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「失礼します。ユウヒです」
「入ってくれ」
ノックをした扉の向こうからの返事に従って扉を開けると、ベッドに座ったクレディア様が剣の手入れをしているところだった。
窓から差し込む月明かりを反射して冷たく煌めく剣の刃に、思わずごくりと唾を飲み込んでしまった。騎士の剣だけあって、凄く切れ味が良さそうだ……
「疲れているだろうに呼び出してすまない」
「あ、いえ、俺は大丈夫です! それで、ご用件は……?」
「ああ。一昨日の夜のことなんだが、少し聞きたいことがあってな。椅子に座ってくれ」
やっぱりそのことだったぁ!!
昨日何も言われなかったから油断してたらっ! 仕事が終わったら部屋に来てくれって言われたから察してはいたけどっ!!
「えっと……失礼します」
一体何を聞かれるのだろうかと内心ビビり散らかしている俺は、なんとかクレディア様の正面に置かれていた椅子に座った。
尋問か? 尋問が始まるのか?
クレディア様は剣を鞘に納めるとベッド横の壁に立てかけて、俺をまっすぐ見つめた。
俺、尋問とか初めてなのでお手柔らかにお願いします……
「実は……一昨日の夜、酒を持ってきてくれた君と何かを話した記憶はあるのだが、そこから先はまったく覚えていない」
「……へ?」
「気が付いたら朝で、ベッドで寝ていた。酒を飲みすぎて記憶が飛んだのかとも思ったが、君が持ってきてくれたはずの酒は部屋に無かったし頭痛もしない。それどころかすこぶる快調。しかしその理由が分からない。でも君は知っているのだろう?」
威圧感は無い。けれど逃がす気のない強い視線が俺を貫いていた。
「え……っ、とぉ…………」
俺は予想もしていなかった事態に、脳内大混乱の大パニックの末に思考停止状態に入ってしまった。何とか口を動かしたはいいものの、深く考えられないせいでしどろもどろに質問ばかりしてしまう。
「本当に何も覚えていない、の、ですか?」
「ああ。覚えているのは、酒を持ってきてくれた君を部屋に入れたところまでだ」
「その、俺が色々と知っていると思われたのはどうして、ですか?」
「君が持ってきてくれた酒が無かったことと、翌朝の君の態度が少しぎこちなかったことから判断した」
「な、なるほどぉ……」
や、やっぱり気づかれてたんだ……。そうだよなぁ。ダッドさんにも何かあったんだとバレたくらいだもんなぁ……
ガックリと肩を落とすことしかできなかった俺は、観念して自分がやってしまったことを白状した。
「お部屋に入った後、お酒をグラスに注いで準備を終えたのですが、クレディア様がぼんやりされていて髪が全然拭けていなかったことが無性に気になってしまって……その、髪を拭かせてほしいとクレディア様にお願いしました。それで、お許しいただいたので髪を拭かせていただいている間にクレディア様が寝てしまわれて……」
「……………………」
「ぐっすり眠っておられたので、お酒はそのまま回収しました……」
「…………そうか」
途中から、俺以上に肩を落として項垂れてしまったクレディア様は、溜め息のように重い一言を吐き出した。
怒っているというよりは落ち込んでいるように見える様子に、俺は戸惑っていた。
てっきり、不敬にも伯爵様の髪を拭いたことを怒られるかなと思っていたのに、顔を上げたクレディア様は「すまなかった」と謝ってくるのだから余計に気まずくなってしまう。
「迷惑を、かけてしまっていたのだな……」
「いえ、あの、怒ってはおられないのですか?」
「自分自身に怒っている」
「いや、俺にです……」
「……? 何故君に怒る必要がある?」
本当に不思議そうに首を傾げられて、俺は何も言えなかった。
どうやら、俺の不安は杞憂だったらしい。クレディア様は俺を怒る気はまったくなく、むしろ自己反省で忙しいようだ。
「入ってくれ」
ノックをした扉の向こうからの返事に従って扉を開けると、ベッドに座ったクレディア様が剣の手入れをしているところだった。
窓から差し込む月明かりを反射して冷たく煌めく剣の刃に、思わずごくりと唾を飲み込んでしまった。騎士の剣だけあって、凄く切れ味が良さそうだ……
「疲れているだろうに呼び出してすまない」
「あ、いえ、俺は大丈夫です! それで、ご用件は……?」
「ああ。一昨日の夜のことなんだが、少し聞きたいことがあってな。椅子に座ってくれ」
やっぱりそのことだったぁ!!
昨日何も言われなかったから油断してたらっ! 仕事が終わったら部屋に来てくれって言われたから察してはいたけどっ!!
「えっと……失礼します」
一体何を聞かれるのだろうかと内心ビビり散らかしている俺は、なんとかクレディア様の正面に置かれていた椅子に座った。
尋問か? 尋問が始まるのか?
クレディア様は剣を鞘に納めるとベッド横の壁に立てかけて、俺をまっすぐ見つめた。
俺、尋問とか初めてなのでお手柔らかにお願いします……
「実は……一昨日の夜、酒を持ってきてくれた君と何かを話した記憶はあるのだが、そこから先はまったく覚えていない」
「……へ?」
「気が付いたら朝で、ベッドで寝ていた。酒を飲みすぎて記憶が飛んだのかとも思ったが、君が持ってきてくれたはずの酒は部屋に無かったし頭痛もしない。それどころかすこぶる快調。しかしその理由が分からない。でも君は知っているのだろう?」
威圧感は無い。けれど逃がす気のない強い視線が俺を貫いていた。
「え……っ、とぉ…………」
俺は予想もしていなかった事態に、脳内大混乱の大パニックの末に思考停止状態に入ってしまった。何とか口を動かしたはいいものの、深く考えられないせいでしどろもどろに質問ばかりしてしまう。
「本当に何も覚えていない、の、ですか?」
「ああ。覚えているのは、酒を持ってきてくれた君を部屋に入れたところまでだ」
「その、俺が色々と知っていると思われたのはどうして、ですか?」
「君が持ってきてくれた酒が無かったことと、翌朝の君の態度が少しぎこちなかったことから判断した」
「な、なるほどぉ……」
や、やっぱり気づかれてたんだ……。そうだよなぁ。ダッドさんにも何かあったんだとバレたくらいだもんなぁ……
ガックリと肩を落とすことしかできなかった俺は、観念して自分がやってしまったことを白状した。
「お部屋に入った後、お酒をグラスに注いで準備を終えたのですが、クレディア様がぼんやりされていて髪が全然拭けていなかったことが無性に気になってしまって……その、髪を拭かせてほしいとクレディア様にお願いしました。それで、お許しいただいたので髪を拭かせていただいている間にクレディア様が寝てしまわれて……」
「……………………」
「ぐっすり眠っておられたので、お酒はそのまま回収しました……」
「…………そうか」
途中から、俺以上に肩を落として項垂れてしまったクレディア様は、溜め息のように重い一言を吐き出した。
怒っているというよりは落ち込んでいるように見える様子に、俺は戸惑っていた。
てっきり、不敬にも伯爵様の髪を拭いたことを怒られるかなと思っていたのに、顔を上げたクレディア様は「すまなかった」と謝ってくるのだから余計に気まずくなってしまう。
「迷惑を、かけてしまっていたのだな……」
「いえ、あの、怒ってはおられないのですか?」
「自分自身に怒っている」
「いや、俺にです……」
「……? 何故君に怒る必要がある?」
本当に不思議そうに首を傾げられて、俺は何も言えなかった。
どうやら、俺の不安は杞憂だったらしい。クレディア様は俺を怒る気はまったくなく、むしろ自己反省で忙しいようだ。
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