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前編
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「ここからビレッド地区?」
「はい。右手に見えますのが、唯一の観光資源の精霊の湖。そして左手に見えますのが、この地区の特産品であるチーズに欠かせない牛が放牧されている牧場になります。あ、新鮮な野菜を提供してくださる農家の方々が旗を振って歓迎してくださってますよ。手を振ってください」
「いや、俺がやったら悲鳴が出るだけだろ。カーディ、手を振ってやれ」
「え、うん」
馬車の窓にかかっていたカーテンの隙間から、カーディアスが外に向かって遠慮がちに手を振ると、黄色い悲鳴が聞こえてきた。天使みたいな子どもから手を振られたらそうなるよな。教育に悪いから信仰はしないでくれよ。
「僕も叫ばれちゃったよ……?」
「お前は天使だからだろ」
「天使だからですね」
カーディアスは首を傾げているけど、マジで将来が心配なような楽しみなような整った容姿なのだ。誘拐されないか心配だ。屋敷の警備だけは力を入れておこう。
「デリス、屋敷の警護は厳重にしろよ。田舎だからって窓を開けっぱなしとか無いようにしてくれ」
「それはもちろん。カーディアス様にも屋敷に着き次第、専属執事をつけようと思います。剣術にも覚えがある者にしましょう」
「そうだな。あと、絶対に間違いを起こさないような奴な」
「当然ですね。あ、私はこれまでと変わらずレイラ様の専属ですのでご安心くださいませ」
柔らかい笑みを浮かべながらも、背筋をピシッと伸ばした綺麗な姿勢で向かいに座るデリスは、今回ビレッド地区の屋敷に連れていくことになった俺の専属執事だ。
使用人の左遷地と呼ばれる屋敷に連れていかれて嬉しい使用人はいないだろうし、向こうにも少ないながらに使用人はいることから、必要な人数だけ連れていくことにしたのだが、デリスは真っ先に志願してくれた。
デリスは主人の贔屓目を抜きにしても、なかなかのイケメンだ。つまり、メイドたちからの人気も高い。あれほど無言ながらも同行を拒否をしていたメイドたちが一斉に志願したときは、思わず半目になった。露骨すぎだろ。そんな奴らは全員却下して、そこそこ仲のいい料理人と庭師を連れていくことにした。もちろん全員男。
「お前が志願してくれて助かった。誰も犠牲にしなくてすんだしな」
「むしろ私以外の誰があなたの専属を務められるとお思いで?」
「だから悩んだんだろ。これからも俺の我が儘聞いてくれよ」
「それはお断りします」
ふと、隣のカーディアスが俺たちを驚いたように交互に見ていることに気づいた。なんだ?俺なんかがイケメンなデリスと話してるのが気に入らないのか?返事しなかったら主従とは思えない扱いを受けるんだから仕方ないだろ。逃げ回るデリスを追いかけてだだっ広い屋敷を歩きまわされたことは思い出したくない記憶だ。
「どうされました?カーディアス様」
「……レイラさんがデリスの主人なのに、仲良さそうだなって思って」
「あぁ。私とレイラ様は幼馴染なんですよ。昔はよく遊んだものです」
「俺で遊んだの間違いだろ」
「そんなことはありませんよ。でも、私がすぐに執事教育に入ってしまったのでそれも短い間でしたけれど」
「そうだな……」
おそらくライアー家では主人と執事は普通の主従関係だったんだろうな。でも、デリスが立派な執事になって俺につけられた時、壁を感じる他人行儀すぎる態度が嫌だって泣いて以来、敬語以外はだいぶ気安い関係を築いてくれた。俺が引きこもりになっても離れることなくいてくれてだいぶ感謝している。本人には絶対言わないけど。
「昔のレイラ様はそれはもうとても可愛らしい子どもだったんですよ?必死になって私を追いかけて、転んでしまったらすぐ泣くような子で……あのままきちんと健康管理していればこんな風にはならなかったのに、一体何を血迷ったんだか」
酷い言われようだが、これは聞き慣れたことだ。別に気にしない。でもわざわざ俺の腹をつつくのはやめろ。カーディアスに下に見られたら俺の言うこと聞かなくなるだろうが。
「これからダイエットするんだよ!」
「当たり前です。これからはちゃんと私が健康管理しますよ。カーディアス様の父親として恥ずかしくないように、頑張りましょうね」
エンドレスふふふ笑いをしているデリスから目を逸らす。普通はパトリック家の分家とはいえ、地位は上の方の俺の養子として恥じないようにとカーディアスに言うところだが、確実にそれ以外は俺が下だ。
原作のレイラはパトリック家にふさわしい令息だったが、今の俺は前世で結婚に失敗したこともあり女性不信に陥ったため、こんなデブの引きこもりダメ男になっている。原作のレイラもパトリック家から分家していたが、今の俺のような理由じゃなくてもっと栄誉ある理由でだったはずだ。しかしめちゃくちゃ性格が悪いから、その養子になったカーディアスも立派な悪役令息になってしまったんだ。
が、しかし。今この状態はすでに物語のルートから逸れている。レイラ・パトリックはパトリック家の恥としてパトリック家からは抹消。田舎送りになる始末。カーディアスが原作通りに俺の養子になったのはもはや奇跡だと思おう。これで、見た目天使中身悪魔はちゃんと見た目も中身も天使の立派な男になるはず。いや、そう育てる。頑張れ俺!
「はい。右手に見えますのが、唯一の観光資源の精霊の湖。そして左手に見えますのが、この地区の特産品であるチーズに欠かせない牛が放牧されている牧場になります。あ、新鮮な野菜を提供してくださる農家の方々が旗を振って歓迎してくださってますよ。手を振ってください」
「いや、俺がやったら悲鳴が出るだけだろ。カーディ、手を振ってやれ」
「え、うん」
馬車の窓にかかっていたカーテンの隙間から、カーディアスが外に向かって遠慮がちに手を振ると、黄色い悲鳴が聞こえてきた。天使みたいな子どもから手を振られたらそうなるよな。教育に悪いから信仰はしないでくれよ。
「僕も叫ばれちゃったよ……?」
「お前は天使だからだろ」
「天使だからですね」
カーディアスは首を傾げているけど、マジで将来が心配なような楽しみなような整った容姿なのだ。誘拐されないか心配だ。屋敷の警備だけは力を入れておこう。
「デリス、屋敷の警護は厳重にしろよ。田舎だからって窓を開けっぱなしとか無いようにしてくれ」
「それはもちろん。カーディアス様にも屋敷に着き次第、専属執事をつけようと思います。剣術にも覚えがある者にしましょう」
「そうだな。あと、絶対に間違いを起こさないような奴な」
「当然ですね。あ、私はこれまでと変わらずレイラ様の専属ですのでご安心くださいませ」
柔らかい笑みを浮かべながらも、背筋をピシッと伸ばした綺麗な姿勢で向かいに座るデリスは、今回ビレッド地区の屋敷に連れていくことになった俺の専属執事だ。
使用人の左遷地と呼ばれる屋敷に連れていかれて嬉しい使用人はいないだろうし、向こうにも少ないながらに使用人はいることから、必要な人数だけ連れていくことにしたのだが、デリスは真っ先に志願してくれた。
デリスは主人の贔屓目を抜きにしても、なかなかのイケメンだ。つまり、メイドたちからの人気も高い。あれほど無言ながらも同行を拒否をしていたメイドたちが一斉に志願したときは、思わず半目になった。露骨すぎだろ。そんな奴らは全員却下して、そこそこ仲のいい料理人と庭師を連れていくことにした。もちろん全員男。
「お前が志願してくれて助かった。誰も犠牲にしなくてすんだしな」
「むしろ私以外の誰があなたの専属を務められるとお思いで?」
「だから悩んだんだろ。これからも俺の我が儘聞いてくれよ」
「それはお断りします」
ふと、隣のカーディアスが俺たちを驚いたように交互に見ていることに気づいた。なんだ?俺なんかがイケメンなデリスと話してるのが気に入らないのか?返事しなかったら主従とは思えない扱いを受けるんだから仕方ないだろ。逃げ回るデリスを追いかけてだだっ広い屋敷を歩きまわされたことは思い出したくない記憶だ。
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「……レイラさんがデリスの主人なのに、仲良さそうだなって思って」
「あぁ。私とレイラ様は幼馴染なんですよ。昔はよく遊んだものです」
「俺で遊んだの間違いだろ」
「そんなことはありませんよ。でも、私がすぐに執事教育に入ってしまったのでそれも短い間でしたけれど」
「そうだな……」
おそらくライアー家では主人と執事は普通の主従関係だったんだろうな。でも、デリスが立派な執事になって俺につけられた時、壁を感じる他人行儀すぎる態度が嫌だって泣いて以来、敬語以外はだいぶ気安い関係を築いてくれた。俺が引きこもりになっても離れることなくいてくれてだいぶ感謝している。本人には絶対言わないけど。
「昔のレイラ様はそれはもうとても可愛らしい子どもだったんですよ?必死になって私を追いかけて、転んでしまったらすぐ泣くような子で……あのままきちんと健康管理していればこんな風にはならなかったのに、一体何を血迷ったんだか」
酷い言われようだが、これは聞き慣れたことだ。別に気にしない。でもわざわざ俺の腹をつつくのはやめろ。カーディアスに下に見られたら俺の言うこと聞かなくなるだろうが。
「これからダイエットするんだよ!」
「当たり前です。これからはちゃんと私が健康管理しますよ。カーディアス様の父親として恥ずかしくないように、頑張りましょうね」
エンドレスふふふ笑いをしているデリスから目を逸らす。普通はパトリック家の分家とはいえ、地位は上の方の俺の養子として恥じないようにとカーディアスに言うところだが、確実にそれ以外は俺が下だ。
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