……!意識、覚醒しました!…目を閉じないで!気をしっかり持って下さい!」
遠くから……いや、すぐ横から、だろうか。声が聞こえる…。誰…?
俺は鉛でも吊るされているのかと思う程に重いまぶたをこじ開けた
「そうです、そのまま……先生!こっちです!」
誰か、もう一人がこちらへやってくる。そう隣に居て大声で喋られると、頭の奥がガンガンととても痛い…
「…ふむ。拒絶反応、暴走の兆候無し。体調はすこぶる悪い様だが、直に治るだろう。おはよう、起きれるか?」
「う……はい」
俺はゆっくりと上半身を持ち上げた。
「覚醒して早々で悪いが、これに記入をしてくれ」
そう言われて渡されたのは、アンケート用紙とペンだった
「記憶の欠落が無いかを確認する。ゆっくりでいいから書いてくれ」
「……分かり、ました」
ゆっくりと深呼吸し、心と身体を落ち着かせた。それから記入をしていく。
「…どうぞ」
「ありがとう……ふむ、一致しているな。記憶の欠落も無し」
そう言うと、髭の生えた男はこちらに向き直った。
「おめでとう、ジーク・イウヴァルト君。君は手術に成功した」
「……あ」
思い出した、俺は男で唯一「AN細胞」の適合が確認されて、それで、脊髄に「AN細胞」を移植して…
「だが、成功といっても中の下だ」
「…え?」
今、なんて…?
「手術中に拒絶反応の兆候が出てね、少々強引な方法で、無理矢理適合させた」
「それって…」
「ああ、心配するな。今は安定してる」
「…そう、ですか…」
良かった、暴走は免れた様だ
「だがな、その方法が仇になって、君は本来の力が出せない……いや、出るには出るが、出したら死ぬだろう」
「………」
「君に適合があったのは、治癒能力が高い竜種のAN細胞だ。そして強力な炎の力も持っている。覚えてるかな?」
「……はい」
覚えている。個体名は……イフリート、だったか
「その治癒能力のお陰で、今君は強引な適合でも安定していられるが、もし力を行使して、その治癒能力以上の負荷が体にかかったら、君はタダじゃ済まない」
「……そうですか」
「うむ、だから力の行使は十分に注意して欲しい。分かったかい?」
「…はい」
「よろしい。悪いね、寝覚めに最悪な話をして」
「いえ、成功したのなら、良かったです」
「……お連れさん、君がずーっと眠ったままで心配してたよ。会いに行ってあげたら?」
「連れ……夏海なつみッ!夏美はどこに!?」
「うい、落ち着けって。夏美ちゃんは下の階にいるよ」
「……ありがとう、です。探してきます」
「おう。あんまり無茶に身体動かすなよ。あとその姿、中々イカしてるぜ」
「…え?姿って……うわっ!」
近くに立てかけてあった鏡を覗いてみると、左腕が青い結晶の様な竜の鱗に覆われた、額に角が2本生えた白髪碧眼の男が立っていた。って俺なのか。
「おいおい、今更気づいたのかよ」
「す、すみません」
「ハハッ、まぁいいけどよ」
激変した自分の容姿に動揺しつつ、夏美がいるという下の階へ向かった。
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