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「あの、不思議に思われていたのであれば何故昨日は何も仰らなかったのですか?」
朝は魔物退治前だったから仕方ないとしても、帰ってきた時に会話をしているのだからその時にでも聞けただろうにと疑問に思った。単に疲れていたからとかかな。
「昨日は、本当に酒が原因じゃないのか確かめようとしたんだ。起床時の感覚が全く異なっていたから、違うと確信したため君に直接確かめようと思った。本当は昼に聞くつもりだったのだが、ハロルがいたからあの場では聞けなかった」
「もしかして、中庭にいらっしゃったのは俺を探して?」
この宿屋の裏庭は、庭とは言っても特に手入れをしているわけではない。小さな森のようになっているから、普通のお客さんは入ってこない。多分、俺を探していたクレディア様にダッドさんが教えたんだろうな。
「ああ。しかし本当に、ハロルがいた時に聞かなくてよかったと心底安堵している……。もう一つ、聞いてもいいか?」
「あ、はい。なんでしょう」
「君は特別なスキルを持っているのか?」
「スキルですか? 物の真贋が分かる鑑定スキルならあります」
「癒しの効果があるスキルは?」
「ありませんが……」
質問に答えながらも俺は困惑していた。癒しのスキルは希少だ。そのスキル保持者のほとんどは、教会に所属している神官だという。身分の関係ない神官になれば衣食住に困らないから、平民では憧れる者もいるほどだ。だから、この質問は平民にするようなものではない。
「どうしてそのような質問を?」
俺の疑問は不思議なものではないはずなのに、クレディア様は少し言い淀んだ。
首を傾げながら待っていると、本当に言いづらそうに口を開いた。
「これは、秘密にしてほしいのだが……」
「っ、はい!!」
みんなの憧れの騎士様の秘密! 俺は背筋をしゃんと伸ばして姿勢を正した。
ん? いや、俺はいつの間にそんな秘密に関わってしまったんだ?
「私にはやっかいな体質がある。魔法を使いすぎて魔力が減りすぎると、不眠気味になってしまうんだ」
「不眠……」
「そして眠気が限界に達すると、だいぶ無防備になってしまう……らしい」
「無防備……あー……」
確かに、あの時のクレディア様はぽやぽやとした雰囲気で、到着した時とはかなり違う印象だった。あれは眠気が限界だったからなのか。
「実はミトバに出発する直前、街道に突然発生した小型魔物を討伐していたんだ。魔物の動きが素早すぎるうえに大群でな。剣よりも魔法を使って複数体まとめて倒していたせいで魔力がかなり減ってしまった。討伐後の後始末や報告を行っていたら、魔力が回復する十分な休息時間が取れないまま出発することになってしまい……疲れもあってあの日は眠気が強かったんだ」
「それで、お酒でなんとかしようとなさったんですか?」
「ああ。よく使う手段なんだ。魔力を多く使うだろうと思われる任務や、休息時間が取れなさそうな時は滞在先に事前に酒を用意してもらっている。かなり強引な手段だが、こうでもしないと寝れないんだ。寝てしまえば魔力はある程度回復できるから、仕方がないと諦めている」
そう困ったように笑うクレディア様を、ギュッと抱きしめたくなった。
なんて困った体質なんだ。どうにかしてあげたいけれど、クレディア様は伯爵様だ。その体質が発覚した後に散々色んな方法を試したんだろう。それでも効果があったのがお酒だなんて……
「だが、あの日は違ったんだ。酒を飲む前に自然と眠りについていた。だから、君に聞きたかった。あの時、何があったのか」
「そういうことですか……でも、俺は本当に髪を拭いたくらいで特別なことは何もやっていないんです」
「……よければ、どんな風にしてくれたのか再現してくれないか」
「エッ!?」
まだやるとは言っていないのに、俺が固まっている間にシャワールームからタオルを持ってきたクレディア様はそれを俺に手渡して、あの時と同じように頭を俺に差し出した。
俺はクレディア様の後頭部を不敬にも見下ろしながら、どうして俺はあの時髪を拭こうと提案してしまったのだろうかと過去の行いを後悔していた。
だから言っただろうがとダッドさんの呆れた溜め息が聞こえてくるようだ。
朝は魔物退治前だったから仕方ないとしても、帰ってきた時に会話をしているのだからその時にでも聞けただろうにと疑問に思った。単に疲れていたからとかかな。
「昨日は、本当に酒が原因じゃないのか確かめようとしたんだ。起床時の感覚が全く異なっていたから、違うと確信したため君に直接確かめようと思った。本当は昼に聞くつもりだったのだが、ハロルがいたからあの場では聞けなかった」
「もしかして、中庭にいらっしゃったのは俺を探して?」
この宿屋の裏庭は、庭とは言っても特に手入れをしているわけではない。小さな森のようになっているから、普通のお客さんは入ってこない。多分、俺を探していたクレディア様にダッドさんが教えたんだろうな。
「ああ。しかし本当に、ハロルがいた時に聞かなくてよかったと心底安堵している……。もう一つ、聞いてもいいか?」
「あ、はい。なんでしょう」
「君は特別なスキルを持っているのか?」
「スキルですか? 物の真贋が分かる鑑定スキルならあります」
「癒しの効果があるスキルは?」
「ありませんが……」
質問に答えながらも俺は困惑していた。癒しのスキルは希少だ。そのスキル保持者のほとんどは、教会に所属している神官だという。身分の関係ない神官になれば衣食住に困らないから、平民では憧れる者もいるほどだ。だから、この質問は平民にするようなものではない。
「どうしてそのような質問を?」
俺の疑問は不思議なものではないはずなのに、クレディア様は少し言い淀んだ。
首を傾げながら待っていると、本当に言いづらそうに口を開いた。
「これは、秘密にしてほしいのだが……」
「っ、はい!!」
みんなの憧れの騎士様の秘密! 俺は背筋をしゃんと伸ばして姿勢を正した。
ん? いや、俺はいつの間にそんな秘密に関わってしまったんだ?
「私にはやっかいな体質がある。魔法を使いすぎて魔力が減りすぎると、不眠気味になってしまうんだ」
「不眠……」
「そして眠気が限界に達すると、だいぶ無防備になってしまう……らしい」
「無防備……あー……」
確かに、あの時のクレディア様はぽやぽやとした雰囲気で、到着した時とはかなり違う印象だった。あれは眠気が限界だったからなのか。
「実はミトバに出発する直前、街道に突然発生した小型魔物を討伐していたんだ。魔物の動きが素早すぎるうえに大群でな。剣よりも魔法を使って複数体まとめて倒していたせいで魔力がかなり減ってしまった。討伐後の後始末や報告を行っていたら、魔力が回復する十分な休息時間が取れないまま出発することになってしまい……疲れもあってあの日は眠気が強かったんだ」
「それで、お酒でなんとかしようとなさったんですか?」
「ああ。よく使う手段なんだ。魔力を多く使うだろうと思われる任務や、休息時間が取れなさそうな時は滞在先に事前に酒を用意してもらっている。かなり強引な手段だが、こうでもしないと寝れないんだ。寝てしまえば魔力はある程度回復できるから、仕方がないと諦めている」
そう困ったように笑うクレディア様を、ギュッと抱きしめたくなった。
なんて困った体質なんだ。どうにかしてあげたいけれど、クレディア様は伯爵様だ。その体質が発覚した後に散々色んな方法を試したんだろう。それでも効果があったのがお酒だなんて……
「だが、あの日は違ったんだ。酒を飲む前に自然と眠りについていた。だから、君に聞きたかった。あの時、何があったのか」
「そういうことですか……でも、俺は本当に髪を拭いたくらいで特別なことは何もやっていないんです」
「……よければ、どんな風にしてくれたのか再現してくれないか」
「エッ!?」
まだやるとは言っていないのに、俺が固まっている間にシャワールームからタオルを持ってきたクレディア様はそれを俺に手渡して、あの時と同じように頭を俺に差し出した。
俺はクレディア様の後頭部を不敬にも見下ろしながら、どうして俺はあの時髪を拭こうと提案してしまったのだろうかと過去の行いを後悔していた。
だから言っただろうがとダッドさんの呆れた溜め息が聞こえてくるようだ。
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