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「私はラスティア・ラ・モーリス。第一騎士団の団長を務めております」
「んぐ……団長さんでひたか。ふぉれはひふへいを」
「……飲み込んでからで大丈夫です」
「ふぁい」
「…………」
めちゃくちゃ呆れたような視線を向けられている。お行儀悪くてすいません。
真っ黒の人……団長さんが頼んでくれたご飯を食べながら、僕は説明を受けていた。久々の温かいご飯な上に、高級だと一口食べただけで分かる料理の数々に口と手が止まらない。飲み込む前に手が次を選んでいる。これは、ヤバいかも……。
「んぐ……」
「…………」
「……………………」
「…………?」
口元に手を寄せてフリーズした僕。その隣で首を傾げる団長さん。沈黙の時間。
終わらせたのは、僕だった。
「うおぇっ」
「え!?あ、え……!?」
「と、トイレに……」
何とかトイレと言うと、慌てていた団長さんはそれでも瞬時に僕を抱き上げてトイレに運んでくれた。そのまま胃の中のものを吐き出し続け、出すものがなくなってもえずき続ける。団長さんは申し訳ないことにも、僕の背中をずっと撫でていてくれた。どこか戸惑いが感じられるその動きがとても暖かく感じた。
「げほっ……すいません。お見苦しいものを……うぐ」
「いえ……構いません。魔獣との戦いで吐く者もいますから」
だから慣れているということだろうが、あれだけがっついて食べていたのにすぐに吐いてしまうなんて場面は見たくなかっただろう。団長さんにも、あの料理を作ってくれた人たちにも、本当に申し訳なく思った。
「本当にすいませんでした……。何度もやらかしてることなのにまたやってしまって」
「何度も……?」
「あ、はい。ここ数日ちゃんとしたご飯を食べてなかったんです。弱っていた胃にちゃんとしたご飯を突然入れたら、胃がびっくりして吐いちゃうんですよ。分かっていたはずなのに、これまで見たことないほど美味しそうな料理に思わず手が伸びてしまって……止められませんでした。作ってくださった方々に申し訳ないです……」
「……美味しそうだと思っていただけたのなら、彼らも喜ぶでしょう。そのお気持ちだけで十分だと思います。それよりも、胃が弱っているのなら食べやすいものを用意させましょう。粥は大丈夫ですか?」
「え、あ……」
これまでまともにご飯を食べていないと言ったら、引かれることが多かったのに団長さんはむしろフォローしてくれた。更には結局胃に何も残らなかったことを配慮してくれている。そんな気遣いを受けたのは初めてで、僕は戸惑ってしまった。しかしそんな僕を急かすことなく、彼は静かな眼差しで見つめるだけ。それもまた、初めてのことだった。
「リンゴの……擦ったやつくらいなら食べられるかもです」
「わかりました。次いでに白湯も用意させますので、少々お待ちください」
「あ、ありがとうございます……!」
ドアノブに手をかけていた団長さんに、慌てて感謝を伝える。その声に団長さんは軽く振り向くと、まるで桜の花びらが舞い踊るかのように美しい微笑みを浮かべた。その笑みに、思わず息を飲んだ。散るような儚さではなく、舞い踊るような力ある美しさ。清廉ささえも感じる。
「どういたしまして」
「あ…………」
綺麗な微笑みと、さらりと揺れた美しい黒髪に目を奪われている間に、団長さんは行ってしまった。きっと、彼はすぐに戻ってくるだろう。それまでに、この赤くなった顔をどうにかしないといけない。じゃないと、きっと彼を心配させてしまうから。
「んぐ……団長さんでひたか。ふぉれはひふへいを」
「……飲み込んでからで大丈夫です」
「ふぁい」
「…………」
めちゃくちゃ呆れたような視線を向けられている。お行儀悪くてすいません。
真っ黒の人……団長さんが頼んでくれたご飯を食べながら、僕は説明を受けていた。久々の温かいご飯な上に、高級だと一口食べただけで分かる料理の数々に口と手が止まらない。飲み込む前に手が次を選んでいる。これは、ヤバいかも……。
「んぐ……」
「…………」
「……………………」
「…………?」
口元に手を寄せてフリーズした僕。その隣で首を傾げる団長さん。沈黙の時間。
終わらせたのは、僕だった。
「うおぇっ」
「え!?あ、え……!?」
「と、トイレに……」
何とかトイレと言うと、慌てていた団長さんはそれでも瞬時に僕を抱き上げてトイレに運んでくれた。そのまま胃の中のものを吐き出し続け、出すものがなくなってもえずき続ける。団長さんは申し訳ないことにも、僕の背中をずっと撫でていてくれた。どこか戸惑いが感じられるその動きがとても暖かく感じた。
「げほっ……すいません。お見苦しいものを……うぐ」
「いえ……構いません。魔獣との戦いで吐く者もいますから」
だから慣れているということだろうが、あれだけがっついて食べていたのにすぐに吐いてしまうなんて場面は見たくなかっただろう。団長さんにも、あの料理を作ってくれた人たちにも、本当に申し訳なく思った。
「本当にすいませんでした……。何度もやらかしてることなのにまたやってしまって」
「何度も……?」
「あ、はい。ここ数日ちゃんとしたご飯を食べてなかったんです。弱っていた胃にちゃんとしたご飯を突然入れたら、胃がびっくりして吐いちゃうんですよ。分かっていたはずなのに、これまで見たことないほど美味しそうな料理に思わず手が伸びてしまって……止められませんでした。作ってくださった方々に申し訳ないです……」
「……美味しそうだと思っていただけたのなら、彼らも喜ぶでしょう。そのお気持ちだけで十分だと思います。それよりも、胃が弱っているのなら食べやすいものを用意させましょう。粥は大丈夫ですか?」
「え、あ……」
これまでまともにご飯を食べていないと言ったら、引かれることが多かったのに団長さんはむしろフォローしてくれた。更には結局胃に何も残らなかったことを配慮してくれている。そんな気遣いを受けたのは初めてで、僕は戸惑ってしまった。しかしそんな僕を急かすことなく、彼は静かな眼差しで見つめるだけ。それもまた、初めてのことだった。
「リンゴの……擦ったやつくらいなら食べられるかもです」
「わかりました。次いでに白湯も用意させますので、少々お待ちください」
「あ、ありがとうございます……!」
ドアノブに手をかけていた団長さんに、慌てて感謝を伝える。その声に団長さんは軽く振り向くと、まるで桜の花びらが舞い踊るかのように美しい微笑みを浮かべた。その笑みに、思わず息を飲んだ。散るような儚さではなく、舞い踊るような力ある美しさ。清廉ささえも感じる。
「どういたしまして」
「あ…………」
綺麗な微笑みと、さらりと揺れた美しい黒髪に目を奪われている間に、団長さんは行ってしまった。きっと、彼はすぐに戻ってくるだろう。それまでに、この赤くなった顔をどうにかしないといけない。じゃないと、きっと彼を心配させてしまうから。
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